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平穏を求める幼き者たちの決断 〜モアザンワーズ


「モアザンワーズ」

昨年、何度も繰り返し観た作品です。


登場人物それぞれの「ただ穏やかに幸せでありたい」「ただ穏やかで幸せであってほしい」という切実さが全編を通して痛いほど滲み出ている良作です。
数話ごとに変わる主題歌も魅力的で、STUTS(feat. Awich)・iri ・宗藤竜太・くるりと、私が好きな方々ばかりでした。
原作はBL漫画なので苦手な方もいるかもしれません。ですが、人間が幸せを探求することの難しさや、何がそれを妨げているのか、形は違えどこの世界で生きる人々にとって必ず直面するテーマが描かれていると思うので、是非多くの方々に観ていただきたい作品です。

若さ故の過ちというものは、シチュエーションは様々ですが誰しも経験のあるところでしょう。歳を経た今でこそ「あれは間違っていたなぁ」と思えることでも、当時の心境を思い出せば必死にもがいて出した結論だったのです。
その未熟さを諭す大人もいれば、無責任に容認する大人もいて、その言葉を受け取る自分もまた未熟であるせいで余計に混乱をしていたように思います。
今作はまさに、その若者たちの葛藤や後悔を丁寧に描写しています。
それぞれの思い描く頼りない青写真を、唯一の綱として縋りながら生きようとする彼らのひたむきさは、かつて我々が持ち合わせていたはずのものに違いないのです。
作品全体に通奏低音のように響き続ける静かな心の叫びが、ゆっくりと染み渡っていきます。

今作を通して、私は俳優の青木柚さんを初めて知りました。
子役としてキャリアをスタートされてから、お若いのに既に様々な作品に出演なさっているのですが、失礼ながら私は存じ上げませんでした。
少し猫背気味の姿勢と、気怠そうな歩き方。少年と青年の間を揺蕩うかのような捉え所のない佇まい。第一話から私は彼に心を囚われてしまいました。


「女と子供」

エピソード8で、青木さん演じるマキオが、EXIT兼近さん演じるアサトから「苦手なものは?」と問われた後に言う台詞です。
京都のイントネーションで発せられるこの台詞で、私は号泣してしまいました。
ネタバレになってしまうので詳細は省きますが、この台詞が出てくるまでのマキオの葛藤や淋しさが全て詰まっていて、磨りガラス越しの後ろ姿と声だけでそれを表現してしまう彼の演技力に胸を打たれました。

私は気に入ったものを何度も繰り返し見聞きする癖があり、新しいものに触れるのが苦手です。
しかしここ数年は、意識的に新しい作品を自分から探しに行くようにしています。
これだけコンテンツの充実している時代に生きていると、作品に対して受動的にも能動的にも、どちらのスタンスでもある程度成立してしまうと思うのです。
どちらが良いか悪いかという話ではないのですが、私はなるべく新しいものも取り入れながら、自分のお気に入りも大切にしていきたいと思っています。

今年の夏も、この作品を何度も観返していました。
サブスクリプション作品の難点は、サービス終了や金銭的理由で退会を余儀なくされたとき、その作品を観れなくなってしまうことでしょう。これはデジタル配信のみの音楽作品にも言えることです。
昭和末期生まれとしては、是非フィジカルでのリリースもお願いしたいところです。(原作漫画は既に購入済)

9月も終わりに近付いてやっと秋めいてきましたが、去っていく夏に後ろ髪引かれながら、少しずつ秋冬に向けた心の準備もしていきたいと思います。


(余談ですが、ここ数年夏至の日は毎回「ミッドサマー」を観返しています。
サイコな展開の続く作品ですが、夏が始まるゾっ!というワクワク感が自分の中で高まります。
ホラー作品が大丈夫な方は、残暑の終わりにこちらも是非。)

食費になります。うれぴい。