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【技術ショート】地図に描かれた想い ~GISを物語で知る~

今回は私の専門である地理空間システム(GIS)をあなたに知ってほしくて物語にしました。
ご意見・ご感想・ご要望をお待ちしています🙂


美雪は窓辺に佇み、遠く霞む山々を眺めていた。
その姿は、まるで地図上の一点のようだった。

祖父の遺品整理を終えたばかりの部屋には、懐かしい匂いが漂っていた。
古い地図と最新のコンピューターが、奇妙な調和を醸し出している。

美雪は深呼吸をし、目を閉じた。
祖父の温かい声が、記憶の中から蘇ってきた。

「美雪や、この世界はな、点と線と面で出来とるんじゃ」
幼い頃、祖父はそう言って地図の見方を教えてくれた。

目を開けると、机の上に祖父の古い地図が広がっていた。
その横には、最新のGISソフトウェアが起動しているパソコンがある。

美雪は、祖父から受け継いだ地理学の知識と、自身のIT技術を融合させようとしていた。
それは、祖父の遺志を継ぐための、美雪なりの挑戦だった。

彼女は、ゆっくりとパソコンに向かった。
画面には、美雪の故郷である小さな漁村の地図が表示されている。

美雪は、マウスを動かし、画面上の地図を操作し始めた。
ズームイン、ズームアウト。
まるで、人生を振り返るかのように。

彼女は、地図上に点を打った。
小学校、病院、そして祖父の家。
思い出の場所が、どんどんと地図上に現れていく。

次に、線を引いた。
通学路、祖父と歩いた海岸線、初恋の人と歩いた山道。
人生の軌跡が、地図上に刻まれていく。

そして、面を塗った。
広大な海、緑豊かな山々、活気あふれる市場。
生まれ育った環境が、色鮮やかに浮かび上がる。

美雪は、画面に映る地図を見つめながら、つぶやいた。
「ベクターデータとラスターデータか...」

祖父の声が、再び耳元で響く。
「ベクターデータは、人生の輪郭じゃな。ラスターデータは、その中身じゃよ」

美雪は、祖父の言葉の意味を、今になってようやく理解した気がした。
人生の節目や選択は、はっきりとした点や線で表せる。
しかし、日々の喜びや悲しみは、グラデーションのように連続的に変化していく。

彼女は、地図上に新しいレイヤーを追加した。
そこに、未来への希望を重ねていく。

新しい道路の計画、災害に強い街づくり、自然と共生する漁業。
美雪の描く未来図が、少しずつ形になっていく。

ふと、画面の隅に小さなエラーメッセージが表示された。
「無効な座標です」

美雪は、少し困惑した表情を浮かべた。
そして、祖父の声が聞こえてきたような気がした。

「座標系を間違えとるんじゃないかな」
美雪は、はっとした。

確かに、美雪は地理座標系と投影座標系を混同していた。
地球の曲面を平面に表現することの難しさを、身をもって体験した瞬間だった。

美雪は、深く息を吐き出した。
「人生も、地図と同じね。正しい見方で見ないと、歪んでしまう」

彼女は、エラーを修正し、再び地図を眺めた。
そこには、より正確な故郷の姿が広がっていた。

美雪は、画面に映る地図を見ながら、静かに微笑んだ。
この地図は、単なるデータの集まりではない。
そこには、人々の暮らし、文化、そして歴史が刻まれている。

彼女は、地図上のある一点にカーソルを合わせた。
祖父の家だ。
Shapefileとして保存されたその点には、様々な情報が含まれている。

住所、建築年、そして...祖父の思い出。
美雪は、属性テーブルに新しいフィールドを追加した。
「Memories」

そこに、祖父との大切な思い出を、一つ一つ入力していく。
釣りに行ったこと、星空を見上げたこと、地図の読み方を教わったこと。

美雪の目に、涙が浮かんだ。
データ入力の作業が、まるで祖父との対話のように感じられた。

ふと、美雪は画面の隅にある「共有」ボタンに気がついた。
彼女は、少し迷った後、そのボタンをクリックした。

この地図を、多くの人と共有したい。
故郷の魅力を、データを通して伝えたい。

美雪は、地図にタイトルを付けた。
「私たちの故郷 - 過去、現在、そして未来」

アップロードが完了すると、画面にメッセージが表示された。
「あなたの地図が、世界中の人々に共有されました」

美雪は、深く息を吐き出した。
祖父から受け継いだバトンを、彼女なりの方法で次の世代に繋いだ気がした。

窓の外では、夕日が海に沈もうとしていた。
美雪は、立ち上がってカーテンを開けた。

夕焼けに染まる海と山々。
その美しい風景は、どんなに精巧なGISデータよりも雄弁に語りかけてくる。

美雪は、静かに目を閉じた。
耳を澄ませば、波の音が聞こえてくる。

彼女は、心の中でつぶやいた。
「ありがとう、おじいちゃん。私、頑張るね」

美雪は、再びパソコンに向かった。
画面には、新たなプロジェクトの画面が表示されている。

「災害に強い街づくりプロジェクト」
美雪は、キーボードに手を置いた。

彼女の人生という地図に、また新しい一歩が刻まれようとしていた。
それは、過去と未来を繋ぐ、大切な一歩。

美雪は、深呼吸をした。
そして、新たな地図作りを始めた。



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Puuuii | 伝える技術と心理学で戦うデータエンジニア
え、チップくれるん? ありがとうなぁ! この恩は3日ぐらい忘れへんから🫡