臨床場面における架空事例 2
扱う事例について
このnoteは臨床場面において生じられると考えるさまざまな事例について、筆者がこれまでの経験や学びから得た情報をもとに、総合的に架空ケースとして作成する完全オリジナルの臨床ケースである。
臨床実践をはじめとする事例検討などで、参考になれば幸いである。
年齢・性別
年齢・性別
48歳 男性 かなり肥満気味
主訴
主訴
社会との繋がりを再構築する中で、現実とのギャップに苦しんでおりどうすればいいのか分からないでいる。この状態をなんとかしたい。事前のベックでは中程度の鬱。
状況
状況
1年ほど前まで完全に社会的引きこもりとして生きてきた。しかし、88歳になる父親の認知症が進み、体力も低下。誰かの介護なくてしては、完全に1人では生きていくことができなくなる。
そこで父親の介護を行ってきた。そんな中でデイサービスを利用するなど、社会的な繋がりが数十年ぶりに復活した。
そういった環境で、ふと現実に目を向けると弟は結婚し、家庭があり、子どもがある。他の同級生も同様に会社で管理職についた同級生を知ることになる。
これまで拒んできた社会とギャップに苦しみ始める。
8年前に母は他界している。
来談理由
来談理由
父親のデイサービスに自宅訪問してくれた職員の方にこういった状況を話す機会があった。カウンセリングというものがあることを知り、今回自宅近くにあるこのカウンセリングルームを自ら予約し来室された。
引きこもりになった過去と生活
引きこもりになった過去と生活
もとから体は弱かった。大学まではいったものの、1回留年し、それでもなんとか卒業はできた。そういう点で、親には感謝をしている。しかし、社会に適応できない、社会不適合者なんだということを自分の中でのみ理解し、鬱気味になり、社会とかかわってはいけないと考え、自宅に引きこもるようになる。昼夜も逆転し、1日中テレビゲームやネットで芸能人の不祥事について叩くことを生業にしてきた。
そうこうしているうちに、50歳が目前に迫ってきた、47歳の春に父親が認知症を発症していることに気づいた。今まで自分の世話をしてくれていた父親が弟の妻の名前を言えなくなってしまった。そこからは早かった。認知症は一気に進むと聞いたことはあったが、生活がままならなくなっていた。今までのこともあったので、自分が助けなきゃという思いで介護を率先してやった。最初は嫌だった。今まで自分が介護されているようなもんだったのに、いきなりその立場が逆転し受け入れられないものもあった。
現在では、その状況も受け入れとにかく父の介護に精をだしている。しかし、それも有限であることは自身の中で理解している。
弟との関係
弟との関係
3歳年の離れた弟がいる。彼はなんだかんだ自分と違い、勉強もできて国立大学に受かり、総社勤務である。弟からは、特に嫌われているように思う。結局、弟はうまくいっている自分には嫉妬心はないが、弟から見た自分は嫌悪の対象であることは分かっている。わかっているが、雑に扱われることは違う気がする。自分が悪いことは分かっている。だけどそんなにぞんざいに扱わないでほしい。父親が認知症になったときにも、自分のせいだと責めてきた。責められる理由が分からない。家庭や仕事を持つとこんなに相手に冷たくなるのかと思った。
本当の主訴
本当の主訴(コアペイン)
弟との関係改善を求めている。もちろんこれまで人間関係を構築してこなかったつけもあって、人との適切な接し方が分からない。このまま父に旅立たれたとき、自分がどうすればいいのか漠然としつつも、迫りくる不安を解決したい。