信越化学工業をDCF法でざっくりバリュエーション(2017年3月期第1四半期決算短信まで)
今回は信越化学工業をバリュエーションします。
●会社概要
信越化学工業は、大正15年に発足した素材メーカーです。ちょうど2017年3月期で140期を迎えることになります。
売上高の70%以上が海外であり、円換算した時の決算での影響は大きそうです。
事業セグメントは、6個に分かれており、
塩化ビニル、か性ソーダ等の製造・販売を主体とする「塩ビ・化成品事業」
シリコーンの製造・販売を主体とする「シリコーン事業」
セルロース誘導体、金属珪素等の製造・販売を主体とする「機能性化学品事業」
半導体シリコンの製造・販売を主体とする「半導体シリコン事業」
希土類磁石、合成石英製品等の製造・販売を主体とする「電子・機能材料事業」
信越ポリマーグループの事業および建設・修繕をはじめとする各種役務提供を行う「その他関連事業」
があります。
様々な分野で世界シェアトップに君臨しています。どこか一事業が市況環境が悪くなっても、ポートフォリオを組んでいることから、会社全体が傾く恐れは少なそうです。半導体シリコンのみのSUMCOという会社とは、その点が大きく異なります。半導体関連は、需給のバランスや価格の変動が激しいので、市況環境が良ければ儲けが大きくなりますが、一旦悪くなると経営が厳しくなります。SUMCOは何度も経営危機に陥っているようでした。
素材メーカーということで、一般消費者とは馴染みがありませんが、裏方で支えている優秀な企業があるということですね。以前WBSで、フェルドマン氏が「日本は素材だ」と言われていたのですが、信越化学工業や東レなどのことでしょう。素材メーカーに価格決定権があるとは思えないので(実際にはわかりませんが)、ボロ儲けはできないように思いますが、地味に稼ぎ続けられるのではないかと思います。
●DCF法を行う準備
2012年3月期〜2016年3月期の5年間分のBS・PL・CFの数値を、有価証券報告書からexcelシートに落とし込みます。excelシートに落とし込んだ情報から、過去の業績を分析していきます。
過去の業績やBS・PL・CFからWACC(加重平均資本コスト)の算出・将来のフリーキャッシュフローの予測を行い、将来のフリーキャッシュフローをWACCで現在価値に割り引いて企業価値を算出していきます。
●投下資本
短期有利子負債:短期借入金
長期有利子負債:長期借入金 + 退職給付に係る負債
運転資金:受取手形及び売掛金 + 商品及び製品 + 仕掛品 + 原材料及び貯蔵品 − 支払手形及び買掛金
負債ベースの投下資本が資産ベースの投下資本より6,700億円ほど大きいですが、貸借対照表の「現金及び預金」 + 「有価証券」が7,300億円であり、キャッシュをそのままおいてある部分の影響が大きそうです。有利子負債よりも圧倒的にキャッシュの方が大きいので、実質無借金経営ですね。
●資本コスト
株式の時価総額は、2016/8/30の株価から算出しています。
株式コストについて、
・リスクフリーレートは、10年物の国債の利回りがマイナスになったりしているので0%に設定します。
・マーケットリスクプレミアムは、一般的であるらしい6.5%を使用しています。最後にこれをいじっていくつかのパターンの株主価値を算出します。
・ベータはmsnマネーから参照して1.02としました。
・上記からCAPMの公式より、株主本コストを6.63%とします。
CAPM : 株主資本コスト=リスクフリーレート(0%) + β(1.02)×リスクプレミアム(6.5%)=6.63%
・有利子負債コストは、2016年3月期の有価証券報告書には0.8%などの借入金の記載がありましたが、多めに取って1%としました。ただ、資本のうち有利子負債は1%なので、有利子負債コストはほとんど影響しないです。
・税率は、簡易的に40%とします。
そして、2016年3月期の有利子負債と現在の株式の時価総額を加重平均し、WACC(加重平均資本コスト)を求めます。
rD = 負債コストrE = 株式コスト
rD = 負債コスト
D = 有利子負債の合計
E = 株主資本の額 = 時価総額
T = 実効税率
WACC : [rE × E/(D+E) ] + [rD×(1-T) × D/(D+E)]
6.63% × 3,198,248百万円 ÷ (3,198,248百万円 + 46,480百万円) + 1.0% × (1-40.0%) ×46,480百万円÷ (3,198,248百万円 + 46,480百万円) = 6.54%
資本構成はほぼ100%が株主資本ということになりますが、行っている事業の安定性・キャッシュの獲得能力から考えると、有利子負債を調達して事業を行っても良いのではないかと思います。有利子負債コスト < 株主資本コスト であることから、WACCを引き下げることにもなるわけで、それが企業価値向上につながります。
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ご購入いただくと、以下の内容をご覧いただけます。
・利益とフリーキャッシュフロー・・・過去の業績からNOPLAT、ROIC、ROIC - WACCスプレッドを算出します。
・販管費の分析・・・販売費及び一般管理費を変動費と固定費に分解します。
・DCF法によるバリュエーション・・・将来のフリーキャッシュフローから現在価値を割引だし、一株あたりの株主価値を算出します。
・結論・・・過去の業績の分析・DCF法によるバリュエーションから導き出した結論です。
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