プラプラ堂店主のひとりごと⑭
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜
ブリキの米びつのはなし
うちの店で、よく売れる、持ち込みされる商品は陶器が多い。皿、湯呑み、カップ、花器、壺などなど。前に買い取った金継ぎの大皿に出会ってから、自分でも皿やカップの焼き物を意識して見てまわるようになった。自分で使う食器類もだんだん好みがはっきりしてきたり。
でも、今日は珍しい持ち込みがあった。ブリキの箱だ。
「これ、米びつだったようなんです。もう、長いこと使ってないんですが」
持ち込んだ人はそう言っていた。軽い。手にすると、シンプルな長方形の箱から、確かにあの音が聞こえてくる。ぼくはもちろん、買い取った。
「ざああーっと、お米が入ってきて、ずっしりと満たされる幸福感といったら!」
米びつは、うっとりと言った。
「わたしの中にちゃんとお米があることが、家族の安心に繋がるのよ。お米は主食なんですからね」
「だから、あと少しでそこが見えそうになるとハラハラしたもんだわ。もうお米がなくなっちゃう。みんな大丈夫かしらって」
「毎日パカっと蓋が開いて、さくさくっと升でお米を図る音も好きだわ」
ぼくが相槌を打つ間もないほど、米びつはどんどんしゃべる。たぶん、とてもいい家庭の中で使ってもらっていたんだな。楽しかった思い出話ばかりだ。長く使われてないことに恨みはないんだと安心した。それでつい、余計なことを聞いた。
「使われてない時は、寂しくなかった?」
「…長いこと、寂しかったですよ。だから、寝てました。果報は寝て待てってね。そのうちきっと使ってもらえるって、あたし信じてますもの」
うっ、すごい。かっこいいよ、米びつさん!ぼくは完全ノックアウト状態。軟弱なぼくとは全然ちがうな。爪の垢煎じて飲ませてください、という気分だ。
そういえば。また自炊を再開して、ぼくの気持ちはとても安定した。毎日、ご飯を炊いて食べる。これって、とても大事なことなのかもしれない。そう思うと、この米びつが使いたくなってきた。でも、きっと何人もの家族で毎日きちんと使ってもらっていたのに、一人暮らしの男の家なんて。イヤ、だろうなぁ。でも。
ぼくはおそるおそる聞いてみた。
「あの、もし良かったら、ぼくが使ってもいいかな?一人暮らしだし、毎日米を炊くとはいかないと思うけど。でも、ご飯作りが今、だんだん好きになってて。いや、まだレパートリーも全然少ないんだけど。だから一緒にいられたら、こころ強いなぁなんて思って…そのぉ」
「いいですよ!」
米びつは、キッパリと言った。
「条件がひとつあります。お茶碗のお米は一粒残さず食べること!一粒のお米には、八十八の神様が入っていますから」
「ありがとう!うん、約束するよ」