見出し画像

プレカリアートユニオン総会決議不存在確認等請求事件 控訴審判決

※こちらの控訴審判決です。

本日、プレカリアートユニオンを被告とする総会決議不存在確認等請求控訴事件について、判決が言い渡されました。

結果は、やはり、私たち原告の完全勝訴でした。

平成30年の夏ごろ以来でしょうか、法的見解として唱え続け、実際に共同原告の高木さんら仲間にも協賛してもらったとおり、会社法が適用されない(取消し事由を定める規範がない)団体において、総会等の手続に瑕疵がある場合は原則としてその効果は無効になり、団体の代表者を定める決議が無効であれば、その代表者の行為は無権代理行為になり、それがユニオンであれば、例えば会社などとの団体交渉、労働協約や和解、組合員からの拠出金、組合費の授受等が原則無効になるという結論が維持されました。
(もっとも、次に述べるとおり、判決では、それに対する救済の途も示唆されています。)

令和2年6月提出の訴状より



私のような法律の素人の説明を読んでも面白くないと思うので、判決を先に見てください。

感想

令和6年5月26日「臨時総会」による瑕疵の治癒を否定した判断について

興味深いですが至当な結論だと思います。

要は、プレカリアートユニオンは、今年5月26日臨時総会で改めて原告ら労働者を除名したから、原告らには訴えの利益がない(勝訴したとしてもどうせ組合員ではないから、総会決議が不存在・無効であるかについて無関係であり、裁判を起こす権利自体がない)というのです。

他方で、ユニオン側は、本件控訴審で5月26日臨時総会の効力について審査すると(附帯控訴請求)、ユニオン側の審級の利益(地裁、高裁、最高裁と3回裁判を受ける権利)が害されるとして異議を述べています。

つまり、5月26日臨時総会で原告らを除名したことを理由として、高裁の権限で地裁の判決を覆せと言っているのに、それと同時に、高裁で5月26日臨時総会の効力について判断され高裁と最高裁の2回しか裁判を受けられないのはイヤだとも言っているわけです。

こんなワガママな言い分が両立しないことは言うまでも有りません😅
5月26日の「臨時総会」なるものについて、高裁の判断を仰ぎたいのかそうでないのか、サッパリ分かりません。

結局、判決では、

「本件臨時総会における決議及びこれによる組合員資格喪失を理由として、過去の本件各決議無効又は不存在の確認の利益を否定されることになるとすれば、本件紛争の有効適切な解決を図ることができず、相当でない。」

ということになり、ユニオン側の言い分自体が矛盾していておかしいので、ユニオンの主張は採用しない、ということになりました。

弁護士はこうした矛盾に気付かなかったのですかね。

労働組合法5条2項5号の真髄について

これが一番面白いところだと思います。

「労働組合法5条2項5号が役員又は代議員の選挙を直接無記名投票によるものと定めた趣旨は、投票者の意思が第三者の意思を経ることなく直接最終的なものとして表明されること及び投票の秘密が守られることを確保し、これにより組合民主主義を実現することにあると解される。」

労働組合法コンメンタール等を見ても指摘されていなかった見解で、私たち原告や、被告プレカリアートユニオン側の代理人弁護士の主張に基づくものでもありません。

先例として、

「組合役員選任決議の方法が組合員の直接無記名投票によるべきことは……労働組合法5条2項に定められているけれども、右各規程の趣旨は、投票の自由及び秘密を確保しようとするものであると解されるところ、出席者全員一致による挙手採決で執行委員長を選任する旨決議した場合は、例外としてこれを認めても、右各規程の趣旨に反するものとはいえない。」

広島高判昭和63年6月28日、東洋シート<チェックオフ>事件

との裁判例が存在し、これを踏まえてのことと思われますが、「投票の自由」について、この裁判例よりも具体的に踏み込んでいますね。

この点、ユニオン側は、

「労働組合法5条2項5号は組合規約に直接無記名投票による旨を定めるべきことを規定したにとどまり、組合規約にその旨の記載があれば実際の代議員選任手続がどのように行われたかは同号違反の問題にならない。」

と主張しましたが、案の定、一刀両断となりました。

それはそうですよね。

ユニオン側の主張は、「民主的な選挙を行う」という規定さえあれば、実際には民主的な選挙をしなくても違法にはならない、という極めて乱暴なものでした。いわゆるご飯論法のようなものですよね。北朝鮮やロシアといった「民主主義国家」で好まれそうな理論だと思います。

いずれにしても、労働組合法5条についてその真髄を判示したもので、かつ、「同号が単なる組合規約の記載事項のみを定めたものと解することはできない」として、そもそも法5条2項記載のとおりの規約を定めない労働組合は法人登記できませんから、そうした法人格のない小規模な労働組合以外は、規約記載の事項(=法5条2項)どおりに実際に民主的な選挙をしなければならないと判断しており、先例として有意義だと思います。

代議員選挙の立候補者が定数内であれば選挙をしなくてもよいという主張について

プレカリアートユニオン側は、代議員選挙にあたり、立候補者がいないか定数内であれば、ユニオンの執行部を名乗る清水氏が「声をかけた」(≒指名した)者を代議員としてもよく、選挙をしなくてもいいという主張をしていました。

しかし、これについても、そもそもユニオンの規約にそのような規定がない上に、

「代議員につき広く公募したものの応募者がいなかった場合を想定すると、 控訴人の執行部等において立候補を打診し、これを承諾した者を候補者とすることが可能であるとしても、その候補者について任・不信任の投票を実施し、あるいは、あらかじめ一定の場合には無投票当選とすることを告知するといった手段を取ることが考えられるのであって、候補者がいないことをもって、立候補を打診された者の承諾のみで代議員を選出することが許されるとはいえない。」

との判断が示されました。

実際に、ユニオンにおいても、原告ら組合員から指摘があった令和元年6月以降の総会では、それ以前と一転して信任投票を開催しているわけです。
それなのに、それまでに信任投票をしていなかったのが法的に許されるとすれば、(問題がないはずなのに)指摘を受けた令和元年6月以降に急遽対応を改めたのがおかしいということになるので、当然の結論ですよね。

いずれにしても、立候補者が定数を下回れば無投票で信任するという規約の規定や事前告知もないのに、無投票で信任するという運用はおかしいという判断になりました。

総会が不存在(無効)となった場合の対外的な法律関係について

「控訴人は、以前の役員の選任手続の瑕疵が連鎖したことにより本件各決議を無効とすることは多数の組合員を救済してきた控訴人の活動を過去に遡って否定するものであり、上記組合員らの救済を阻害すると主張する。
しかし、労働組合内部の組織運営に関する事項に瑕疵があることと当該組合が対外的にした行為の効力とは別異に解することも可能であり、瑕疵が連鎖したことにより本件各決議が不存在とされたからといって、直ちに組合員らの救済を阻害する結果が生じるともいえないから、上記の主張は理由がない。」

プレカリアートユニオン側は、もはや「哀願」の世界ですが、本件で総会決議不存在という判決が確定すると、平成27年から現在までのユニオンがまとめた団体交渉、和解などの組合活動が全て無効になり、かわいそうだから、弱い立場の労働者の利益のためにも被控訴人(原告)の請求を棄却してくださいという主張をしていました。

弁護士法に照らして疑義のある方法でまとめた”和解”から報酬を得ている立場で何を言うかという話ですが(つまるところ、人の金を盗んだ者が、盗んだ金で家族を養っていたので、盗んだ得た金を返すとなると家族が困窮し、かわいそうだから、盗んだ金を返さなくて良いとの判決をください、というようなものです)、

これについても、裁判所は、「労働組合内部の組織運営に関する事項に瑕疵があることと当該組合が対外的にした行為の効力とは別異に解することも可能」として、ユニオン側の主張を退けました。

つまり、例えば盗んだ金であっても、被害者が返さなくて良いと言ってくれているので返さなくても良いというようなことは「可能」、あり得るので、頑張って被害者を説得しましょうということですね。

私たち原告が、ユニオン側に「金を返さなくて良い」と許してあげることはありませんが、なるほど、他の組合員や会社の中には、ユニオン側がかわいそうだから(?)、あるいは再度争うのが面倒くさいから、その他いろんな理由で、解決金や拠出金、組合費を「返さなくて良い」と言ってくれる人も何人かはいると思います。何人かは。

例えば、街宣車を差し向けて億単位の解決金を取得した引越社のような大口債権者から、無権代理行為を追認する、解決金は返さなくて良いと一筆もらえるのが一番良いですね。

まだボールは地面に落ちていません。理論上、交渉の余地自体はあります。大変タフなネゴシエーションになりそうですが、応援しています。

労働者・組合員のなかでも、平成27年以降の対象期間にユニオンに支払った拠出金や組合費は無効なものであること、法テラスを介して弁護士に依頼していれば、街宣車に乗ることもなく、5000円〜からの分割払の着手金と〜10%の成功報酬で労働問題を解決できたであろうことを深く理解した上で、それでもユニオンにより「救済」されたとして、ユニオンに対する不当利得返還請求権を自主的に放棄するという人がもしいれば、そうすれば良いと思います。

合計で数百〜千数百名にのぼるとみられる大口・小口の債権者ともに、無権代理行為の追認・不当利得返還請求権の任意放棄に向けた清水氏による今度の説得に全てがかかっているといえそうですね。

プレカリアートユニオンの瑕疵ある決議を追認する方法

ところで、プレカリアートユニオンでは、平成27年以降の決議が不存在であると判断されているわけですが、今後、瑕疵を治癒し、法的に活動を継続する方法はあるのでしょうか。

これについて、裁判所は、瑕疵の連鎖があったとする原審の判断を是認するとともに、

「被控訴人は本件臨時総会における決議の存在及び効力を争うところ、適正な手続を欠いてされた本件各決議について、組合員全員がその追認を承諾し、あるいは、新たな代議員の直接無記名投票による選任を経た上で本件臨時総会が開催されて追認の決議が行われたなどの事実を認めるに足りる証拠はなく、瑕疵の治ゆがあったということはできない。
本件臨時総会が開催され、そこで本件各決議を追認する旨の決議がされたことをもって、直ちに本件各決議の瑕疵が治ゆされたものということはできないから、この点についての控訴人の主張は理由がない。」

と判示しています。

ちなみに、是認の上引用された原審判決では、裁判所は、

「本件第1次総会決議は不存在であるから、当該決議において選任された役員によって構成される執行委員会は正当な執行委員会ではなく、その後に招集された大会は、法的には大会の招集権限を有する(組合規約12条1項)執行委員会ではないものが招集したものとして、組合員の全員が出席して開催された等の特段の事情がない限り、その大会において行われた決議は不存在と評価される(株主総会について、最高裁判所第三小法廷平成2年4月17日判決民集44巻3号526頁参照)。
本件において上記特段の事情を認めるに足りる主張立証はないから、本件第2次総会決議は不存在であるとともに、同様の理由によって本件第3次総会決議ないし本件第7次総会決議も不存在である。」

と指摘。

つまり、①組合員全員の承諾を取り付けるか、②組合員の全員が出席する総会を開催するか、③新たに(”指名”ではなく、信任投票などの正当な方法による)代議員による直接無記名投票を開催した上での総会決議を起こし、追認しないと、瑕疵が治癒されず、いつまでも民刑ともに危険な無権代理状態が続くということですね。

あれ……?

しかし、令和6年5月26日の「臨時総会」は当然、令和元年6月以降の総会では、立候補者が定数を下回る場合の信任投票はやっていたのではないでしょうか。
この点、高裁判決は、仮に令和6年5月26日「臨時総会」の有効性について判断をするのであれば、

「上記決議は原判決言渡し後にされたもので、原審ではその瑕疵について審理しておらず、当審においてこれを審理するとなれば、控訴人の上記主張を踏まえ、被控訴人や高木に対する招集通知の有無などの決議に至る経緯等について、証人尋問を含む審理を新たに行う必要があると考えられる。」

と述べているうえ、援用されている地裁判決でも、

法的には大会の招集権限を有する(組合規約12条1項)執行委員会ではないものが招集したものとして、組合員の全員が出席して開催された等の特段の事情がない限り、その大会において行われた決議は不存在と評価される。

とされています。

つまり、信任投票を含む代議員選挙を開催して代議員を介して追認の決議をするにしても、原告である私や高木さんを招集することは当然として、そもそも正当な招集権を持つ執行委員会が招集しなければ、代議員選挙と総会決議を何度繰り返しても不存在(無効)であり、プレカリアートユニオンは法的には無権状態から復活できないということになりそうです。

ここでいう正当な招集権者といえば、不存在とされていない平成24年4月11日の総会で選任された大平正巳氏が思い当たりますが、ユニオンの規約にはいわゆる任期伸長規定がないため、大平氏は1年後の平成25年4月12日には既に退任して招集権を失っており、実際に平成25年4月11日で退任した旨が登記されています。

こうなると、(正当な)執行委員会による総会の招集は難しそうです。
総会を開く以外の方法でこのカルマから逃れるためには、判決によれば、「組合員全員の承諾を取り付ける」しかありませんが、ユニオンの今までのさまざまな所業に照らして、私や高木さんが承諾をすることはあり得ないでしょう。

私物化作戦、大失敗ですね😅
ユニオンを私物化し、役員報酬として巨額のカネを引き出すことに固執したあまり、道を踏み外し、そもそも法的に労働組合として活動できない状況になってしまったように見えます。
5年間、本当にご苦労様でした。

おわりに

私が、プレカリアートユニオンの総会の決議に瑕疵があると主張したことで、高木さん以外にも何人もの仲間を巻き込んだ紛争になりましたし、色々な発信を行い、多くの人にさまざまな感想を抱かせるに至りました。

今回、権威ある控訴審判決という形で、最初に書いたとおり、清水氏によるユニオンの私物化は許されないという結論になり、多くの人を巻き込んだ責任をとることができ、安心しています。
上の「ユニオンリスク」でも書きましたが、そもそも、弁護士が解決するような案件を、ユニオンが団体交渉と称して依頼を受け、解決するというやり方自体に無理があったのだと思います。
ある人の言葉ですが、「ムリにムリが重なって、ウソになる」ということです。

今後は、本判決を踏まえて、街宣車というオマケ付きの”弁護士ごっこ”のような偽装労働組合が、法律上・事実上ユニオン業界から排除され、労働組合法や弁護士法の適正な適用が図られること、労働問題に関して不快な思いをする人や傷つく人が一人でも減ることを願っています。
ほかにも言いたいことはありますが、それは「ユニオンリスク」の続編に譲ることにして、とりあえず、判決の公開を急ぐこととします。

本件控訴により、非常に先進的でシンプルな内容だった地裁判決が覆る可能性も少し懸念していましたが、打ち合わせをしたところ、弁護士の先生曰わく、「被告ユニオン側の主張はすべて想定の範囲内」とのことで、その優秀さに改めて脱帽しました。
弁護人を務めていただいた玉真聡志、多賀野司、大石眞人各先生には頭も上がりません。先生方には、改めて尊敬と感謝の意を表明します。

PDF

法令により許される範囲内で、ご自由にご活用ください。

選任された役員の氏名は、検索エンジンに掛からない画像内の文字であることも踏まえて原則そのままにしていますが、マスキング加工してほしい方がいらっしゃいましたら、いつでもお申し出ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?