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いつも以上に美味しかったあの日のパン

近所にあるパン屋さんでのお話

先日の雨が嘘のような晴れやかな天気
在宅勤務が多い自分にとってきちんとした外出は久々だった
夏が過ぎほんの少し秋らしい風の中
足取り軽くいつもの近所のパン屋さんへ

近づくと香ってくる焼きたての匂いに
「今日は何にしようかなぁ」と頭の中で迷いつつ店内へ

ここはいつもお客さんが少ないわりにとても美味しく
自分にとっての”穴場”
「カランカランッ」入口を開けて店内に…

お客さんは僕以外に子供一人
店内が狭いのでもう2,3人いるとあっという間に混んでしまう
早く選んで買ってしまおうと
いつものようにトレーとトングを手に狙ってたパンへ

と、子供がおぼつかない足取りで
トングでパンを取ろうとするのが目についた

(落としそう…)
と、思う間もなくポトッとパンを落としてしまった

手でゆっくりと拾い上げてまたトングを手に次のパンへ
トングを強く握れないのかまた落ちそうな雰囲気の中…
やはりまた落としてしまう

さっと僕がパンを拾い
「代わりに取りましょうか」
従業員が
「落ちた分はお取替えしますよ」
と、同時に声をかける

子供の鞄の”ヘルパーマーク”が目に入った
多分従業員も一緒だった

子供は少し困った表情で何も言わない

「カランカランッ」
入口を開けて母親が店内に
『すみません。落ちたパンは責任もって購入しますので
 このまま子供に取らせてください』

「もちろん大丈夫ですよ」
従業員は優しく答え、
僕はパンが取りやすいように少し端に寄り待つことに

トレーを少しフラつかせながらもトングで一生懸命掴んでいく
他のパンを落とさないように注意しながら、ゆっくりと…
トレーに載せた瞬間に何故か安堵する自分と従業員
自然に小さな拍手がわいていた

会計時に子供が嬉しそうに
「僕一人でできたんだよ!パパとママが好きなパンも買えたんだよ!
 帰ったら一緒に食べようね!」

お母さんは涙目で嬉しそうに頷き、
手を繋いでお店を出ていく
もちろん荷物は子供が自分で持っていた

声をかけた時の不安そうな表情はまったくなく
どこか誇らしげな顔だった

子供が何かをする時は「親切心」や「親心」でつい助けたくなるもの
でも、僕が仮にあそこでパンを全部取っていたらその子は
「自分ができた」という達成感を感じれなかったかもしれない
今後も一人でパンを買うことに対して自信が持てなくなったかもしれない

「見守る」という形の「愛情」もあるんだ
とても大切なことを学ばせてもらった

自分も会計を済ませパンを手に公園へ
色づき始めた葉を眺めながらいつも購入してるお気に入りのパンを口に運ぶ
不思議なことに普段よりも美味しく感じた






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