「あなたのためだから」① 会社上司
私は、幼少期から青年期の長い長い両親からの支配と束縛を耐えて、耐えて、やっと必死で自立して逃げ出した。
「あぁ・・・やっとこれから自由に生きられる」
そう思ったのに、ずっと両親の亡霊が私の後ろにいる。
そしてあの頃と変わらない言葉で私を責め続ける。
どんなに耳を塞いでもその声は消えなくて、その声に怯えて、罪悪感に突き動かされて動いてしまう私。
その結果、いつの間にか両親に代わる支配者が私のすぐそばにいて私を支配したり束縛したりしている。
「上司」「友達」「恋人」・・・支配者は、その時によって変化した。
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そんな「支配者」たちが共通して使っていた言葉がある。
それは、
「あなたのためだから」
っていう言葉。
その言葉は、当時の私にとっての「殺文句」だった。
その言葉を言えば、私はたちまち言うことを聞き、その人の指示に従いだす。
「あなたのために言っているのよ」「あなたの成長のためだから」
そう言われると、私は私の罪悪感と羞恥心が猛烈に煽られるのだ。
目の前が真っ暗になり、申し訳なさがこみ上げる。
それまで相手に平等な立場で意見しようとしていた自分は一瞬にしてどこかへ行ってしまう。
そして、親から怒られてしゅんと下を向いて自分の膝を見つめる小さな子供の私が、現れる。
「ごめんなさい」涙が、溢れる。
言いたいことや自分の考え・気づきなんかは、溢れ出てくる罪悪感と恥ずかしさに覆われてしまって、もう何も見えない。
その恥ずかしさ、申し訳なさを必死で埋め合わせするかのように、私は誰かが望むように働いたり、金を払ったり、寝る間も惜しんで動き回り出す。
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営業の仕事をしていた時、上司は、私にだけ無茶苦茶なノルマを課してきた。
そして上司は、高すぎるノルマを課す時も私に「あなたのためだから」と言った。
私は上司に可愛がられている、期待されていると思っていた。
そして私は、上司が課した無茶苦茶なノルマを一人必死に達成した。
まるで母親の言うことをひたすら盲目的に聞く世間知らずな子供みたいだった。
ふと周りを見ると私以外誰も上司の設定したノルマを達成している人はいなかった。
それだけ無茶苦茶な数字だったのだ。
ノルマを達成した私は、昇格もしくは、給料のアップを求めた。
たくさん働いて疲れていたし、周りの同僚は個別に交渉してノルマ達成に関係なく様々な手当をもらっていたことを知って、私も上司から評価された形が欲しいと思った。
しかしその上司からは「あなたは、まだまだこれからだから」という言い方をされて断られた。
1年後、私は、フリーになることを決意した。
その会社にいてもノルマがきつくなる一方だったし、上司から給料も増やしてもらえないし、フリーになって貯金したお金で好きなことを勉強したりしてしばらくゆっくりしようと思ったのだった。
私が会社を辞めると言うと、急に給料を上げましょうか?在宅ワークに切り替えて好きな時に働いてもいいのよ、と言ってきた。
私が辞めた後、たくさんの同業者が私をヘッドハンティングにきた。
上司は、「あの子がうちの営業の中で一番優秀だったから辞められて困るわ」と同業者に愚痴ていたらしい。
上司は、私がいなくなるなんて全然思っていなかったようだ。
いつも「あなたのためだから」と言うと必死になる部下を上司の自分はうまく使って結果を出している、今後もこれで成果をあげていこうと思っていたようだ。