ゆりの暴露 第2話 「魔の講習」
そして、翌日。
ゆりは緊張しながら、再びその部屋を訪れた。
「ようこそ」
と、笑顔で部屋に招き入れてくれたのは、三十代半ばくらいのロングの黒髪で、膝丈のワンピースを着た品のよさそうな女性であった。
後に知ることになったが、彼女はメンズエステ界では有名なHという講師だった。
廊下を伝い、奥のワンルームに入ると、バスローブを着た短髪の爽やかな男がいた。
「私の彼なんだけど、モデルになってもらうから」
講師が彼を指しながら説明し、
「よろしく」
と、彼が軽く頭を下げた。
ゆりは会釈で返すと、
「じゃあ、さっそく」
講師が合図をした。
それと共に、彼がバスローブを脱ぐ。
目に飛び込んできたのは、細マッチョな体と、薄い生地で横が大きく開いたペラペラの黒い紙パンツを履いた姿だった。
彼氏が横を向いた瞬間、隙間から男性器が見えていて、ゆりは思わず顔を顰めた。
部屋の真ん中に置かれたマットに彼氏がうつ伏せになった。
講師が彼氏の足元に正座になり、
「じゃあ、はじめます。この辺りで見ていて」
と、ゆりにマットに座るように指示した。
「はい」
ゆりが腰を下ろすと、講師はオイルの入った容器を手に取った。
それから、丁寧に動作を一つずつ教えてくれた。
体を密着させたり、圧を掛けずに撫でる様に体に触ったりと、これで本当に体が解れるのかと思う様なマッサージばかりであったが、ゆりはこれが今から自分が入る世界、メンズエステというものなのだと受け入れるしかなかった。
うつ伏せが終わると、四つん這い、それから仰向けになる。
彼氏が仰向けになった時、紙パンツが盛り上がっているのが目に入ってきて、ゆりは顔を背けた。
背けた先にあった鏡越しに彼氏と目が合う。
すると彼氏はゆりのことをじっと見ており、いやらしい笑顔を向けてきた。
「大丈夫?」
講師はそのことに気付かないのか、不思議そうな顔できいてきた。
ゆりは少し口ごもってから、
「大丈夫です」
と、答えた。
すると講師は何事もなかったかのようにマッサージを再開した。
ひと通り教わると、ゆりの番になった。
スケスケのベビードールに着替えさせられて、講師の指示の元、マッサージを始めた。
彼氏は最初と同じ様にうつ伏せに横たる。
だが最初とは違い、顔は横の全身鏡の方に向いており、また目と目が合った。
ゆりは視線を逸らしてから、オイルの入ったボトルに手を伸ばした。
人生で初めてマッサージオイルを手に取り、男性の体に広げる。
背中やふくらはぎの裏はまだ何ともなかったが、足の付け根に手を伸ばすときに、緊張して手が途中で止まった。
「もっと、奥まで手を入れて」
講師はゆりの手を取り、睾丸に手が掠れるくらいまで持って行った。
その時、彼氏の体が微かにびくつく。
「もう一度」
講師に言われ、今度はゆりが自ら彼の紙パンツの中に手を滑り込ませる。
何をやっているのだろうという想いと、少し気持ち悪いという嫌悪感が入り混じる。
こんなことまでするとは想像もしていなかった、といっても後の祭りである。
「もっと紙パンツの奥まで手を入れて」
自分ではちゃんとやっているつもりなのに、講師に何度も同じ動作を繰り返しさせられた。
「少しはよくなったけど、もっと振り切らないとダメ。今日は時間がないから、次」
講師は厳しい口調で注意した。
今度は彼氏は四つん這いになる。
四つん這いになった彼氏をゆりが後ろ方抱き抱える様な体勢で施術を行うと、彼氏の反り立った男性器がゆりの手の甲に当たった。
ゆりは意識しない様に、無心で講師の言われるがままにマッサージを続けた。
途中で、講師の携帯電話が鳴った。
「ごめんね、ちょっと電話してくるから。続けていて」
講師はそう言い残して、部屋を出た。
すると途端に彼氏が、
「ねえ、もっと奥まで当ててよ」
と言い出した。
「え?」
「いまのじゃ、客は喜ばないよ。握るくらいした方がいいよ」
「あの、でも…、ここはそういうお店じゃないですよね?」
ゆりは素直にきいた。
「男が何のために高い金払っていると思ってるの?」
「……、若い女性にマッサージを受けるためで……」
と、ゆりが喋っている最中に、
「君、何にもわかっていないな。風俗じゃ抜きがあるのが前提となっているから、それだとつまらないと思う客がメンズエステに来るの!」
と、遮るように口を挟み、なぜか彼氏は怒ったようにゆりに詰め寄った。
「でも、そんなの違法じゃ……」
ゆりは彼氏の変貌に驚きながらも言い返した。
学生時代に大して勉強をせず、日頃から世の中の出来事もラインニュースでくらいしか見ないが、それが法に触れるのだろうということくらい容易に想像がつくし、それをしたく無いからメンズエステに来たのだ。
そもそも、彼氏の理屈がわからない。
当店は風俗店ではございませんってホームページに書いてあるのに、風俗行為があるってどういうこと?
ゆりの頭の中はパニックになっていた。
「とにかく、触りなよ」
彼氏が顔をこちらに向けて恐ろしい形相で言い付けた。
「はい……」
ゆりは抵抗することもできず、震える手で、彼氏の股間に手を伸ばした。
その時、講師が帰って来た。
救われたと思ったのと同時に、講師にも触れと言ったらどうしようと不安になった。
「どう? ちゃんと出来ている?」
講師が彼氏に確かめた。
「全然だめ」
彼氏が吐き捨てるように言う。
「まあ、最初だから仕方ないでしょう。ごめんね、続きやりましょう」
講師が促した。
「あの、男性器に触らないといけないんですか」
ゆりは恐る恐るきいた。
「触れなくてもいいけど、キワキワのところを責めてみて」
講師は優しく言った。
ゆりはほっと胸を撫でおろし、そのまま指導を受け続けた。
それから三日後、
ついにゆりは初めて客を取ることとなった。
続く.........