一曲目が何気にハイライトって話
BTSのアルバムは順番に聴くことで真の力が発揮されます。
まるで人の生きる流れのように。
まるで物語を辿るかのように。
short ver.だとしてもremixだとしても、introからoutroまで聴くことで初めてそのアルバムのストーリーをちゃんと読み終えたことになる。
彼らの曲を聴いていると、きっとそれがあるべき姿なんだろうと感じられます。
슈취타第1話での
「1〜10번까지 순사에 이유가 있거든요(1〜10番までの順番に全て理由があるんですよ)」
というキムナムジュンの言葉を思い浮かべてみても、そのことがよく分かります。
ちなみに物語を読む中で一番重要なポイントとなるのは“第1章”です。
これから始まる話に必要な情報が全て詰まっているのは最初の導入(イントロダクション)だから。
今回は、Agust Dのふたつめの物語の始まりについての話を少し。
저 달(Moonlight)
3년이 지났네
3年が過ぎたね
Agust D
Agust D
솔직히, 몇 곡 넣을지 잘 모르겠어 걍
正直、何曲入れたかよく分からねえな なんだ
씨발, 걍 하는 거지 뭐
畜生、ただ何となくだよもう
시작은 초라했지 대구 그래 남산동
始まりはしょぼっちい大邱 そう南山洞の
지하 에서 이제는 펜트하우스 한남 더힐
地下から今ではペントハウス“ハンナムザヒル”
아직도 꿈에서 깨지 못하는 피터팬
今でも夢から覚めないピーターパン
내 머릿속 현실은 이상과 싸워 지겹게
俺の頭ん中で現実が理想と争うのは うんざりするみたい
내 가장 큰 적은 속 안의 화
俺の最も大きな敵は奥底にある怒り
그보다 더 지독한 내 안의 게으름과의 싸움
それよりもっとひどいのは 俺の中にある怠惰との戦い
가끔씩 신께 원망해 왜 이런 삶을 살게 한 지
時折神様を恨む なんでこんな人生生きてんのか
내가 뭐를 하는지 음악은 사랑하는지
俺が何かしたのか 音楽は愛してんのか
가끔씩 되물어 돌아갈 수만 있음 돌아갈 거냐고
時折問い返す 戻る方法さえあれば戻るのかって
글쎄 그건 고민 좀
どうだろう それは悩むなちょっと
내가 가진 게 쉽게 얻은 것 같다가
俺が持ってるもんは簡単に得られたらしいな
시발 개 고생 한 거 보상받는 것 같다만
クソほど苦労したのが報われたようなもんってだけだ
난 아직 고파 이게 업보인가
俺はまだ足りない これが報いなのか
존나 높게 나니 느껴지는 공허함
くっそ高くなって感じる空虚感
남산동에서 시작한 지 10년은 더 지났지만
南山洞から始まって10年も経ったけど
그때랑 똑같네 머리가 복잡한 건 Fuck that
あの頃と変わらず頭の中はぐちゃぐちゃだよ畜生
새벽에 맞는 저 달빛
夜明けに似合うあの月の光
여전히 그때와 같네
いまだにあの頃と変わんないな
내 삶은 많은 게 변했지만 뭐
俺の生活は色んなことが変わっちまったが
저 달빛은 여전히 그대로라고
あの月の光はいまだにそのままだよ
새벽에 맞는 저 달빛
夜明けに似合うあの月の光
여전히 그때와 같네
いまだにあの頃と変わんないな
변화는 모두에게 필연적이지
変化する全てのもんは必然なんだろう
어떻게 변해가는지가 우리의 업일지도
どうやって変わんのかは俺ら次第かもしれない
가끔씩 내가 천재인 것 같다가도
時折俺は天才みたいな気になるけど
가끔씩 내가 재능이 없는 것 같기도 해
時折俺は才能が無いような気にもなる
어떨 땐 곡이 미친듯이 나오다가 다시
どうすれば曲が狂ったように出てくんだ また
막힐 때는 한없이 또 막히더라구 맞아 지금도
詰まるときはどこまでも詰まんだ ほら今だって
Verse1 은 존나 빠르게 썼는데도
1番はめちゃくちゃ早く書いたのに
Verse2 는 진짜 안 나오네 쥐어짜도
2番はマジで出てこなくて絞り出してる
인생도 마찬가지겠지 모 아니면 도
人生も全く一緒だろうな 一か八か
어차피 평행은 없어 선택의 문제라고
どうぜ変わんない問題だろ
영원은 존재하지 않겠지 그 무엇도
永遠は存在しない 何であっても
불멸의 존재는 존나게 부담스럽고
不滅の存在とかすげえ気が重い
그냥 음악이 좋아서 시작한 게 단데
ただ音楽が好きで始めたことだけど
내게 붙이는 수식어들은 가끔은 버겁네
俺についた修飾語たちは時に手に余る
어쩌겠어 그냥 달려야지 뭐
どうするって ただ走ってんだ
어쩌겠어 받은 건 갚아야지 뭐
どうするって 貰ったもん返してんだ
부딪힐 것 같으면 더 세게 밟아 임마
ぶつかってくんならもっと強く踏んづけてやるよこの野郎
새벽에 맞는 저 달빛
夜明けに似合うあの月の光
여전히 그때와 같네
いまだにあの頃と変わんないな
내 삶은 많은 게 변했지만 뭐
俺の生活は色んなことが変わっちまったが
저 달빛은 여전히 그대로라고
あの月の光はいまだにそのままだよ
새벽에 맞는 저 달빛
夜明けに似合うあの月の光
여전히 그때와 같네
いまだにあの頃と変わんないな
변화는 모두에게 필연적이지
変化する全てのもんは必然なんだろう
어떻게 변해가는지가 우리의 업일지도
どうやって変わんのかは俺ら次第かもしれない
以上が今日のお話のメインとなる저 달(Moonlight)の歌詞となります。
それではここからこの曲を通してユンギさんの二つ目のソロミックステープであるD-2について、そして何より思わず聴き惚れてしまうこの曲の魅力について考えてみたいと思います。
アルバムについて
저 달(Moonlight)は2020年5月22日に公開されたユンギさんのソロ名義であるAgustDの2ndミックステープ<D-2>の収録曲です。
D-2はアンチへの攻撃的なメッセージだけではなく変化した環境に対して感じていることや曲を書いたユンギさん自身の人との向き合い方について、幅広い曲調で表現されています。
前作は急激に人気が上昇した時期に制作されたものであり、アイドルという立場ではとても話せないような激しい怒りや自身の暗い過去についてを中心に書かれていました。
ソロ曲に限らず、ユンギさんの歌詞は伝えたいことをかなりストレートに書く傾向があります。
AgustDとして出す曲は荒々しい口調が目立ちますが、IUのpaletteでその理由のひとつとして
「‘あれくらいなら弱いよね’というキャラになってしまった」
と話していました。
彼の書く歌詞は、ほとんどがグループ曲であるcypherのような圧倒的な煽りや攻撃性のある言葉よりも内面の傷や弱さを多く吐き出しています。
いくら過激な言葉を使っても一種の防衛機制のように見えることが、メッセージの伝わり方に大きく影響しているのかもしれません。
その中でも、D-2は問いかけで締め括られる曲が多いです。
周りの人々へ考えを促すような問いかけもありますが、自分でもまだ答えを探している途中なのではないかと感じられるものもあり、どこか不安定な様子に惹き込まれます。
BTSはDynamiteの異次元のヒットによりさらに高みへ上り詰めましたが、ユンギさんがD-2に収録されているほとんどの曲を完成させたのはグループで初めて休暇を取った時期でした。
D-2よりも先に発表されたMOS:7や当時を語ったユクイズ(2021年放送)では、誰もいない場所へ7人だけで上がり続けることへの恐怖について多く言及しています。
5月に宿舎の自室から配信されたVライブでは
「もう怒っていることはない」
と話していたように、攻撃性の強い楽曲は10曲中たった2つしかありません。
1stミックステープであるAgustD(VライブでユンギさんがD-1と呼んでいたことから以降はD-1と呼びます)でのシグネチャーとしてひとつ金髪が挙げられますが、MVで言うところの金髪AgustDの別名は怒りだとVライブで語られています。
楽曲の様子やVライブでの話からもD-1の最も大きなテーマが怒りであることが伺えますが、D-2のテーマと考えられる黒髪になったAgustDの別名の答えはD-DAYにてユンギさん本人の言葉で教えてもらえるのだろうと思います。
歌詞について
この曲では現在進行形で曲を書いているユンギさん自身の苦悩が描かれていると感じられます。
歌詞を読んでみると他の曲でも感じられる思考が所々垣間見えることが最大の特徴と言えます。
Vライブによると元々アルバムの一曲目にする予定ではなかったそうですが、
「3년이 지났네(3年が過ぎたね)」
「막힐 때는 한없이 또 막히더라구 맞아 지금도(詰まるときはどこまでも詰まんだ ほら今だって)」
「영원은 존재하지 않겠지(永遠は存在しない)」
といったようにAgust Dとしての活動全体への言及や他の曲と同じメッセージがあることから、やはりこの曲は一曲目に相応しいと言い切れるのではないかと思います。
アルバムについての話の中で
金髪AgustD(過去のミンユンギ)は“怒り”を表現していること、そして黒髪AgustD(現在のミンユンギ)は何を表現しているかは明かしていないこと
について紹介しましたね。
(この記事はD-DAYの発売前に書いているものなので、歌詞に基づいた解釈を中心にお話しします。)
저 달(Moonlight)では、“怒り”を
「내 가장 큰 적(俺の最も大きな敵)」
と表現しています。
AgustDやGive it to meなどD-1の楽曲ほとんどから、窺い知ることもできるでしょう。
また、支配されて苦しんでいたはずの“怒り”や“嫉妬”は皮肉にも彼にとって最も大きな原動力となっていることが、Give it to meの歌詞だけではなくPROOFのインタビューからも分かります。
저 달の歌詞の中で“怒り”と対比させるように書かれていた歌詞は、「내 안의 게으름과의 싸움(俺の中の怠惰との戦い)」です。
つまり過去のミンユンギとの対比であり저 달に描かれる一つのテーマでもある現在のミンユンギを支配するものが“怠惰”なのではないかと考えられます。
D-2の発表後に撮影されたBTS in the soopでは、唯一の歳上メンバーであるJINとの話の中で
欲を出し、踏ん張り、誰にも届かないほどの高みへ辿り着いたことへの後悔を溢していました。
自分自身を証明するために人一倍情熱を込めて音楽と向き合ってきた彼の
頑張りすぎていたのかもしれない
という一言はあまりに重いものでした。
束の間の休息として過ごしていた番組で楽しい時間の合間に出てきた言葉だからこそ、彼の心を常に支配しているのはそのような不安や後悔なのだろうと思わざるを得ません。
(そのときはジンくんが本当に温かいアドバイスをしていましたね。少なからず今のユンギさんの糧になっている部分もあると思います。)
あの話から憶測するに、ここで言う“怠惰”とは
怠けたい
サボりたい
やりたくない
といった意味ではなく、
今よりも上に行くのが怖い
プレッシャーから解放されたい
といった不安のような意味合いが大きいように思います。
グループの業績に対してはいつも自信たっぷりで、デビュー当初からいつも評価や結果を気にしていたゆんぎさんですが、それは不安や恐怖の裏返しなのかもしれないですね。
しかし、今では変わってしまったことの方が多いですが、“あの月の光”のように変わらないこともあるのは確かです。
そしてそれは歌詞にも表れています。
歌詞を訳していて特に目についたのは
「부딪힐 것 같으면 더 세게 밟아 임마(ぶつかってくんならもっと強く踏んづけてやるよこの野郎)」
というフレーズ。
なんと花様年華pt.2の1番トラックNever Mindにある歌詞が、まるっとそのまま登場しています。
ユンギさんはSUGAとしてもAgustDとしても他の曲から歌詞を持ってくることが多くあります。
(2020年5月のVライブでは「また歌詞を持ってきて〜」なんて皮肉を言っていましたが、一度使ったことのあるフレーズを自然と曲に落とし込み過去との対比をより鮮明に浮かび上がらせることが出来るこのやり方は、ユンギさんの歌詞作りの中でも特に粋な手法であることは間違いないです。)
저 달ではD-1を発表した時期との対比が描かれている印象があります。
D-1であるAgustDが発表されたのは、Young Foreverの活動期後。
Young Foreverやその前の花様年華pt2の活動期から推測するに、AgustDとNever Mindは作られた時期が近いことが考えられます。
새벽에 맞는 저 달빛(夜明けに似合うあの月の光)
여전히 그때와 같네(いまだにあの頃と変わんないな)
という歌詞、そしてそれをずっと考えるかのように回る思考と共に進む歌詞から、花様年華期のユンギさんから変わらないこともあるというメッセージがあるのではないかと思います。
彼を取り巻く環境が変わり、彼を見る目が変わり、彼のもつ肩書きも変わりました。
あのときにあった怒りはなくなり、怠惰と戦うようになった現在。
それでも変わらないもののひとつである、一種の闘争心のようなものを表しているのがNever Mindから来た歌詞だと言えるのではないでしょうか。
まとめ
今回は저 달(Moonlight)の歌詞から簡単な考察をちょっぴりだけお話ししました。
D-2というAgustDの2つ目の物語、その導入であるこの曲には1曲目にふさわしく沢山の情報が詰め込まれていることが分かります。
1曲目で過去を振り返り現在についての大枠を語っているからこそ、以降の曲がすんなり受け入れられるようになるのではないでしょうか。
また、比較的穏やかな感情が込められているD-2の開幕としてピッタリな穏やかな曲調であるところはこの曲のとても好きなポイントのひとつです。
D-2といえば대취타や사람などの特に有名な曲ばかりが思い浮かばれることが多いですが、BTSのメンバーの作ったミックステープらしく物語性の強い構成となっているため、やはり1番トラックから10番トラックまで順番に聴くことで曲のもつメッセージがより鮮明に浮かび上がります。
あまりフィーチャーされることはありませんが自分にとってはお気に入りの曲のひとつなので、この記事をキッカケに興味をもってくださる方が1人でも増えると嬉しいです。
D-DAYのプロモーションにあたって過去のミックステープについての話を沢山されていたのでインタビューなどをもっと盛り込めたらよかったのですが、それは他の曲で触れられたらと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。また次のお話でお会いしましょう。