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まりこの暴露 前編 「摘発」



 年の瀬も押し迫った底冷えのする寒い昼下がり。
 

 まりこは麻布十番の古びたアパートの一室で、マットにタオルを敷き、客を迎える準備を整えていた。

 

 一人目の客が来るまで、三十分ある。
 

 茨城に住んでいるまりこはここに来るまで片道一時間半掛けてきていた。

 いつもなら、十五分前に来て急いで客を迎える準備をするのに、この日はたまたま早く着いた。

 私服から制服の厚手の生地のミニスカートのワンピースに着替える。

 普段はパステルカラーの下着が好きだが、オイルで汚れるから仕事のときはいつも黒いTバッグだ。

鏡の前に立ち、ぽっこりとした下っ腹を引っ込め、角度を決めた。

 こうすれば、少しは細身に見える。
 

 まりこは自身で自分の客は容姿目当てで来ていないことくらいわかっている。

 三十三歳だが童顔と小太りで張りのある肌のおかげで、少しは若く見られる。

 

 だが、決して美人ではない。
 

 客はまりこの裏オプ目当てだ。

 裏オプとは、裏オプションを略した業界用語で、店を通して行っているものと、セラピストが独自に行っているもののふた通りある。

 裏というからには、性風俗的な違法行為を行う。

 セラピストによって、どこまでするかは違う。

 まりこの場合、一万円で客にコンドームをつけさせてセックスまでさせている。

 店側は客を取るためであれば、何をしてもいいというスタンスだから、バレたとしても文句は言われない。

 むしろ、容姿が劣っているまりこが固定客を捕まえるためには選択肢が限られているのだから仕方がない。

 普段は夜20時から朝5時まで出勤する。酒を呑んでから来る客も多く、セックスさえできればいいという目的がほとんどだ。

 昼間も都内の別の店で働いている。

 まりこがそんなに働くのはまだ食べ盛りの子どもふたりを抱えるシングルマザーだからだ。

 しかし、裏オプをしているからといって、予約が殺到しているというわけではない。

 昨日はひとりも客が来なかったし、今日の予約はこれから来る新規の客だけだそうだ。

 同じ店のセラピスト仲間には、出勤予定を出して数分で二週間分の予約が完売してしまうものもいる。

 そこまでいかなくても、当日だと予約いっぱいで入れないセラピストも少なくない。
 

 お目当てのセラピストに入れなかった客が仕方なしにまりこに入ってくることもある。
 

 はじめのうちは、それも悲しいと思っていたが、今では他人にどう思われようが稼ぐことが出来れば構わない。
 

 この時期だし、目当てのセラピストがいっぱいで、自分におこぼれがくるだろうと気楽に構えていた。
 
 



 そんな時、突然インターホンが鳴った。


 スマホを確認すると、予約の時間より十分近くも早い。

 店側は客に対し、時間ちょうどに来るように伝えてあるはずだが、気の急いた客もそれなりにいる。
 

このマンションはテレビ付きインターホンがないので、玄関に行き、ドアを開けた。


 すると、目の前にがっしりとした体つきの中年の警察官が立っていた。

 まりこは一瞬戸惑ったが、


「何でしょう」


 と、強い口調で言った。


「最近、このマンションに不審者が出入りしていると通報がありまして。何か知りませんか?」


 警官が訝し気にきいてきた。


部屋の奥を覗こうとしている目線であった。


「不審者? どんな特徴なんですか」


「いえ、そこまでは……」


 警官は言葉を濁した。

 マンションの住人が、この部屋に色々な男が入っていくのを不審に思って通報したのだろうか。

 それとも、ライバル店がこの店を潰すそうとしてタレコミでもしたのか。

 はたまた、この間新規で来た中年の客に裏オプを断ったことで、その恨みを買って通報されたのか。

 など、様々なことが頭の中で渦巻いた。
 


 まりこは不審者を見ていない旨を伝え、恐がるそぶりを見せると、警察官は帰って行った。







 それから一ヶ月後。


「実はお店が潰れまして……」

 と、店のスタッフの男性から電話がかかってきた。


「どういうこと?」


 まりこは驚きを隠せずにきいた。

 スタッフが言うには、ガサ入れがあったとのこと。


「なんで、こんなことになったんでしょう」


 力のない声で呟くスタッフの話を聞きながら、ひと月前に来たある客のことが脳裏を過った。

 続く.....

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