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「あなたの孤独に心から同情します」アンナチュラル感想
先日「MIU404」を見てすごく面白かったので、脚本家の野木亜紀子繋がりで「アンナチュラル」も一気見した。続きが気になるくらい面白かったけど、正直言えばMIU404のほうが好みでした。
でも最終回のこの台詞がすごくよかった。
そういえばMIUの「俺はお前たちの物語にはならない」も、広義的には似たような意味なのかもしれない。
犯人の気持ちなんて分かりはしないし
あなたのことを理解する必要なんてない
不幸な生い立ちなんて興味はないし
動機だってどうだっていい
ただ 同情はしてしまいます
このかわいそうな被告人に
被告人は今もなお 死んだ母親の幻影に苦しめられています
30歳を過ぎてもなお 子供の頃のまんまなんです
誰も彼を救えなかった
あなたも 自分自身を救えなかった
あなたの孤独に 心から同情します
犯人の高瀬はそれまでは自分は殺していないと供述していたのだけれど、ミコト(石原さとみ)にお辞儀をしながらこの台詞を言われた途端に「やりたくてやった」「誰に言われたわけでもない、殺したくて殺した」「俺にしかできなかった」と主張を一転させる。それまでは自分の殺人行為には証拠がないから逃げ切れると思っていたのに、捕まりたくないはずなのに、逮捕されるよりも嫌だったのが「同情されること」。そこがすぐにはピンとこなくて、考えてみた。
そもそも「同情」と「共感」の違いはなんなのだろう。
なぜ高瀬は同情されることを嫌がったのだろう。ミコトはなぜ中堂には「同情しない」と言い放ったのだろう。
「同情」は自分が処理しやすい物語に相手を当てはめ、「辛いんでしょ」と相手の感情まで決めつける行為。相手の実際の気持ちなど関係なく、憐れむこと。
「共感」は相手の身になって考えるという点では同情と近いけれど、相手の感情は相手のものと尊重し、「こう思ってるんでしょ」と決めつけない行為。相手の気持ちを聞いて「そうなんだね」とただ聞くことのほうが共感に近いのかもしれない。
同情されるのは腹立つよね。揺るがない「かわいそうな人」というレッテル貼りましたって面と向かって言われているようなもの。あからさまに下に見ている。「あなたは自分で自分の人生を切り開く力がないのですね」と言っているようなもの。
ミコトは物語序盤で母(薬師丸ひろ子)に恋人や同僚に自分の過去を話したのかと聞かれるのだけど、結局、物語の最後までしなかった。でもそれはそれでいい。
神倉所長(松重豊)も、中堂(井浦新)も、東海林(市川実日子)も、六郎(窪田正孝)も、同情はしないだろう。ミコトもきっとわかっている。なんでもかんでも自己開示して相手の反応を確認する必要のない信頼関係が、UDIラボのみんなとの間にはあるのだと思う。
高瀬の人殺しは当然やってはいけないことだが、26人を殺すのは決して容易ではなかったはず。本人的には自分のトラウマを克服するためにと、結構頑張ったことなのだ。母親に受けた仕打ちを今度は夢を持つ女性に対してやってやることで得ていた満足感を「かわいそうに」と言われてしまうのはプライドが許さなかったのだろう。これまで「頑張ってきた」自分の時間を否定されたようなものだったのかもしれない。
ミコトは中堂には同情しないと言ったが、言葉通り中堂の気持ちに踏み込むことはせずに8年前の事件の真相を知る手伝いをする。
ただ、犯人を殺そうとする中堂を止めようとする発言が「同じことをしたら負け」なのはわたしの好みじゃなかった。「私を絶望させないでください」も、わたしはあまり好きな台詞じゃないんだよなあ。犯人と同じ手段で裁いていいのか葛藤はあっただろうに、その上で決めたことなのかと思ってたから、そんな発言で止まるんだっていう。わたしには寄り添いきれない、知らない感情だった。
話が変わるが、「MIU404」の悪役の最後の台詞「俺はお前たちの物語にはならない」は悪役サイド(久住)から主人公サイド(伊吹、志摩)に言われた言葉だった。アンナチュラルの逆。
主人公から悪役に対する「あなたの孤独に心から同情します」と、悪役から主人公に対する「俺はお前たちの物語にはならない」。
「アンナチュラル」でわたしたちが悪役に向けた哀れみの目線を今度は「MIU404」でまた向けようとしたら、悪役の方からカウンターをくらってしまった。
「お前たちの物語にはならない」は同情も含んだ勝手な決めつけなんかさせないからな、という久住なりのプライドを感じた。わたしはMIUを先に見たけど、順番に見ていたらもっと刺さってたのかもしれないので、また見返そうと思う。
「ラストマイル」も見に行こうと思っているので、楽しみです!