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人魚と約束
何冊かあるお姫さま絵本の中で、唯一王子様と幸せに暮らせなかったのは人魚姫だった。でもノーハッピーエンドとは言えない。これでよかったよね、と、最後はそばで見ていた昆布のごとく、やさしく切ない気持ちになったものだ。
子供の時出会った人魚は、愛する人に近づきたくて、人魚でいることを捨てた人魚。なのに気付いてもらえずに自ら泡となって消えます。大人になって出会った人魚は、人魚のままで家族に愛され育った人魚。その愛に報いたいだけなのに、人間の欲に裏切られ、その悲しみの深さで町を滅ぼします。
どちらの人魚も、愛されたくて自分を大事にできなかった。認めてほしかったよね。「それは私です」って言いたかったんだろう。
* * * * *
ゆびきりをした。次また会おうと。
彼は私に会いに自転車をこぐ。車輪は前を向いては地平線をのぞきこむのを繰り返す。坂を上り、あの波打ち際目指して緩やかに下ってくる。
聞こえる、遠くから。アキレス腱が車輪を道に這わせている。
私もまたこの島から、あの波打ち際目指して尾を蹴りこむ。細かい泡が水面に上がる頃、彼もまた呼吸をしている、だからこそ進むのだ。
聞こえる、奥から。しなる背が離れていた時間を水に砕く。
二人しか知らない場所は 二人にしか行けない
二人しか知らない場所は 二人にしか消せない