
オーナー森脇の暴露 「セクハラ講習」
森脇はメンズエステ激戦区の中目黒、Nというメンズエステのオーナーである。
今日は中目黒のマンションの一室で、長身で目がくりっとした小顔の新人にスキルチェックの講習をしていた。
全くの未経験者だし特に美人というわけではないが、彼女だったらマッサージの技術以外でも客は来ると踏んでいた。
森脇は正直、どの新人セラピストにもマッサージスキルはそれ程求めていない。
「とりあえず、次からそのパンツはだめだよ。Tバックじゃないと」
森脇は仰向けで鼠径部の施術を受けながら、そのことを告げた。
「でも、わたし、Tバックってあまり履かなくて」
「えっ? うちの基本はTバックだから。ないなら今日買って帰りな」
森脇が当たり前のように言うと、新人セラピストが驚いたように目を丸くして、施術の手が止まった。
「それと、トップレスになって」
森脇はさらに付け加えた。
「……」
新人は唖然としている。
「面接の時に伝えていたと思うけど?」
実際はそんなことはない。
面接の時にそんなことを言ってしまえば、採用をしても店に来なくなってしまう可能性もあるので、スキルチェックの講習の時に伝えるようにしている。
それ以外にも、求人や面接の時に本当のことを伝えていないものもある。
たとえば、入店祝い金10万円や、バック率65パーセントなどというのは、ただ良い人材を面接に来させるためのツールとして使っている。
入店祝い金は月本指名数50本と、週に五日出勤を三ヶ月しないと渡さないと店で働き始めてから告げる。
いま講習をしている新人にも、
「そういえば、祝い金のことなんですけど、いつ貰えるのですか?」
と聞かれたので、いつも通りに説明した。
「そんな……」
新人セラピストはがっかりしたように肩を落とした。
「前まではちゃんとあげていたんだけど、貰ってすぐに辞めちゃう子が多くてね。赤字になっちゃうから制限を設けたんだ」
森脇はいつもの言い訳をした。
今まで渡したことなど一度もないのにも関わらず。
新人はやや不満そうな顔をしていたが、何も言い返してこない。
「あと、バック率なんだけど、新人期間中は45パーセントだから」
森脇はさらに付け加えた。
ちなみに、45パーセントというのは業界最底辺だ。
「……、みんなそうなんですか?」
新人は落ち込んだ顔できいてきた。
「そうだよ。これも面接の時に伝えているはずだけど」
森脇は押し通した。
彼女だけでなく、他のセラピストも皆同じ待遇だ。
対して美人でもない彼女たちは、他に行き場なんてないから我慢してここで働くしかないのだ。
ただ、ひとりだけ違うセラピストがいる。
モモという店の人気セラピストである。
彼女は元ソープ嬢で、森脇がよく通っていた女性だ。
「抜くだけでプラスαのお金がもらえるいい仕事だよ」
という誘い文句に、彼女は乗ってきた。
今では森脇の愛人でもある。
だから、彼女にはフリー客の優遇もしている。
他のセラピストには薄々感づかれているかもしれないが、森脇はそんなこと気にしない。
「セラピストでモモっているんだけど、彼女に会った時はちゃんと言うこと聞くように」
森脇は釘を差して置いた。
「わかりました。でも、どうしてですか?」
新人はきいてきたが、森脇は答えず、
「もっと紙パンツの中に手をしっかり入れてないとダメだよ。それじゃお腹を撫でているだけで気持ちよくならない」
と、鼠径部の施術についてあれこれ指導した。
講習の終盤が終わりに近づいてきた時、
「二度目の客には抜きをして」
と、言い放った。
「抜きって?」
「そんなことも説明しないとわからない? 本当はわかっているでしょう?」
「つまり、手で……」
「そう、それだよ」
森脇は新人の手を取り、自分の股間に持って行った。
彼女は一瞬嫌がる様子を見せたが、軽くため息をついてもう一度手をグッと引き寄せると、諦めたように従った。
こんな美味しい思いがタダでできるのはオーナーの特権だと、森脇は思っている。
このセラピストはもしかしたらもう出勤しないかもしれない。
だがそれでもいい。
セラピストなんて都内だけで1万人以上いるし、また面接に来た奴を採用するだけだ。
森脇は店の名前は伏せて、メンエスのオーナーをしていると公表したTwitterのアカウントを持っている。
オーナーという肩書きだけで、メンエス客のアカウントからは一目置かれる存在で、フォロワーは3000人程度いる。
セラピストたちからもフォローされており、もっともらしいツイートをすれば毎回『いいね』が100以上つき、コメントもくる。
Twitterで森脇はセラピストを大切にする素敵なオーナーだと思っている連中は、まさかこんな趣味講習をしている様な人間だとは露にも思っていないだろう。
森脇にとってこの仕事はやりたい放題だ。これほどの天職はない。
オーナー森脇の場合 〜完〜