サウナ空間の進化と可能性 〜ただのブームで終わらせない〜
サウナ施設には、まだまだ大きな成長の余地があります。特に、空気の流れを再設計することで、同じ施設でもより快適で心地よい空間に生まれ変わる可能性があります。日本各地のサウナが、この「フレッシュエアー」の概念を取り入れることで、サウナ初心者や苦手な人でも入りやすい場所が増え、サウナ文化がさらに広がると信じています。息苦しくなく、心地よく過ごせるサウナこそ、誰もが楽しめて、心身ともに健康になれるサウナだと考えています。
サウナに惹かれたキッカケ
私がサウナに興味を持ち、深く関わるようになったのは、あるプロジェクトがきっかけでした。設計事務所として知床の宿の設計を担当した際、サウナ小屋の監修を手掛けたのは、長野県野尻湖にあるLAMP/The Saunaの支配人、野田クラクションベベーさんでした(以下べべさん)。彼とのやり取りを通じて完成したサウナに入った瞬間、今まで体験したことのない最高の感覚を味わい、本格的なフィンランド式サウナの魅力に目覚めました。「これなら、サウナが苦手な人や初心者でも楽しめる」と感じたのです。
サウナに対する誤解とその魅力
実際に、私の周りにもサウナに入る人は少数派です。多くの人が「暑さが苦手」「水風呂に入れない」といった理由でサウナに対してネガティブな印象を持っています。私自身も、当初は水風呂が苦手でした。しかし、サウナは一度や二度入っただけでその良さがわかるものではありません。何度か体験を重ねるうちに、サウナの心地よさが徐々に感じられ、次第にハマっていくものです。
サウナ体験の多様性
ここで強調したいのは、サウナの楽しさは「サウナに何分入るか」「水風呂に何分入れるか」というルールにとらわれる必要がないということです。サウナの温度、湿度、ベンチの位置などで体感が大きく変わります。また、施設自体の環境によっても大きな差が生まれます。いわゆるドライサウナのような温度が高くて空気が乾燥していると、そこで長時間快適に過ごすことは難しいでしょう。ただ、これについては個人個人の好みの話にもなってきます。独自に進化した日本のサウナと、歴史があり市民の生活に根付いたフィンランド式のサウナを単純に比較することはできません。私個人が最高に気持ちの良い体験ができたのがフィンランド式のサウナだったので、もし日本式サウナに入って苦手意識をもっている人がいるのであれば、絶対に一度はフィンランド式のサウナを体験していただきたい。イメージがガラッと変わるはずです。
サウナ空間における「フレッシュエアー」の重要性
この点で、べべさんとのやり取りで頻繁に話題に上がったのが「フレッシュエアー」という概念です。サウナはただ熱さに耐える場所ではなく、新鮮な空気が取り入れられた、心地よい空間でなければなりません。この「フレッシュエアー」があることで、サウナは単なる熱さを我慢する場所から、友人や家族とのコミュニケーションを楽しんだり、自分自身と向き合える場所に変わります。時間にとらわれず、心地よさを追求することが大切なのです。
フレッシュエアーとは
ただでさえ限られて空間に汗だくの人が何人もいたら空気が汚染され、CO2濃度も高まってしまいます。サウナに長く入れない、苦手だという人がいたとすれば、それはその人の体の問題ではなく、ただ単に「息苦しかった」ことが原因である可能性もあります。
そこでフィンランドで重要視されているのが「フレッシュエアー」、つまり「新鮮な空気」のことです。新鮮な空気をどうやって取り入れて循環させるか、そして汚染空気を外に出すかという空気の流れのデザインをします。そしてさらにサウナストーブの熱源が電気 or 薪で考え方が変わります。薪であれば、煙突があり燃焼によって空気が自然と循環するので考え方はシンプルです。一方、多くのサウナ施設が電気(もしくはガス)であることが多いため、ストーブがあるだけでは空気が動きません。給気口、排気口、換気口を適切な位置に適切な大きさで設計する必要がありますが、今現在それが慎重に計画されている施設は残念ながら非常に少ないというのが現状です。
サウナ設計の未来
ここまでフィンランド式サウナを推してますが、日本式サウナを完全に否定するつもりはありません。フィンランドで長く培ってきた技術と文化の積み重ねを尊重しつつ、日本の文化と重ね合わせた時にサウナ空間はさらに進化できると思っていて、そのためキーワードが「フレッシュエアー」だと確信しております。今まだサウナに入ったことがない、サウナが苦手という人も含め、より多くの人が快適に楽しめるサウナが増えることを願っています。
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