今の曽根にはダイエーとたこ湯がある
イオンという巨大勢力が日本を支配しはじめたのはいつの頃からだったか、今や、マイカルもニチイもジャスコも、そしてビブレもサティもダイエーもイオンに吸収されました。
京都の北大路にあったビブレは、かなり長いあいだ吸収されることなくビブレとしての矜持を保っていたのですが、ついに2022年にイオンに変貌。
大阪南部の岸和田市にあったサティは、私がそれはそれはとてもかわゆいチャイルドだった太古の昔に映画『水の旅人』を観たことがあり(ちなみにここ、国内で2番目に造られたシネコンだったそうな。今ではひとつの映画館に複数のスクリーンがあるのは当たり前だが、当時としては斬新だったらしい)、もっとかわゆかったリトルチャイルドの頃には、おもちゃ屋のトミカ売り場で日産シルビア(S13)を見て「なにあのバチクソかっこいい車」と感動した思い出ぶかい場所ですが、こちらも現在はイオン運営のそよら岸和田という施設に切り替わりました。
このように、自分の観測帯にあるデパートが、どんどんイオンへと変貌していくのを見続けて生きているのですが、しかしまだ、曽根にはダイエーが、豊中市の曽根には、曽根にはダイエーがある。
ちゃんとオレンジ色の葉っぱが2枚、なつかしのダイエーのマークが看板に掲げられている。白抜きの文字でAEONなどとは書かれていない。れっきとしたダイエーだ。
しかも、1971年のオープン時から現在まで、建物が変わっていない。ダイエーの創業者である中内功氏が設立した学校法人中内学園の公式ホームページには「ダイエー資料館」なる項目があり、ダイエーの各店舗の沿革が写真でわかるようになっています。ありがたい。
そんなダイエーが今でも根付いている豊中市の曽根ですが、閑静な住宅地が広がる、あまり飾り気のない素朴な町です。
そんな素朴な町にいきなり現れる、「お風呂やさん」「炭酸温泉」「ゲルマニウム」「遠赤サウナ」とクソデカ文字が掲げられたクソデカ看板。横には「名物たこやき」、さらにタコのイラストが。タコがたこ焼きを運んでいる絵面はなんともシュールだ。
「お風呂やさん」というからには銭湯なのですが、なぜたこ焼きを運ぶタコのイラストが描かれているのかというと、ここは「たこ焼き屋さん」でもあるからです。つまり、銭湯とたこ焼き屋が併設された店舗。ここが、「たこ湯」。
大抵の銭湯は番台やフロントでドリンクや軽食を売っているし、中には駄菓子屋やちょっとした酒場のような雰囲気づくりをしているところもありますが、本物のたこ焼き屋が中にある銭湯はここくらいでしょう。ちなみにエステサロンもあるのですが、街銭湯でエステサロンがあるのもここしか知らない。
そんな、たこ焼き屋もエステサロンも繋がった銭湯ということは、さぞかし巨大銭湯なのでは?と思いきや、実は脱衣場と浴室の銭湯部分の面積は小さめです。特に脱衣場は必要最低限という感じ。混んでいる時は譲り合って使う必要があります。
昔から近所では有名らしく、人気店なので、だいたい混んでいるのですが、通常なら人が多いとうんざりしてしまうところなのに、どういうわけだか、ここは人が多くてもあまり気に病むことがありません。正直なところ、客層が特に良いわけでもないし、なんなら結構うるさいですが、それが不思議なことに、そこまでウザく感じない。
浴室は2階建てで、2階が露天エリアなのですが、この露天エリアがなかなか良い。面積が小さめなので広々としたところで寛ぐという感じではありませんが、庶民的な町の中、密集する家々の間に小さく区切られた空を見上げながら湯に浸かるささやかな幸せ、そのささやかさが良い。
湯上がりはもちろん、たこ焼きをキメたいところ。たこ焼きは10個で300円。この物価高騰のご時世に、この破格である。大阪の有名店によくあるようなとろみの多いタイプではなく、サクサク感が強めの濃いめの味のたこ焼き。
中の休憩スペースでテレビを視ながら食べるのも良いですが、たこ焼きは持ち帰りもできるので、時期によっては近くの豊島公園のベンチで食べるのも乙なもの。豊島公園は高校野球の発祥の地であり、昼間はスポーツマンたちで賑わっていますが、夜はこっそり投球の練習をしている人がいるくらいで、静かな時が刻まれていて良き。
曽根は大人になるまで一度も来たことがなく、曽根のダイエーは岸和田のサティみたいに幼少時の思い出が詰まっているわけではないし、ましてやたこ湯の存在も数年前までは知らなかったわけですが、もしかして小5くらいの頃にこのへんに来たことなかったか?という錯覚を覚えそうになる。
しかしながら、現ダイエーの建物、および、裏のヴァイキングビル、取り壊されることがすでに決定しているそうです。
10月には解体工事が始まるみたいなので、それまでに曽根に行く機会があれば、おそらくイオンに切り替わるであろう現ダイエーの最後の姿、ヴァイキングビルの『進撃の巨人』みたいな壁画(同作品が発表されるよりも遥か昔からこの壁画はあるのだろうが、とにかく、なんかこう、『進撃の巨人』感がある)をご覧になっていただきたい。そして、たこ湯に行こう。
サウナはたのしい。