たったこれだけ。
最近、寿命幾許もないご老人と出会いました。
その方を"おじちゃん"と呼ばせてもらう事にします。
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#生死 #人生 #ノンフィクション #この花の名は
ー 再会 ー
ある日、母から
「友達のお父さんがもう死にそうなんだって、
会いにいくからヒナもおいで。」
と言われました。
: 知らん人の死に際に、会いに行きたくないな。
私はその人にもみんな(母の友人家族)にも、
どんな顔で会えばいいか分からなくてこわかった。
嫌々ついて行った先で、
ベッド上で生活しているご老人に出会いました。
母の友人にとっては、父親です。
初めて会ったはずのご老人は、
ニコニコしながら私の昔話を始めました。
;よく泣いてたよ〜。
わんわん泣いててさぁ〜、大変だったなぁ。
俺がずっと抱いててやったんだよ笑
産後1年間、外出できなかった母の為に
私を預かってくれた事があるらしいです。
あんまり幸せそうに笑って話すもんだから、
照れ臭くなって私は上手く喋れなくなりました。
: 似てるな、じいちゃんと。
祖父との思い出が年々薄れていってしまっている私にとって、おじちゃんとの時間は、
どこか懐かしいような、ふんわり・たんまりした愛を感じられる時間でした。
: じいちゃんが生きてたら、こんな感じか〜。
なんだかこの家族みんなが羨ましくなりました。
: 死にそうもないじゃん。
よく笑ってよく喋るんですよこのおじちゃん、
私なんかよりもずっと、
まるで夫婦漫才を観に来ているかのようでした。
私の元気を吸い取ってもらうはずだったのですが、
私の心をぐっと広げてもらい、
元気を詰め込まれてしまいました。
なぜだか、
思わず顔を逸らしてしまうほど眩しいものに
照らされ続けているかのような感覚を覚えました。
生のエネルギーが大きく弾けてしまいそうで
少し、こわくなったからだと思います。
めずらしく。
こうして私は、おじちゃんと
20年越しの再会を果たしました。
ー 次の約束 ー
おじちゃんの家からの帰り道、
「おじちゃん、まだまだ生きるね。」
なんて話しをする車内には
珍しく柔らかい空気が漂っていました。
: 会いに来て良かった。また来よっと。
20年ぶりに会ったおじちゃんは
なんだか懐かしい感じがする人で、
話の中心に居ながらも犬と男2人で戯れている、
ユーモアのある、可愛らしいおじいちゃんでした。
知らない人だと思っていたのに
母親になったばかりの母を支えてくれた人であり、
赤ん坊の私を抱いていてくれた人でもありました。
愛に包まれるって、こんな感覚なのだと思います。
家族LINEが動いたのはそれから1週間と2日間後の
7月9日木曜のお昼時でした。
: は?どゆこと?
一瞬で頭が働かなくり
身体が冷や汗をかきながら硬くなって
指先が震える感じがしました。
私は会社の給湯室にいました。
: あんなに元気だったのに、違うの?
突然すぎる連絡に心は動揺を隠せません。
もったりとした空気に捕らえられ、脳ミソだけが
宇宙へ旅立ってしまったかのような感覚。
出掛ける支度をしている10分足らずの束の間に
眠るように逝ってしまったそうです。
私は最期を見届けることもできず
顔を合わせることもありませんでした。
: なんでよ、
血の繋がりのない私達の別れは、こんなものか。
あの日、会いに行っていなければ
こんな思いにはせずに済んだはずです。
じんわりと溢れる汗が目に染みました。
ー お別れ ー
私は知らないところで、
とっても愛されていた事を知りました。
私が出会ったご老人は
若い母を助け、支えてくれた恩人で
幼い私を抱いていてくれた、おじちゃんでした。
私は、おじちゃんを抱きしめたかった。
おじちゃんの人間性が溢れる、
最期だったのかなと思います。
: 寂しいよ。
おじちゃん
あの日騒がしくしちゃってごめんね、
あの場にいた誰よりもおじちゃん夫婦が
お元気そう、だったよね。笑
生きてるんだ って痛いほど感じたよ。
お喋りしている時間が楽しくて
とっても幸せだったよ。
それからさ、みんな悲しんでるよ?
逝くときくらい、教えてよ。
でもきっと、私達みんな似てるから
なんとなくわかってる。
だからみんな、怒ってないよ。
お別れしたくないけど、これでお別れします。
私のおじいちゃんが嫉妬すると思うし。
時間がかかってしまって、ごめんね。
本当にお待たせしました。
私も人に愛を与えられる人間になります。
人から愛される人間であります。
生きます。
私はまた1つ、歳をとるよ。
母がおじちゃんを呼ぶように
いつまでも愛を込めて
私にも"おじちゃん"と呼ばせて下さい。
いっぱいいっぱい、ありがとう。
2020.08.08
ひなこ
令和2年7月9日木曜日
おじちゃんへ
ご冥福をお祈りします。