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村崎逞
2020年6月15日 13:14
プロローグ『染み入る様な退屈と走らせる自転車と夜。』 自転車を漕ぎ、片田舎のどこまでも続く田園風景を脇目に夜道を帰っていた。暗黒に響くのは、蛙達の大合唱と時折、風でかさかさと音を立てて揺れる稲穂だけだった。お決まりの帰路を陽気に鼻歌混じりに行く彼の名は、常磐哲〈トキワサトル〉。彼が齢十八の夏の事である。この、清条ヶ丘には最近できた新興住宅地と、その奥まった山手に古くから立ち並ぶ古民家の地