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プラプラ堂店主のひとりごと㉑

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜

石の記憶のはなし

 休みの日。ふと思い立って、南富良野のかなやま湖に向かった。夏はキャンプ場で賑わう場所だ。キャンプをしたことはないけれど、車で通ってすごくきれいな場所だった記憶があるから、思い出したのかもしれない。

 札幌を出た時は道路に雪はなかったけれど、占冠のあたりからだんだん雪が降り出し、あたりはうっすらと白くなっていく。タイヤ交換は済ませてあるけど、気をつけなくちゃいけないな。

 かなやま湖に着いた時は、昼前だった。夏の間は湖畔の入り口がラベンダー園になっている駐車場に車を止めた。もちろんラベンダーは時期を過ぎていて、この時期はほとんど車はない。でも、山すそに広がる湖は水墨画のように美しかった。車を降りて湖まで歩く。寒い。遠く向こう岸の湖の中に人影が見えた。こんな時期に水泳!?まさか。よく見ると、釣りのようだ。防水スーツを着ているんだろうけど、体の半分が水に入った状態で、釣り糸を垂らしていた。そういえば、このあたりはイトウが釣れると聞いたことがある。けど、こんな寒さの中釣りとは…。よく見るとあちこちに釣人がいた。何台か止まっていた車は釣りの人たちだったんだな。釣り以外にこんな時期にここに来る人はいないようだ。そういえば思い立って来たものの、なんの目的もないんだよなぁ。目的のないドライブは好きだけれど、この寒さ。なんだか侘しくなってくる。雪はしんしんと降り続いて、足元の小石は半分白くなっていた。ぼくは丸い石を一つ拾うと、ポケットに入れた。

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 車に乗って昼ごはんの店を探すも、どこも閉まっている。コンビニで聞いてみると、このあたりは日曜は休みの店が多いらしい。ああ、なんてこった!とりあえず、コンビニでホットコーヒーを買って車の中で飲んだ。

「は〜…」

 ポケットの石を取り出す。直径は5センチくらいだろうか、掌に収まる平らな丸い石。青みがかった薄い灰色でなかなかきれいな石だ。前に(石の記憶)の話を読んだことがある。石は、周りで起きた全てのことを記憶している。石を手にして目を閉じると、その石の記憶が見えてくる…という話だった。主人公が、石の記憶を見ることができる石の図書館へ行って、いろいろな石の記憶を見て歩くんだ。触る場所によって、見える記憶が変わってくるという話だったと思う。ぼくも石の図書館に行きたいと思った。その本(漫画だったと思う)を読んでから、どこかへ行った時、ぼくは石を拾って帰る。いつか、その石の記憶を見たいと思って。物語の最後には、こう書いてあったっけ。

(心を静めること。心が静まれば、石の記憶は誰でも見えてくる。)

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そうだ。ぼくはもう古い道具たちの声だって聞くことができるんだゾ。石の記憶くらい、もう見えたって、不思議じゃない。よーし…!

ぼくは石を手に握って、心を静めてゆく。ゆっくり、静かに、静かに…。

ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

ぼくは、一人でずっこけた。腹が減っては、、何にもできんなぁ。とりあえずは、昼飯だ!ぼくは愛車のエンジンをかけた。



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加藤真史
ありがとうございます。うれしいです。 楽しい気持ちになることに使わせていただきます。 また元気にお話を書いたり、絵を描いたりします!