パーキンソン病Hoehn and Yahr重症度分類Ⅴの理学療法
パーキンソン病Hoehn and Yahr重症度分類Ⅴの理学療法
坂野 康介
理学療法ジャーナルVol.55 No.11 2021.11 p1200-1206
【文献の要点】
・Hoehn and Yahr重症度分類Ⅴ(以下、H-Y分類)の患者に対し、生命機能維持や褥瘡・拘縮予防を目的とした理学療法が推奨される。
・理学療法として、ベッド、車椅子でのポジショニングや呼吸ex、介護者への介助方法指導などが挙げられる。
・介護負担の軽減のため福祉用具の導入も必要であるが、患者本人、介護者お互いの能力、思いを両立できるような介入が求められる。
【文献の基本構造】
H-Y分類Ⅴは車椅子の生活や寝たきりとされているが、実際の臨床像はどうなのか。そして、H-Y分類Ⅴの患者に対する理学療法を、ベッド上、車椅子上、呼吸機能、介護者への指導という観点から説明している。
【H-Y分類Ⅴの理学療法のポイント】
〇ベッド上での介入
体幹前屈姿勢や腰背部の筋萎縮により、棘突起部や仙骨部などの骨突出がより目立つ。さらに、低栄養や自身での体動困難がみられ、褥瘡発生リスクが高まるため、多職種でのケアが基本となる。介入前には、骨突出部位や皮膚、栄養状態の把握、体位変換能力、介護者の技術などをチェックする。ここではパーキンソン病患者に有効な骨盤先行型の寝返り方法を写真と合わせ説明している。また、自力での体位変換能力に合わせたマットの使用などの検討も必要である。
〇車椅子上の姿勢
前屈姿勢などによる姿勢の崩れが、胸腔圧迫や呼吸苦、食べこぼしの増加など誤嚥のリスクを高める要因となる。姿勢調整は異常姿勢の固定化の予防、最小努力での姿勢保持、ヘッドコントロール、上肢操作性の再獲得など、患者それぞれの目標に対し行っていく。背張り調整やクッション付きベルト、体幹装具の使用など、体幹が倒れやすい方向や体格に合わせ調整していく。
〇呼吸機能
拘束性換気障害、気道閉塞障害、咳嗽障害といった呼吸機能障害から、誤嚥性肺炎を繰り返す患者も多い。誤嚥物の喀出には、十分な吸気と声門閉鎖、呼気筋の協調的な収縮が重要となり、咳嗽時の最大呼気流速、肺活量、胸郭可動性などが指標となる。理学療法では、咳嗽練習や胸郭のストレッチ、排痰援助の体位ドレナージなどを行う。胸郭や肺コンプライアンスの拡大を図るだけでは、咳嗽力の強化に繋がらないケースもあるため、アクティブサイクル呼吸法などを併用することが望ましい。
〇介護方法の指導
高齢化や医療の発展により、重症度の高い状態での介護が長年にわたることが多くなっている。そのため、介護者の負担を軽減できるような介護方法の指導も重要な役割である。H-Y分類Ⅴでは基本動作、ADLと介助量が大きくなるが、起立動作能力は比較的保たれているケースも多い。すくみ足など方向転換が困難なため、起立をせずにトランスファーボードを使用することがあるが、患者のできる動作を見逃してしまう場合もある。患者本人、介護者お互いの能力、思いを両立できるような介入が求められる。
【まとめ】
本稿では、ベッド、車椅子、呼吸機能、介護者への指導という観点からそれぞれに対する介入を著者の経験をもとに述べており、明日からの臨床へ活用できる。
H-Y分類Ⅴでは基本動作、ADLと全介助レベルとなり、生命機能維持や褥瘡・拘縮予防と他動的な介入が多くなると考えられる。そのなかで、福祉用具などの導入により、患者のできないことが補え、介護者の負担軽減を図ることができる。しかし、患者のできることを見落としてしまうこともある。著者が述べているように、できることが少なくなってくるからこそ、患者や家族の思いを尊重し、残存機能を活かした介入、関わりをしていきたい。
記事:ながちゃん
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