〜絶対売らない100枚〜 No.7
Today / Galaxie 500
「絶対売らない」と銘打ってこのシリーズをダラダラとやっているが、売るだの売らないだのという部分を通り越した、大袈裟にいえば自分の分身というか、身体の一部でもあり、心の奥の一番大事なところに根を張ってしまっているような、何故かそんな風に感じてならない音楽がある。今回取り上げることにしたギャラクシー500は、自分にとってはそんな音楽のひとつ、かもしれない。
とにかく何度聴いても奇跡的な音である、バンドマジックと言うほかない。彼らが残した3枚のアルバムはどれも素晴らしいが、私はとにもかくにもデビューアルバムとなったこの「Today」が昔から今に至るまでの愛聴盤となっている。いっそギャラクシーはこの一枚で終わっても良かった、そう思ってしまう時さえある。VU直系だの、ドリームポップだのシューゲイザーだの、色々と語られることは多いが、正直そんなことはどうでもよろしい。やはり、私の中では特定のジャンルで語りきれるバンドではない。特にこの「Today」の中に収められた楽曲の圧倒的なジメジメ感が大好きだった、なんにもやる気が出ず布団から出られないような、誰もが寝静まった夜中に町をあてどなく彷徨うような、絵に描いたようなダメな青春。それはまさしく私自身のことでもあり、そんな自分の心に抱えるモヤモヤに丁度ピタリと当てはまる平凡で冴えない毎日しか送れない自分の為のサウンドトラックのようなものだった。
しかし重要なのはただ単に暗いだけでなく、そこには音を奏でたり歌ったりすることへの直向きさがあり、その青白い情熱は喜びや悲しみや希望や絶望、躁と鬱とその他諸々の複雑な感情と交錯していく。その有り様があまりにも、あまりにもリアルだ。内面と演奏の方向性がピタリと一致してそこに迷いもズレもない、本当の「歌」である。おそらくプロデューサーのクレイマーによる「演出」もあっただろうし、演奏技術的に見て決して達者とは言えないが、歌う必要のある人間はスキルも何も関係なくやはり「今」歌わなければならないのだ、今の自分を誤魔化さず今の自分で自分の歌を歌う。ギャラクシーが、ディーンがやったことはそういうことだと信じている、その意味で襟を正して聴くべき一枚かもしれない。
ギャラクシー500の音楽の素晴らしさ、この「Today」の素晴らしさ、メロディの儚さ、奏でられるギターの音の美しさ。これら全てを共有出来ない人とは、別に仲良くは出来るだろうが本当の意味で分かり合えることはない、なんとなくそんな気がする。30近くになった今でも、「Tugboat」のリバーブの中で揺らめく『It's a place I'd like to be...』の繰り返されるフレーズを聴いていると20代前半だった頃の風景まで丸ごと持っていかれてしまう。
余談ではあるがこのギャラクシー500を知った時、私はまだギリギリ十代だった。ギャラクシーが解散後にルナとデーモン&ナオミに別れたことの意味が当時の鈍い私には皆目見当がつかなかった、そんな思い出がある。バンドの最後としてはあまりに俗っぽい残念な終わり方かもしれないが、今となってはそれで良かったのだと思う。いやむしろ、ほんの一瞬でもこの3人が出会い、奏で、歌い、この世に残した思いに私が出会えたこと、その事実だけでいいのだ。それだけあれば他の何もかもはどうでもいいことだなと改めて感じている。