杏里の暴露 「君は地雷」
汐留のメンズエステで働く23歳杏里は、掲示板や口コミサイトで地雷と噂されている。
杏里はソロで活動する地下アイドルである。
といっても、いつもライブに来てくれるファンは3人程度しかいない。
ファンがメンバーよりも2人多いだけだ。
いつか、ももクロのような国民的アイドルになることを夢見ている。
アイドルといっても、杏里はあまり可愛くない。
モアイ像に似ていると言われたこともある。
その上、少し頭が弱いのだ。
それでも、「可愛いね」とか「抜けているところがいい」などと3人のファンは言ってくれる。
メンズエステで働くことは嫌だが、生活のためには仕方がない。
事務所の社長がメンズエステで働けるように取り計らってくれたからにはやらなければならない。
なんでも、社長の友人がメンズエステのオーナーだということで、ろくに面接も受けずに採用が決まったのであった。
オーナーと初めて顔を合わせた日、オーナーの愕然とした顔が杏里の脳裏に残っている。
「本当にアイドルなの?」
と、訝しげに確かめられた。
杏里は極度に緊張する性格で、
「そ、そ、そうです」
と、口ごもった。
それから、研修の時の講師にも、
「あまりマッサージのセンスもないね。まあ、あの社長の紹介だから辞めさせるわけにもいかないのか……」
と、がっかりしたように言われた。
店のプロフィール写真は鼻から下しかわからないものの、輪郭をかなり修正して、まるで別人だった。
紹介文もSS級の美女と謳われていた。
いざ、初めての客がやって来た時には、「ホームページの雰囲気と違うね」とがっかりされた。
もっと露骨に「なんだブスじゃねえか」と言われることもある。
あまり気に入られないで、落胆させたり、怒らせたりすることが殆どだ。
店の方からも、「社長の紹介だから辞めさせるわけにはいかないから、どうにかして稼げるようにしろ」と圧力をかけられた。
それで、5000円の裏オプを作り、ヌキをすることに決めた。
しかし、それでも客は怒るひとがほとんどだった。
自分には5000円の価値もないということなのだろう。
本業の方でも売れる見込みはないし、メンズエステでも需要がない。
杏里は所属事務所の社長に相談をした。
「メンズエステでうまくやっていける自信がありません。どうすればいいんでしょうか?」
「ヌキはしているのか」
「はい、5000円で。でも、それでも怒らせてしまうことが多いです」
「じゃあ、5000円でもっとサービスしてあげろ」
「もっとって……?」
「自分で考えろ!」
社長は怒鳴った。
(そんなこと言われたって……)
杏里は地頭が良くないから、自分で考えろと言われても何をすれば良いのかわからない。
社長はいつも自分で考えろというけど、一番苦手なことだった。
だからこれ以上のサービスというともう本番をするくらいしか思いつかない。
杏里は仕方なく、
「5000円チップくれたら、エッチするよ」
と客に言う様になった。
それでも客はなかなかリピートしてくれない。
断られる事すらあった。
頑張っているのに一体なにがダメなのか、これ以上のサービスなんてしようがないし分からない。
社長に聞いても教えてくれないだろう。
杏里は困り果てていた。
ふと、以前社長にアイドルとして売れない理由はネットで自分の評判を見てみればわかると言われたのを思い出した。
杏里はスマホで自分が働いている店について書かれている掲示板のスレッドや口コミサイトを確認してみた。
すると、そこには杏里の容姿について、ぼろくそに書かれていた。
良いことは何一つとしてない。
5000円でヌキや本番をしていることも暴露されていた。
いくら金を貰っても、あんなブスな女とヤリたくないという投稿もあった。
杏里は自分が心底情けなくなり、涙がとめどなくこぼれた。
と同時に、何かが吹っ切れた。
その後、杏里の行方を知る者はいない。
メンズエステ、地下アイドル、どちらの業界からも蒸発した。
杏里の場合 〜完〜