優しかった英会話の先生
私は英語が苦手だ。
大学の時、一年生の必須科目である英語Ⅰを卒業試験まで引っ張ったくらいだ。奇跡的に合格し無事卒業ができたものの卒業後も時々「わー!ダメだった!落とした!留年だ!」という悪夢を見たくらい私にとって英語というもは苦手意識が強い。
こんなに英語が苦手なのに何故だか英語が話せるようになりたくて仕方ない思いはずーっと抱えたままいい年になってしまった。
もしやり直せるなら英語をちゃんと勉強してホテル業界に就職したかったというちょっとした後悔もあった。
そんな私が40代最後の年にまさかのチャレンジ。
英会話必須と書かれていなかったホテル求人を見つけ応募したのだ。
面接でホテル支配人から「英語は話せますか?」と聞かれ「話せません」と答える。「では英語以外の言語で話せるものはありますか?」ときかれ「日本語オンリーです」と何故ここで「オンリー」なんて使ったのか今でも恥ずかしい。
あえなく面接は終わり「あーやっぱり英語話せるのが前提だよな」とトボトボ帰宅。
それから数日後、まさかまさかで採用の連絡を頂くことになり何十年と後悔していた「ホテル業界に就職したかった」という思いがパートではあるが夢叶う。
迎えたその日。
私は面食らう。あっちからもこっちからも英語が飛び交う。
「アウェイな所に来てしまった」まずい。
慣れない職場な上に何を話しているかもわからない。
ただの役立たずではないか。
何故、採用されたんだ(泣きたい)
英語コンプレックスが爆発するも日々、外国人に囲まれているとまず「外国人」という存在に対して「慣れ」ができてくる。
そして必要最低限のフロント英会話の丸暗記でその場がしのげるようになる。
ただ丸暗記なので話が脱線すると全然わからない。
ある時、私は近所で個人で英会話レッスンをしている教室を見つける。
レッスン料もリーズナブル。
そして私はその教室の門を叩く事になる。
先生のご自宅はお庭から何からそこだけ海外かのような錯覚に陥る。
常に口角が優しく上がり座る姿も自然に足が綺麗に揃えられ全てにおいて品のある素敵な女性。
私のへたっぴな英語をいつも「うん、うん」と優しく頷き指導して下さるのでできなくて恥ずかしいと思った事は一度も無くむしろ英会話が学べている嬉しさの方が大きかった。
私があまりにも英語ができなかったのでレッスンで習ったフレーズでお客様対応をしていたのを見たスタッフから「プーチカさんから〇〇〇って英語のフレーズが出てたのを聞いて感動した」と言われるほどだった。
しかしそんな私の英会話レッスンはあえなく終わりを告げる。
先生が遠方に引っ越しをするのだ。
英会話は週に一回。勿論、楽しく通ってはいたがレッスンの日に休みを取っていたので予習、復習、暗記の宿題は正直心身ともにキツい時もあった。
なので期間限定でレッスン最終日が決まって何となく「ここまで頑張れば」みたいな気持ちが出ていたのも否めない。
とうとう迎えた最終日。
連絡先を聞いていいものか。聞いたとてどうなるわけでもなし。
そんなこんなでお礼のメッセージカードとお菓子を渡すのみとなり先生の連絡先は聞かずにお別れとなった。
レッスンが終わって半年。
何と私は先生ロスになった。
あの綺麗なお庭。教室。先生の優しい頷き。
もう先生はあそこにはいない。
そう思うと無性に寂しく連絡先を聞かなかった事を後悔した。
そして私の英会話のスキルアップもやる気を失い相変わらず脱線すると何を言っているか会話不能。
そんなある日、レッスンの出席表を見つけた。「懐かしい」
そう思い手に取るとなんと表の下にメールアドレスが載っているではないか。
このメールアドレスはまだ生きているんだろうか。
とにもかくにも私はそのメールアドレスに連絡せずにはいられなかった。
「ご無沙汰しております」
届くかどうかわからないけど、このメールが先生に繋がることを願って。