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ナトリウム・グルコース共輸送体-2阻害薬またはジペプチジルペプチダーゼ-4阻害薬を開始した、40~69歳の2型糖尿病における認知症リスクの比較:住民ベースのコホート研究

Shin A, Koo BK, Lee JY, et al.
Risk of dementia after initiation of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors versus dipeptidyl peptidase-4 inhibitors in adults aged 40-69 years with type 2 diabetes: population based cohort study.
BMJ. 2024 Aug 28;386:e079475. doi: 10.1136/bmj-2024-079475.

〈背景と目的〉この20年間における認知症治療薬開発の成功率は極めて低いことから、認知症に対しては、糖尿病のような修飾可能な危険因子を対象とした治療が重要になっている。プール解析により、2型糖尿病患者では認知症のリスクが60%高いことが報告されている。
ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)-2阻害薬は認知症の疾患修飾治療薬の候補となっている。最近のカナダでの研究では,67歳以上のオンタリオの住人においてSGLT-2阻害薬とジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬の新規使用者を比較したところ,SGLT-2阻害薬使用者で20~34%認知症のリスクが低下したことが報告されている。しかし、それよりも若い集団での検討は行われていないことから,本研究ではSGLT-2阻害薬またはDPP-4阻害薬を開始した70歳未満の糖尿病の成人を対象として、認知症のリスクの比較を行った。

〈方法〉韓国国民健康保険サービス(Korea National Health Insurance Service)のデータベースから、2013~21年のデータを使用してコホート研究を行った。傾向スコアマッチング実薬対照新規使用者コホート研究デザインを用いて、target trial emulationを行った。2型糖尿病(ICD-10)で、SGLT-2阻害薬またはDPP-4に使用を開始した40~69歳の成人を組み入れた。
主要転帰は認知症(ICD-10)の新規発症、副次転帰は認知症の種類(アルツハイマー病、血管性認知症)とした。
確立した関連に再現性があるかどうかについて、また測定されていないバイアスについて評価するため、二つの治療群間で、陽性対照転帰および陰性対照転帰のリスクの比較を行った。SGLT-2阻害薬ではDDP-4阻害薬よりも性器感染症のリスクが高いことから、性器感染症を陽性対照転帰とした。また、陰性対照転帰は変形性関節症による受診と白内障手術とした。これらは認知症と同様に高齢者にみられる変性疾患であることから、加齢と関連するフレイルや生活様式や医療制度利用パターンなどといった未発見の交絡因子が認知症と共通していると考えられるためである。
傾向スコアの推定には、110以上の共変量を含めた多変量ロジスティック回帰モデルを用いた。ハザード比および95%信頼区間(CI)の推定にはCox比例ハザードモデルを用いた。

〈結果〉SGLT-2阻害薬の新規使用者は112,663名、DPP-4の新規使用者は847,999名であった。すべての傾向スコアをマッチさせた後の基準時点の共変量(精神障害、心血管疾患その他の併存症、抗コリン作用のある薬の使用、それ以外の薬の使用)は同等であった。
追跡期間の平均は670日間で、SGLT-2使用者では612日間、SGLT-2阻害薬使用者では728日間であった。この期間に1,172名が新規に認知症と診断され、100人・年あたりの発症率はSGLT-2阻害薬で0.22、DPP-2で0.35であり、ハザード比は0.65(95%CI:0.58~0.73)であった。DPP-2と比較したSGLT-2阻害薬による認知症リスク低下は副次転帰でも認められ、ハザード比(95%CI)はアルツハイマー病では0.61 (0.53~0.69)、血管性認知症では0.48(0.33~0.70)であった。Intention-to-treat解析でも結果は同様であった。
SGLT-2阻害薬使用者では性器感染症のリスクはDDP-4使用者の2.67倍であった。治療と陰性対照転の関連のハザード比は、変形性関節症による受診で0.97 (95% CI:0.95~0.98) 、白内障手術で0.92(0.89~0.96)であった。

〈考察〉SGLT-2阻害薬は、糖尿病マウスにおいて認知機能低下に関わるneurovascular unitの変性を防ぎ、アルツハイマー病と2型糖尿病のマウスの脳組織でアミロイドβの蓄積とタウリン酸化を改善することが報告されている。SGLT-2阻害薬は昼行性カタボリズムを誘発し、それによりmTOR経路(アルツハイマー病により賦活化する)が抑制されて、オートファジーが復活する|。このような作用によって、SGLT-2阻害薬は、心腎に対する作用とは独立して、2型糖尿病における認知症の進行を遅らせることが考えられる。

〈結論〉SGLT-2阻害薬により、40~69歳の2型糖尿病患者において認知症のリスクが低下し、この効果はアルツハイマー病と血管性認知症のいずれにおいても認められた。本研究の結果から、今後無作為化試験を行う必要性が強調された。


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