AIのための読書リスト 5
自分が実際に読んだ本の中から、AIとの付き合い方のヒントになりそうな7冊を紹介する。今回は思考や創造性に関連する本を集めた。
01. AI・ロボットと共存の倫理
今後、ますます社会に浸透していくことになるAIとロボットを、私たちはどう捉えどう付き合っていくべきなのか。倫理という観点から、6人の研究者による研究を紹介する一冊。
アロポイエティック、天然知能、弱いロボットと愛着、介護、AIを活用した政策提言、AI倫理の実装をめぐる課題など、様々なキーワードや問題提起が投げかけられる。哲学や歴史から技術や実装まで、人間が彼らと共存していくために必要な倫理は、幅広い分野を横断する。
なかでも5章は惑星規模の大きな問いとなっており興味深い。AIを活用した未来構想と政策提言は可能なのか?新しいアニミズムという情報観は人間の世界把握にどのような影響を与えるのか?脱人間中心主義的な地球倫理はAIとどう関係するのか?社会に浸透していくAIの可能性と不可能性について、スーパー情報化とポスト資本主義の分岐点から考察してみたい。
02. ALIFE
「人工的につくられた生物のような生命」を意味する人工生命(artificial life=ALIFE)についての一冊。自然の進化が生み出すような終わりのない(=オープンエンドな)進化はコンピュータで実現できると考える。
セル・オートマトン、ルンバ、鳥の群れ、インターネット、新規性探索アルゴリズムなど、オープンエンドな進化のための5段階のアプローチを紹介する。自然の生態系のような豊かさをもち、生命的なふるまいを見せるアルゴリズムは、まさに人工生命を体現しているかのよう。
そこで起こる創発的な現象は、わたしたちの創造性を拡張し、より生きやすい社会を目指すうえでブレイクスルーとなるアプローチにもつながる。日常生活の中で何気なく行っている動作や行為、人と環境との相互作用から、創造性について学ぶべきことはたくさんある。
03. 天然知能
人工知能でも自然知能でもない、天然知能についての一冊。「創造する知能」である天然知能は、世界の捉え方が少し特殊である。
目的が明確でそれに向かって適切に対処する人工知能は1人称的な、知覚できるデータをもとに客観的な世界把握を行う自然科学的な自然知能は3人称的な知能であると言える。他方、「評価軸が定まっておらず、場当たり的で、恣意的で、その都度知覚したり、知覚しなかったり」する天然知能は1.5人称的であると著者は言う。
ただ世界を受け入れ、予想も出来ない「外部」からの何かと邂逅しようとする天然知能のみが、「創造性を楽しむ」ことが出来る。合目的的でも自然科学的でもない中動態的な姿勢が、人間と動物とAIの創造性の一つの鍵になるのかもしれない。
04. 人間非機械論
AIの源流にあるのが、コンピューターの父フォン・ノイマンの影響のもと、二〇世紀の知的世界を席巻し、認知科学やSFに影響を与えた科学、サイバネティクスである。しかし、その起源には、現代科学と相反する思想が胚胎していた――(紹介文引用)
生命を機械と同一視するわけではなく、人間生物非機械論を提示するサイバネティクス。「目的」は科学にとって長らくタブーだったのだが、生命や行動を考えるための有力な論となった。
自律性、自己同一性、単位体、入出力の不在、というオートポイエーシスの特徴は、生命に固有の特徴とされ、それは現状の機械には見られないものである。システムとその外界との相互作用に関する理論が、認知、組織、社会などにも適用されていく。人間と機械の本質的な差異を考えるうえでの、重要な参照先ともいえる一冊。
05. アブダクション
科学的発見や創造的思考を生み出す推論に関するパースの思想。演緯・帰納と並ぶ第三の推論として彼が提唱したのが、創造的発見を生み出す「アブダクション」である。この厳密でない推論の可能性を探る。
AIが何かを分析したり生成したりする過程も推論と呼ばれている。AIは過去の事例を膨大に学習し、もっともらしい結果を出力する。AIが仮説や発見を行っているとは言い切れないかもしれないが、そこには確かに、帰納的でも演繹的でもない、論理の飛躍による創造的なプロセスが見て取れる。人工知能やコンピュータサイエンスの研究者からも注目を集める概念である理由が分かる。
また、情報過多の現代において、科学的に検証された事実と実験による条件付きの事実、全くの嘘などの違いを見抜くのが難しくなってきている。生成AIも一つの原因であるこのポストトゥルースの時代に、必要不可欠な論理学の基本を学べる一冊。
06. リアリティ+
VRや情報技術によりリアリティは確かなものではなくなってくる。
「シミュレーション仮説」「可能世界」「水槽の中の脳」などさまざまな思考実験を通じ、哲学とテクノロジーを横断した世界観を提示する。
AIが生み出す虚構の現実について考える上で、知っておいて損はない。
07. スローターハウス5
時の流れの呪縛から解き放たれたビリー・ピルグリムは、自分の生涯の未来と過去とを往来する、奇妙な時間旅行者になっていた。大富豪の娘と幸福な結婚生活を送り……異星人に誘拐されてトラルファマドール星の動物園に収容され……やがては第二次世界大戦でドイツ軍の捕虜となり、連合軍によるドレスデン無差別爆撃を受けるビリー。時間の迷路の果てに彼が見たものは何か? 著者自身の戦争体験をまじえた半自伝的長篇。(紹介文より)
分裂症的に主体や時間から離脱し、受動的に人生を彷徨う主人公は、ふつうの人間とはまるで異なる思考のフレームを手にしている。彼の、すなわち著者の哲学からは、不条理を受け入れた先にある人間の可能性や創造性を感じることが出来る。
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