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穴 リユウ

私の背中には
大きな穴が空いている
人には見えない穴
どんな穴なのか
見てみたい気もするけれど…

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私は影谷かげたにみづき 28歳
背中に穴は空いているが、普通に会社員として働いている。

いつから背中に穴が空いているのかは
知らない。
先日たまたま、すれ違った彼女『鈴山実優すずやまみゆ』に教えられて初めて知ったのだから。

「さっそくだけど、話聞かせてもらえますか?あれから気になっちゃって」

本当に気になって、何回も鏡に背中を写しては、穴を見ようとした。
もちろん見えるはずは…なかった。

「わかりました」
私達はドリンクとポテトセットを頼み
長期戦覚悟のフリータイム。

ふーっと実優は息を吐き出してから話し始めた。

「必ず見える訳ではないけど、背中に穴が空いている人を何人か見た事があります。
すれ違っただけの他人の場合もあるし、身内の場合も…」

私はうなずくだけにした。
話の先を早く聞きたかったからだ。

実優みゆはアイスコーヒーを一口含むと、また話しだした。

「私が穴の存在をはっきり知ったのは、
久しぶりに祖母と会った時でした。
祖母の背中に穴が空いているのを
見たんです。
穴の中は真っ暗なんですが、何にも見えないのに、何かがうごめいてるのを感じました。祖父が亡くなって、しばらくしての事でした。」

「私は母に伝えました。」

「母は私をじっと見て、
大丈夫、そのうち収まるから。でもそれが止まってからが心配なのよ。
空っぽになった穴は早く塞がないと
悪い気が入ってくるから。付け込まれるのよ。と、言ったんです。」

実優は自分を抱きしめるように、両の手を体にまわした。

「付け込まれる?何に?」

「何ていうか…人間が1番怖いって事ですかね…」

人間って…

「だから、みづきさんの穴を見て、そのまま何も言わずに通り過ぎる事が出来なかったんです。
あの時は本当にすみませんでした。」

「ただ、私は見えるだけで何も出来ないんです。気をつけてと言う事しか…」

「こちらこそ、教えてくれてありがとう」

私は少しうわの空で返事をした。

穴について、なんとなく想像が付いてきたからだ。


絶望的な、命を削るような哀しみ…
哀しみが
別れが
絶望が
穴を空けるのか…
私にも思い当たる節があった。

最愛の父との別れ

今もまだ
哀しみの真っ只中に
私はいる。

それを実優みゆに聞いてみたが
多分そうだと思うが、はっきりした繋がりはわからないとの事だった。

そしてそれ以上、私の背中について
有力な情報はなかった。

私達は何かあったらまた会おうと約束をし、その日は別れた。


その日の夜
懐かしい声から電話が来た。

親友の谷中直美やなかなおみ
最愛にして最高の親友だ。

久しぶりに近くまで行くから
ランチしようとのお誘いだった。
その時、直美は何か言いたげだったが
明日直接話すから、と、電話を切った。

何の話だろう?
とにかく私は久しぶりの再開に
わくわくして、久しぶりに背中の穴を忘れたのだった。


続く


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