遷延性悲嘆症
Simon NM, Shear MK.
Prolonged Grief Disorder.
N Engl J Med 2024;391:1227-36. DOI: 10.1056/NEJMcp2308707
〈臨床上の問題〉遷延性悲嘆症は新たな診断分類であり、その症状と治療に関する情報はまだ広く普及していない。臨床医が遷延性悲嘆症の診断と治療・支援の訓練を受けていないことが考えられる。
遷延性悲嘆症に関する公式な診断基準は、2019年にICD-11、2022年にDSM-5に追加された。遷延性悲嘆症の基準は、症状がICD-11では6ヶ月以上、DSM-5では12ヶ月以上持続することとされており、患者の所属する文化的・宗教的・社会的な文脈から想定されるレベルを超えた苦痛や機能低下が、その症状のために引き起こされることとされている。
これまでの調査では、自然死で生じる遷延性悲嘆症は3~10%であるが、自殺、殺人、事故、自然災害、突然死などではその数倍に上ることが報告されている。
遷延性悲嘆症によりさまざまな身体的・精神的な障害が増加し、社会的・職業的機能が悪化し、絶望感や自殺念慮・自殺行動が生じることもある。
〈診断と評価〉問診では最近の死別とその影響に関する情報を聴取すること。臨床評価の対象は、死亡以降の身体的・情動的な症状、現時点での精神障害・内科的障害またはその既往、アルコール・精神作用物質使用、自殺念慮・自殺行動、現時点での社会支援と社会機能、治療歴、精神状態の検査である。死亡から6ヶ月以上経っても悲嘆が日常生活に支障をきたしている場合は、遷延性悲嘆症症を疑うべきである。
スクリーニング検査では、5項目のBrief Grief Questionnaireで4点以上、13項目のProlonged Grief-13-Rで30点以上、19項目のInventory of Complicated Griefで25点以上の場合、遷延性悲嘆症であることが示唆される。
〈治療〉治療の根本的な目標は、患者が喪失を受け入れ、亡くなった人なしでも意義のある人生を送れるようになるように支援することである。遷延性悲嘆治療は共感的傾聴に重点を置き、動機付け面接法、対話型心理教育、計画的な手順で16週間のセッションにおいて実施される一連の実験的な行動の要素を含む治療法であり、現時点では最もエビデンスが高い。遷延性悲嘆治療はPTSD患者に用いられている長時間曝露療法からの治療法を統合したものである。
エビデンスに基づいた治療を提供できない場合は、可能であれば他院を紹介すること、さらに簡易的な介入法を用いて、経過観察を1~2週間に1回行うことが推奨される。
〈不確実な領域〉遷延性悲嘆症の病理学的機序を解明するための適切な神経生物学的研究は行われておらず、有効な医薬品や神経生理学的治療はない。一貫した診断基準を用いた疫学研究もないことから,遷延性悲嘆症の有病率は不明なままである。
〈結論と推奨〉問診で遷延性悲嘆症の診断が確定したら、一次治療として、エビデンスに基づいた精神療法を提供または紹介すること。臨床的に顕著な抑うつ症状が認められた場合は抗うつ薬を処方すること。睡眠や食習慣,身体活動,体重や糖尿病管理は悲嘆の影響を受けるため、これらに異常が認められた場合も対応を行うこと。