フリーランス新法と出版契約の話
ホットな話題に乗ってみようかと思う。
2024年11月から施行されるフリーランス新法と、出版社と作家との契約についての話だ。
上記、河野弁護士の一連のポストが論点整理されていてわかりやすいので詳しくはこちらで見てほしいが、ざっくり編集者と一緒になって原稿を作る過程は業務委託にするべきか否かという話。
こちらについて、私は業務委託にしたら多くの作家さんは逆に苦しむことになると思っている。主な理由は締め切り、つまり納期だ。
作品創作における納期の難しさ
業務委託契約では、委託する業務内容、報酬、納期を明確に定めることを求められる。
当たり前の話で、これは企業相手だろうが、個人相手だろうが変わらないが、昭和の時代は契約が浸透しておらず、いろいろな業界でその辺があいまいなまま人間関係でやり取りしていた取引が多かった。
結果、小規模事業者が不利益を被ることが多かったため、それを是正するために下請法などが出来た。
本当に小規模なフリーランス(個人)相手でも下請法は対象となるが、下請法は主に製造業における大企業とその下請けとなる町工場などを念頭に作られている法律なので、発注側が最低1000万円を超える資本金の企業でなければ適用されない。
そこで、最も立場的に弱くなりがちで、自分では法的な対処が難しいフリーランス(個人)を保護するために、フリーランス新法というのが成立した。
フリーランス新法の概要は以下を参照してほしい。
さて、ここにもある通り、業務委託契約では納品期日の明確化が求められる。
そして、これが創作活動の上では一番厄介な問題だろうと私は思っている。
締め切りを厳守できる作家がどれだけいるだろうか?
もちろん、私も締め切りを破ったことないという作家さんを何人も存じ上げている。その方々はプロの矜持として締め切りを何としても厳守し、期限内に一旦は作品を仕上げる。もちろん、その後編集者とやり取りしながらブラッシュアップはしていくのだが、とにかく一旦は仕上げる。
とても尊敬できる態度で、編集者にとってみるとありがたい作家さんであることは言うまでもない。
だが、その5倍以上の人数規模で締め切りを守れない作家さんがいるのは肌感覚としてある。
締め切り間際になると連絡すらつかなくなって、現状の進捗も把握できないため、家を訪ねるなんてことも頻繁にあった。
余裕のある日程を組んで伝えていた締め切りに間に合わず、その余裕を食いつぶしてもまだ間に合わず、刊行時期をずらすなんてことも珍しくない。
それでもなお、その作家さんの作品は ”面白い” のであり追いかける価値のある売れる作品になるからこそ、出版社は取引を続けている。
作家が締め切りを守れないことについて、私はある意味納得もしている。
私は商業で創作活動はしたことが無い(雑誌記事を書いたりしたことはあるし、文章やマンガの編集はやっていたが、0から生み出す作品制作をしていたわけではない。)が、何らかの作品を作っていると、一旦書き上げたつもりになったとしても、あれこれ手を入れ始めて、どれだけやっても完成が見えなくなることは自分にも経験がある。
私は適当な性格をしているので、それでもどこかで「まぁいいや」と完全に詰め切ることをせず出してしまうが、だからこそ作品創作にはおそらく向いていないのだと思う。
私は自分の思う80%程度の完成度で出してしまうが、創作に向いている人はそこを95%ぐらいまで詰めて出せる人だろうと思っているので、締め切りまでに作るというイメージで創作していると、当たり前に時間は足りなくなることに納得せざるを得ない。
おそらく、設定された締め切りのずいぶん前に自分で一旦仕上げるつもりの締め切りを設定できる人が、前述の締め切りを厳守できる作家なのだろうと思う。
成果物の優先順位
もちろん世の中には業務委託としてライティング業務を行っている人たちはいっぱいいる。
創作を多分に含む業務を、キッチリ締め切りまでにあげて回している人もいっぱいいるので、小説家だってマンガ家だってできないことは無いんだろうとも思う。
ただ、実際にゲームシナリオの製作現場や、脚本の製作現場などは、締め切りとのせめぎあいをしながら作られていることがほとんどで、すんなり作られることも多くない。
状況によっては、受託者ではなく、委託している側の人や編集者的な人が書いて間に合わせるといったようなケースもそれなりにある。
業務委託において、本来、発注する業務の内容(=成果物)は具体的に定めなければならない。だが、創作を含むシナリオ制作において、成果物を事前に双方誤解なく詰めるのは不可能に等しい。
人の思考は共有できず、こういう方向のシナリオにしてほしいという希望は、文章やサンプルを使ってふわっと伝えざるを得ない。
往々にして発注側と受注側で認識はズレ、出来上がってみてからそのズレが発覚する。そしてやり直しや修正が発生したり、そのズレについての方針の違いでバトルが起きたりして、結果的に時間が足りなくなる。
受託業務で作っているシナリオであっても創作物であり、あるキャラクターの振る舞いは、そのキャラクターたるを決定づける個性の発現であるため、きちんと創作する人たちはそのブレを許容できない。そこがブレるとそのキャラクターではなくなるから。
単なる受注シナリオにおいても、しばしばそういったところで衝突が起こり、受注者の視点から見ると、そういった時、大抵の場合は、直させられるか、勝手に直されるかのどちらかだ。
おそらく創作者としての矜持のある人ほど納得できない状態になる。そこを、まぁ、請負仕事だしなと自分を無理やりにでも納得させられるタイプの人しかこういった仕事は続かない。
なので、より作家性の現れる作品において、受発注の関係にしてしまうと、逆に作家さんの創作の自由を奪うことになりかねないんじゃないかなと思うのだ。
そしてそれは作品にとっても、読者にとっても不幸なことではあるまいか。
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