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電気から見る生理学

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電気生理学という学問を主に、体の中を走る「電気」の仕組みを紹介します。初心者向けの記事や研究者向けの記事が混在しますが、誰が読んでも楽しくなるように心がけます。
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#医学

電気から見る生理学 〜7. パッチクランプアンプの中身〜

さて今回は、「パッチクランプ」において電流を測る機械「パッチクランプアンプ」の中身について紹介したいと思います! ※1 正直今の時代なら、こんなことがわからなくても、電気生理の実験はできるし、データも解釈できます。ですので、これがわからなくても落ち込まないでください。 ※2 ここで出てくる回路は、理解しやすいように、単純化してあります(例えば出力インピーダンスとか無視している)。本当の回路とは少し違うことを、どうぞご理解ください。 1. 簡単な物理(電気)のおさらい今回

電気から見る生理学 〜6. パッチクランプ法〜

さていよいよ今回は、今日の電気生理学に欠かせない、「パッチクランプ」について紹介したいと思います! 1. パッチクランプ法とはパッチクランプ法とは、細胞の膜を「パッチ(つぎはぎ、あて布、の意味。小さい膜の断片、くらいに思ってください)」にして「クランプ(固定・保定)」する方法のことです。つまり、ガラスでできた測定電極の先に、小さい膜断片(細胞1個以下)を保定して、その膜を流れる電流を測る、というものです。これまでの方法(卵母細胞など)と大きく違う点は、ざっくり言えば、 1

電気から見る生理学 〜5. 生き物の電気を測ってきた歴史〜

さて、前回まではひたすら前置きを語っていた本連載ですが、やっと「電気の生理学(電気生理学)」とはどのようにして実験するのか、今回から紹介していこうと思います。具体的なイオンチャネルを紹介しながら、少しずつ進めていく予定です。が、今回は "その" 序章です 笑 1. 生き物から電気を測定した最初の実験生き物の体に電気が流れているのでは?との知見は、18世紀末ごろからあったようです。当時はカエルの脚に電気を流して収縮を見たりしていました。しかし、生き物に電気を与えるのではなく、

電気から見る生理学 〜4. 生き物の電気を計算する〜

前回、細胞の外と内で、イオン濃度に勾配があるということを紹介しました。今回はイオン濃度と電気との関係について紹介していきたいと思います。 ※ 2020/5/16 「電流の向き」について、追記しました 1. 濃度勾配 = 電気そう、濃度勾配こそが電気なのです 笑 これだけではもちろん何が何だか、と思われると思います。しかし、よく考えてみてください。イオンが多い場所とイオンが少ない場所の間にある壁に穴が開いたら、イオンはどう動くでしょうか?多い場所から少ない場所へたくさん流れ

電気から見る生理学 ~3. 電気の源 イオン~

今回は電気を生み出す正体、「イオン」について紹介します。 1. イオンの種類イオンとは、「電気を帯びた粒」と思っていただいて良いと思います。マイナスイオンは、マイナスの電気を帯びた粒、反対のプラスイオンはプラスの電気を帯びた粒、です。 では、私たちの身体にとってのイオンとは何なのでしょうか?その多くは、金属や無機物で構成されています。 プラスイオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)が

電気から見る生理学 〜2. イオンチャネルって何?〜

今回は、生きていく上で必須のタンパク質の一群、“イオンチャネル”について紹介します。 目次  1. センサーとしての膜タンパク  2. 膜タンパクは多種多様  3. 電気発生装置 イオンチャネル 1. センサーとしての膜タンパク私たち生き物は皆、細胞というもの集まりで出来ています。細胞は、さまざまな生化学的物質を、脂質の膜でできた袋に詰め込んだ塊のことで、骨の細胞や筋肉の細胞、免疫細胞、神経細胞とさまざまな種類があり、それぞれの得意とするたくさんの機能を提供しています

電気から見る生理学 〜1. 人間もピカチュウ?〜

今回からしばらく、「電気から見る生理学」というタイトルで連載をしたいと思います(週1ペースくらい)。バイオ・生命科学など理系の話題が好きな方、どうぞ楽しんでください。だんだんと話が難しくなるかも知れませんが、できる限りかみ砕いて、研究者以外の方にもわかりやすく進めていきます。 今回はイントロです。 目次 1. 生理学とは 2. 電気とは 3. ヒトにも電気が流れている 1. 生理学とはまず、生理学とは何でしょうか? 物理学を「物の理(ことわり)を理解する学問」とする