電気から見る生理学 ~3. 電気の源 イオン~
今回は電気を生み出す正体、「イオン」について紹介します。
1. イオンの種類
イオンとは、「電気を帯びた粒」と思っていただいて良いと思います。マイナスイオンは、マイナスの電気を帯びた粒、反対のプラスイオンはプラスの電気を帯びた粒、です。
では、私たちの身体にとってのイオンとは何なのでしょうか?その多くは、金属や無機物で構成されています。
プラスイオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)がよく知られています。
マイナスイオンとしては、主には塩化物イオン(クロライドイオン、Cl-)が知られていますが、他にも硫酸イオン(SO4 2-)、炭酸イオン(CO3 2-)、リン酸イオン(PO4 3-)などがあります。
2. イオンの濃度バランス
さらにここで大切なのは、これらイオンの濃度は、細胞の中と外で明確に異なり、厳密に保たれている、ということです。以下にその例を示します。
左の目のようなものが細胞で、その中に書いてあるものが代表的な細胞内イオンの種類と濃度、外に書いてあるものが同じイオンの細胞外での濃度です(mMの意味を知らない人は一番末尾を見てください)。これを見てわかる通り、ナトリウムならば細胞の外の方が10倍程度多いですし、カリウムは逆に中の方が40倍程度多くなっています。カルシウムにいたっては1万倍以上の差があります。
このイオンの濃度バランスは非常に大切です。例えばカリウムを、血中(=細胞外)に静脈注射すると、ヒトは簡単に死に至ります(致死性不整脈による。医療現場では、このような事故が起きることを防ぐために、高カリウム製剤には、普通の注射針が接続できないように工夫されています)
ではどうやって私たちは血液中のイオン濃度を制御するのでしょう?
3. 濃度バランスを作る仕組み
それには、前回少し登場したトランスポーターが主な役割を担います。一番有名なものは「Na-Kポンプ」で、これはATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる細胞のエネルギー源を使って、3つのナトリウムイオンを外へ、2つのカリウムイオンを内へ、移動させます。このおかげで、ナトリウムイオンは細胞外に、カリウムイオンは細胞内へ溜まることができます。
【ちなみに】
Na-Kポンプ、狂言で有名な「附子」(トリカブトという植物由来)という毒の主成分、ジギタリスの作用点としても有名です。ジギタリスがNa-Kポンプの働きを抑えるので、細胞外でカリウムイオンが多くなり、心臓の動きがおかしくなって、死に至ります(高濃度カリウムの静脈内注射と、起きることは同じ)。ちなみにジギタリスは少量であれば、心臓の動きを強めることができますので、強心薬として今日の医療でも用いられます。
カルシウムイオンについても、ATPのエネルギーを使ってカルシウムだけくみ出す「Caポンプ」が存在します。それに加えて、上記Na-Kポンプで作ったNaの濃度勾配を使って、今度は3つのナトリウムイオンを細胞内に取り入れる代わりに1つのカルシウムイオンをくみ出す「Na-Ca交換輸送体」というものも存在します。ちなみに、ATPのエネルギーを使ってイオンをくみ出すことを一次能動輸送、一時能動輸送によってできた濃度勾配を使って他のイオンの移動を行うものを二次能動輸送と呼びます。Na-KポンプやCaポンプは一次能動輸送、Na-Ca交換輸送体は二次能動輸送を行う代表的なタンパクです。
しかしこれだけだと、体内に過剰なナトリウムイオンやカリウムイオンが存在したときに、細胞内か細胞外の濃度が高くなってしまいます。そういったことにならないよう、腎臓が体の中の総イオン量の調整を行っています。ラーメン等を食べて体内のナトリウムイオン濃度が高くなると、それを尿中に出し、逆に少なければ出ないようにしています。ラーメンを食べた後に何となく尿が塩っぽくなることを経験したことはないでしょうか?また、炭酸イオンについては、肺も排出に関与していて、血中の炭酸イオンが多いと、吐く息に二酸化炭素がたくさん含まれるようになります。このように、私たちの身体は厳密にイオン濃度を調整する仕組みを備えているのです。
では、このイオンバランスと電気の間にはどんな関連があるのでしょうか?
それについてはまた次回述べたいと思います。
お楽しみに!
p.s.
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【補足】
「mM」とは「ミリ(m)モーラー(M)」と読みます。「ミリ」はミリメートルなどと同じもので、「〇〇の1/1000」という意味です。「モーラー」とは、「mol/L」、つまり1リットル(L)あたりに含まれるモル数(mol)、という意味です。
モル数とは、多くの高校生がつまづく単位ですが(笑)、本当の意味は「約6 x 10の23乗 個の粒の集まり」、です。イオンをはじめとした小さい粒子は、粒の数が多すぎて数えられないので、こういった方法で数えます。わかりやすく言うと、お米の粒の数を数えられないので、「お茶碗〇〇杯」と示すようなものです。つまり、モル数 = 理系のお茶碗の数、と思ってください(これでいいのか・・・笑)。
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