尿失禁の治療 ①下部尿路リハビリテーション治療
尿失禁の治療 ①下部尿路リハビリテーション治療
清水信貴
JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION
第31巻・第9号(通巻372号)・2022年8月号
P842-847
【アブストラクト】
Ⅰ.生活習慣の改善
過活動膀胱や腹圧性尿失禁に関わる生活習慣の要因には、肥満、喫煙、飲水過多(炭酸飲料、アルコール)等がある。
それに伴い生活指導を行うが、重症の便秘、過度のコーヒーやアルコール摂取、水分摂取制限、排尿障害に関連する薬剤情報の提供、長時間の座椅、下半身の冷えを避けるための適切な運動指導を行うが、エビデンスがあるのは体重減少のみである。
Ⅱ.膀胱訓練
膀胱訓練は、膀胱内をからにするまでの時間延長、蓄尿量増加、尿漏れや尿失禁に伴う切迫感の軽減を図る有効な行動療法の一つである。
尿意の有無にか関わらず、排尿スケジュールを守り尿失禁をしない「定時排尿法」である。それでも時間外に尿意を催すこともある為、リラックスや骨盤底筋体操等、尿意抑制テクニックを用いることも有効である。3~4時間を快適に過ごせるように15〜30分間隔に時間を延長していく。
またこれらの一連の行動を排尿日誌を用いて記載することで、医師や医療従事者が改善状況の監視することができる為有効である。
Ⅲ.骨盤底筋訓練
骨盤底筋訓練は骨盤底筋の収縮と弛緩を繰り返すことで脆弱化した骨盤底筋の機能改善を図るものである。腹圧性尿失禁、過活動膀胱等に最初に推奨される治療法である。
骨盤底筋とは尿道括約筋、球海綿体筋、肛門挙筋、外肛門括約筋等の総称であり、これらが緩むと尿失禁、便失禁、子宮・膀胱・小腸・直腸脱等につながる。
骨盤底筋訓練は、非侵襲的で、副作用がなく、開始時期を問わず、他の治療との併用も可能である。だが、正しい収縮の習得が難しく、即効性が無いことで意欲の持続が困難なことが臨床課題である。
そのため骨盤底筋訓練導入にあたり、患者の意欲、セルフケアが可能な生活環境・心身状態を確認し、患者への訓練による症状改善の期待について説明することで意欲向上を図ることが必要である。
Ⅳ.電気・磁気刺激療法
わが国で保険適応となっている電気・磁気刺激療法(神経変調療法)は干渉低周波療法と磁気電気刺激療法である。その他に骨盤底電気刺激療法もあるがこちらは保険適応外である。
これらの神経変調療法は腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁に対する有効性が一般的に報告されている。
(治癒率30〜50%、改善率60〜70%)
干渉低周波治療法は、皮膚表面で刺激抵抗性が低い異なる2つの中周波電流(4000Hz、4020Hz)を体内で交差させることでその位相差により生じる低周波20Hzにより神経・筋組織へ刺激を行う治療である。
磁気刺激療法は刺激コイル・コアから磁気エネルギーを出力し、そのパルス磁場(変動磁場)により生体内に過電流を発生させ、骨盤底領域の神経(主に陰部神経)を刺激する。
最近は、これにハンドヘルド磁場パルスアプリケーターを搭載し、より強力な磁気で筋肉や神経に刺激することで骨盤底筋や体幹筋を鍛えることができるものがあり、自費診療であるが尿失禁への有効性が報告されている。
Ⅴ.ボツリヌス毒素注入療法
ボツリヌス毒素注入療法は「既存治療で効果不十分又は既存治療が適さない過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁」、「既存治療で効果不十分又は既存治療が適さない神経因性膀胱による尿失禁」が適応症例であり、最初に用いられる療法ではなく、「行動療法、各種抗コリン薬及びβ3作動薬を含む薬物療法を単独または併用療法として、少なくとも12週間の継続治療を行っても効果が得られないまたは継続が困難と医師が判断したものに対して行った場合」に治療可能となる。
尿失禁回数の減少率、切迫性尿失禁回数の変化量、尿意切迫感回数の変化量、排尿回数の変化量でも有効性の報告がある。
Ⅵ.外科的治療
現在、標準術式として最も施行されているものにTVT(恥骨後式)やTOT(経閉鎖孔式)手術等の中部尿道スリング手術がある。これは中部尿道をポリプロピレンメッシュのテープで支持する方法である。
TVTは術後2〜17年の短期・長期成績も良好であり、TVT術後12年目では重度の膣痛や鼠径部痛がない報告がある。
【勉強となった点】
尿失禁は60歳以上の高齢女性で頻発され、臨床場面でも多く遭遇する。その際にメリットが多くある骨盤底筋訓練を指導した経験があったが、本稿でも触れられているような課題を経験した。
更なる訓練効果のために、動機づけや意欲向上へのアプローチも重要であり、それに加え、セルフケアの実施状況や生活環境、心身状態の確認が必要であることがわかった。
【最後に一言】
近年は「日本排尿機能学会」や「日本老年泌尿器科学会」の開催時に「骨盤底筋トレーニング指導者育成セミナー」に多くの医療従事者が参加されているとのことであり、医療職全体としても関心が高まる分野ではないでしょうか。興味のある方は導入としてもおすすめしたい。
記事:本多竜也
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