ナイン・ストーリーズ J.D.サリンジャー
訳者 柴田元幸
サリンジャーの本を読むのは、これが三冊めだ。
私は、サリンジャー文学にはとっつきづらい印象を持っている。だが読みづらいぶん、腹にストンと落ちる箇所が際立って、よく心に刺さるのだ。要するに、抑揚が効いている。サリンジャー文学のそんな魅力に取り込まれ、私はこの本を手に取った。
暗闇のなか、両目を手で塞がれた私が、サリンジャーの手に引かれて、行き先も知らずに導かれて行く。手探りで、覚束ない足取りで。そんな風にして、短編が九本収められた『ナイン・ストーリーズ』を