この世界の美しさ『よあけ』ユリー・シュルヴィッツ
この世界で美しい瞬間はいつだろうか。雨上がりに虹がかかるときか、澄んだ空に星が光るときか。こんなとき、生きることへの無条件の讃歌と思ってしまうことがある。
この『よあけ』(ユリー・シュルヴィッツ,福音館書店,1977)は、タイトルの通り、夜が明けるまでを描いた絵本だ。
絵は四隅の余白を大きく残して描かれており、添えられている言葉もとても少ない。しんと静まり返った夜明け前をゆっくり描き出していく。
かすかな月の光と影が、淡い黒から濃紺、青の色彩で表現されている。
言葉は少ないが、選び抜かれた言葉で、静寂とかすかな動きをたくみに描写している。英語版と比較すると、翻訳のゆたかさにも気づかされる。
ユリー・シュルヴィッツは1935年ポーランドの生まれで、子どものための絵本をたくさん残している。『よあけ』の作者紹介には「東洋の文芸・美術にも造詣が深く、この絵本「よあけ」のモチーフは、唐の詩人柳宗元の詩「漁翁」によっています。」とある。たしかに、水をたっぷり含んだ絵は、その情緒を生み出している。
ゆっくりゆっくりページをくって、夜が明ける時間経過を楽しむ。この本がもっとも美しいのは、やはりよあけの瞬間だ。その瞬間、光は心のなかにも射し、一面に広がっていく。この世界で一番美しい瞬間はこれかと思わずにはいられない。
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