「こっち側」にいる自分の、同世代のスポーツ選手への劣等感
去年の末に、ミュージシャンのヒャダインさんが体育専門誌に寄稿された記事が、X(Twitter)上で話題になっていました。
「頼むからそっとしておいてください」との煽り文で囲われたその記事は、2019年に掲載されたものだそうです。
内容を要約すると、まず、ヒャダインさんは、ずっと体育の授業が嫌いだったそうです。体育ができなくて、クラスメイトの前で恥をかかされるのが苦痛だったと。
どうやら掲載号では「運動が苦手な子でも輝く授業を作ろう」という特集がなされているようだが、頼むからやめてくれ。先天的に体育ができない、運動が苦手サイドにいる、こっち側の連中のことは、頼むからほっといてくれ、と続きます。
掲載誌は体育専門誌。書き手にしても読者にしても、運動が得意、あるいは好きなサイドにいる人たちが多いと思われるので、完全に関係者各位をディスっていますね。かなり挑戦的な内容ですが、よく掲載されたな、これ……。
自分もまた「こっち側」、つまりは運動が苦手サイドにいた人間だったもので、その内容には、概ね共感できます。
正確にいえば、歩いたり、身体を動かすという行為は苦痛ではないので、運動が苦手というよりも、誰かに合わせる競技が苦手だったわけですが。
そのことに気がついた今としては、自分がプレイする側に回ることはないものの、スポーツそのものに対する気持ちの壁は、以前よりは取っ払われています。
記事内では、体育とスポーツの違いについても言及されており、学校の授業で体育が嫌いになった子供が、スポーツまで嫌いになる、とも。
これなんかはまさに自分のことで、学生の頃はスポーツ観戦の何が楽しいのかさっぱりわからなかったし、オリンピックやワールドカップを観ていないと非国民あつかいされるノリも嫌いで、興味がいっさい持てませんでした。
ここ数年は、サウナのテレビで野球中継を観ているうちに、プロ野球の面白さだけはなんとなくわかるようになりましたが、その理由のひとつとしては、あまり認めたくはありませんが、選手がだんだん歳下になってきているという事実があります。
若い頃(今もまあまあ若いが)は、同年代の有名人や成功者を見ると、もちろん自分が同列に並ぶわけがないことはわかっているのですが、同じくらいの年齢で何かを成し遂げている人たちへの劣等感のようなものを覚えて、なんとなくソワソワするということがありました。
自覚しているうちで、その劣等感をいちばん最初に覚えたのは、モーニング娘。に後藤真希さんが加入されたのを見た時だと思います。
自分とほとんど同い年の女の子なのに、めちゃくちゃ綺麗で、歌も踊りも完璧にこなせる。
モー娘。のグループそのものには、当時も今も正直あまり興味がないし、別に推しだったわけでもないのですが、ゴマキさんの登場は衝撃的でした。
それとともに、たまにテレビで見かけると、なんとなく気持ちがざわざわしたものです。
少し前に写真集を出版されたことがニュースになっていましたが、表紙を見ただけで久しぶりになんとなくざわざわして、うっかりちょっとだけ試し読みしました。それはそれはお麗しかったです。買うかどうかはまだわかりません。
…………話がだいぶ横に逸れましたが、早ければ10代半ばあたりから全国的に注目を浴び、ましてや日本を代表して世界に向かっていくスポーツ選手なんて、劣等感を呼び起こすには充分すぎるわけで。
それゆえに、無自覚に目を逸らしていた部分もあったと思います。
たとえば、出場者の全員が自分と同い年の少年で、しかも自宅からわりと近所にある甲子園球場で、全力で闘球している、という事実を認めるのが嫌で、高校生だった3年間で、高校野球は一瞬たりとも見ませんでした。
それから先の時代も、ダルビッシュ有さんは紗栄子さんと揉めていた人という認識しかなかったし、ハンカチ王子がなぜハンカチ王子だったのか、今でもよく知りません。
そんなにも避けていたのに、ここ数年は、大谷翔平さんがニュースになるたびに追っています。
打球が時速190キロとか、1シーズンで50ホームランとか、そこまで超人的な功績を残されると無視できないというのもありますが、1994年生まれの大谷選手は、自分よりも世代がだいぶ下だというのが大きいです。
もはや、全くの対岸にいる人のこととして、なんの曇った感情もなく、素直に凄いとしか思いません。
自分と彼を較べて、自分自身に幻滅する、などという感覚には全くならないし、逆にいえば、大谷さんみたいに立派な人になろう、という感覚もない。
ただただ素直に、今の日本人の若い野球選手にはめちゃくちゃ凄い人がいて、その日本人はアメリカで大活躍しているので、それは応援したい、という素直な気持ちしかありません。
世代が違うと、もはやどこか別次元の人になってしまうのですね。さらには、その大谷選手に憧れて野球選手になった村神サマなんて、もはや対岸の向こうの外国にいる人のような感覚。一滴の濁りもない目で見ることができてしまう。
まあ、最初から世代など気にせずに、若い頃から同年代のスポーツ選手を応援できれば、それがいちばん良かったのですけれどね。
なので、同年代を応援するべく、再びゴマキさんの写真集を試し読みします。