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子ども・思春期でも運動不足と血圧の関係;体脂肪量よりも除脂肪体重がより重要ということも

解説記事:https://www.medicaldaily.com/walk-10-minutes-after-every-hour-sitting-reduce-blood-pressure-study-suggests-472681


  • 座位的生活習慣と慢性疾患: 座位的な生活習慣は高血圧や糖尿病を含む慢性疾患のリスク増加と関連する。短い休憩を取り入れることで影響を軽減できる可能性がある。

  • 座位時間と血圧の関連:

    • 子供時代から1日6時間以上座る生活を継続すると、収縮期血圧が平均4mmHg上昇する。

    • 1時間の座位時間のうち10分を軽度身体活動(LPA)に置き換えると、収縮期血圧が3mmHg、拡張期血圧が2mmHg低下する。

  • 血圧低下の意義: 収縮期血圧を5mmHg低下させると、心臓発作や脳卒中のリスクが10%減少することが報告されている。

  • 研究の概要:

    • 「90年代の子供たち」コホート(University of Bristol)の2513人を対象に、11歳から24歳まで追跡。

    • 座位時間、軽度身体活動(LPA)、中強度身体活動(MVPA)および血圧を11歳、15歳、24歳の時点で測定。

  • 運動行動の変化:

    • 子供時代は1日6時間が座位時間、6時間がLPA、55分がMVPA。

    • 若年成人期では座位時間が9時間、LPAが3時間、MVPAが約50分に変化。

  • 主要な結果:

    • 成長期に座位時間が増加すると、収縮期血圧が平均4mmHg上昇。

    • 子供時代からLPAに取り組むと、最終的な血圧を3mmHg低下させる効果があった。

    • MVPAは血圧低下には有意な効果を示さなかった。

  • 推奨事項:

    • 1日少なくとも3時間のLPAが、高血圧や血圧上昇を予防・逆転させる上で重要である。

    • LPAの例として、長い散歩、家事、水泳、自転車などが挙げられる。

    • 子供や青年がLPAに取り組むことを、親、医師、政策立案者が奨励すべきである。


Agbaje, Andrew O. 「Lean Mass Longitudinally Confounds Sedentary Time and Physical Activity With Blood Pressure Progression in 2513 Children」. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, 2024年11月13日, jcsm.13639. https://doi.org/10.1002/jcsm.13639.

背景

ランダム化比較試験では、中強度から高強度の身体活動(MVPA)が若年者の血圧(BP)を低下させる効果がないと報告されているが、これは試験期間が短いことが原因である可能性がある。本研究では、11歳の児童を対象に、座位時間(ST)、軽度の身体活動(LPA)、およびMVPAが13年間にわたって血圧に与える縦断的な影響を調査し、体組成の交絡要因および媒介的役割を検討した。

方法

データは、英国の出生コホート研究であるアボン親子縦断研究(ALSPAC)に参加した2513人の児童を対象とし、フォローアップ期間中に加速度計で測定された運動行動の少なくとも1時点のデータと、11歳、15歳、24歳での完全な血圧測定データを含む。体組成は、すべての時点で二重エネルギーX線吸収法(DXA)により評価した。多変量調整された一般化線形混合効果モデルと構造方程式媒介分析を用いて解析を行った。

結果

参加者2513人(61%女性、平均[標準偏差]年齢11.72[0.21]歳)のうち、STは子供時代(11歳時)の約6時間/日から若年成人期(24歳時)の約9時間/日まで一貫して増加した。一方、LPAとMVPAは減少したが、血圧は逆U字型の増加を示した。縦断的解析では、完全調整後、11歳から24歳までの累積STが1分増加するごとに、収縮期血圧(SBP)が0.009 mmHg(95%信頼区間:0.007–0.011、p < 0.001)増加し、拡張期血圧(DBP)も同様であった。累積LPAが1分増加すると、SBPが逆に0.007 mmHg(−0.009から−0.004、p < 0.001)減少したが、DBPには有意な影響を与えなかった。

等時間置換解析では、子供時代、思春期、若年成人期において、STの10分をLPAの10分に置換することで、累積的にSBPが−2.63 mmHg(95%信頼区間:−3.17から−2.08、p < 0.0001)、DBPが−1.93 mmHg(95%信頼区間:−2.36から−1.50、p < 0.0001)低下した。一方で、STの10分をMVPAの10分に置換しても、除脂肪体重の絶対的交絡効果により統計的に有意な効果は認められなかった。STとSBPの関連は除脂肪体重の増加によって完全に媒介されており(93%の媒介効果)、累積MVPAと累積SBPおよびDBPの逆相関は、体脂肪量の増加により部分的に媒介された(19%–27%)。

結論

子供時代から若年成人期にかけて、座位時間を1日10分軽度身体活動(LPA)に置き換えることで、SBPを約−3 mmHg、DBPを約−2 mmHg低下させる可能性がある。STおよび身体活動(PA)と血圧との関連では、体脂肪量よりも除脂肪体重がより重要であると考えられ、将来の小児および若年成人を対象とした介入研究では考慮すべきである。


  • 課題と背景

    • 二重エネルギーX線吸収法を用いた長期的な体組成の繰り返し評価が不足しているため、骨格筋量と脂肪量が血圧(BP)への影響における交絡因子または媒介因子としての役割は明確でない。

    • 運動行動が血圧に直接影響を及ぼすのか、代謝や体組成を介するのかは十分に解明されていない。

    • 実験動物モデルや小規模なヒト研究では、座位時間(ST)と高血圧の関連において、脂質代謝の変化、インスリン抵抗性、炎症の増加、筋萎縮が関与する可能性が指摘されている。

  • 小児・若年者における課題

    • 肥満と高血圧の関連は成人では確立されているが、小児・若年者での身体活動(PA)の増加や肥満の軽減が血圧を下げる効果を示すエビデンスは不足している。

    • 過去のランダム化比較試験やメタアナリシスでは、短期間の運動(8~36週間)が小児や青年の血圧を低下させる効果を確認できていない。

    • 小児期から若年成人期において、長期的な軽度身体活動(LPA)や中強度から高強度の身体活動(MVPA)が血圧を低下させるか、また座位時間をLPAやMVPAに置き換えた場合の定量的効果に関する知識が不足している。

  • 高血圧の世界的影響

    • 世界保健機関(WHO)は、2020年から2030年にかけて、身体的不活動が原因で発生する非感染性疾患が5億件に達し、そのうち47%が高血圧に起因すると予測している。

    • 小児・青年期の高血圧および血圧上昇の有病率は6%~12%であり、これらは中年期における致死的・非致死的な心血管イベントのリスク増加や、若年成人期での心臓損傷リスクと関連している。

  • 臨床的推奨事項の課題

    • 最新の小児・青年における高血圧の診療ガイドラインでは、血圧低下のための身体活動の推奨は弱いとされ、体重減少や栄養改善などの生活習慣介入に重点を置くべきとされている。

  • 本研究の目的

    • 小児期から若年成人期(11歳、15歳、24歳)にわたる加速度計で測定した座位時間(ST)、LPA、MVPAと収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の縦断的関連を調査する。

    • 等時間置換解析(座位時間をLPAまたはMVPAに置き換えた場合の血圧変化の定量的評価)を実施する。

    • STやPAが体脂肪量、除脂肪体重、インスリン抵抗性、脂質代謝、炎症を介して血圧に与える影響の程度を評価する。

    • データは英国の出生コホート「Avon Longitudinal Study of Parents and Children(ALSPAC)」を使用した。


方法

研究コホート

  • 本研究は、イングランドの出生コホート「ALSPAC(Avon Longitudinal Study of Parents and Children)」のデータを使用した。

  • 11歳、15歳、24歳のクリニック訪問時に血圧測定データが完全に得られており、座位時間(ST)、軽度身体活動(LPA)、中強度から高強度の身体活動(MVPA)の少なくとも1回の測定が含まれる2513人を分析対象とした。

  • 除外された参加者は、測定データが揃っていないものの特性が分析対象者と類似していた。

  • 倫理承認はALSPAC倫理委員会および地域倫理委員会から得られており、参加者からインフォームドコンセントを取得している。

曝露因子(座位時間と身体活動の評価)

  • 11歳と15歳の訪問時には、腰に装着した加速度計(ActiGraph)を7日間装着して運動行動を測定。

  • 24歳では、ActiGraph GT3X+を4日間装着して運動行動を測定。

  • データは加速度計の30Hzの生データを60秒単位に変換したカウント値として記録した。

アウトカム(血圧測定)

  • 11歳と15歳ではDinamap 9301モニターを使用し、24歳ではOmron M6を使用して血圧を測定。

  • 参加者に対して、血圧測定の仕組みを風船の膨張になぞらえて説明。

  • 腕周囲長に基づき、小型または通常サイズのカフを使用し、右腕で測定。収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)の平均値を解析に使用。

交絡因子および共変量

  • 11歳、15歳、24歳で標準プロトコルに基づき身長と体重を測定し、体格指数(BMI)を算出。

  • 体組成(総体脂肪量と除脂肪体重)はDXAスキャナーで評価。

  • 心拍数はデジタルモニターで測定。

  • 空腹時採血でグルコース、インスリン、CRP、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリドを分析し、HOMA-IRを計算。

  • 喫煙状況、家族歴(高血圧、糖尿病、脂質異常症、血管疾患)や母親の社会経済的状況も調査。

統計解析

  1. 縦断的関連解析

    • 一般化線形混合効果モデル(GLMM)を使用し、11歳から24歳のST、LPA、MVPAの変化とSBPおよびDBPとの関連を解析。

    • 欠損データに対し、20回の多重代入を実施。

    • 性別、脂質、体組成などの共変量で調整したモデルを構築。

  2. 等時間置換解析

    • STをLPAまたはMVPAに置き換えた場合の理論的な血圧変化をシミュレーション。

  3. 媒介解析

    • 累積ST、LPA、MVPAとSBPおよびDBPとの関連において、脂肪量、除脂肪体重、インスリン抵抗性、脂質、CRPの媒介効果を構造方程式モデルで評価。

    • Sidak補正を用いて多重比較の影響を調整。

使用ソフトウェア

  • SPSS Statistics(Version 27.0)を使用して統計解析を実施。

  • IBM AMOS(Version 27.0)を用いて構造方程式モデルを構築した。


結果:


11歳から24歳における運動行動および血圧(平均±標準偏差)の軌跡、および2513人の子供を対象とした中強度身体活動(MVPA)と収縮期血圧の縦断的関連において、全脂肪量の媒介効果を示す結果である。予測因子と結果の縦断的関連の大きさが第3の変数を含めることで減少する場合、媒介が確認される。BPは血圧、MVPAは中強度から高強度の身体活動を指す。媒介の構造方程式モデルは、性別、高血圧/糖尿病/高コレステロール血症/血管疾患の家族歴、社会経済的状況に加え、年齢、高感度C反応性タンパク質、心拍数、喫煙状況、座位時間、軽度身体活動、高密度リポタンパク質コレステロール、低密度リポタンパク質コレステロール、トリグリセリド、除脂肪体重、グルコースおよびインスリンなどの時間変動性共変量を調整した。βは標準化回帰係数を表し、両側p値<0.05が統計的有意とみなされた。
  • BPの経時的変化: 11歳から24歳にかけて、収縮期血圧および拡張期血圧(BP)は男女ともに逆U字型の増加を示した。

  • 運動行動の変化: 座位時間(ST)は6時間/日から9時間/日に増加し、軽度身体活動(LPA)は減少、中強度身体活動(MVPA)は男女ともに減少したが、男性は女性よりも60分/日以上のMVPAを達成する割合が高かった。

  • ST, LPA, MVPAとBPの関連(単独および分割モデル):

    • 累積STは収縮期・拡張期BPの増加と関連した。

    • 累積LPAは収縮期BPの減少と関連し、拡張期BPには関連しなかった。

    • 累積MVPAは収縮期BPの減少と関連したが、除脂肪体重を調整すると関連は消失した。拡張期BPにはむしろ増加と関連した。

  • 感度分析: 完全データセットや部分的データセットの分析結果は、メインの分析結果と一致した。

  • ST, LPA, MVPAとBPの関連(構成データ分析):

    • STはLPAおよびMVPAに対して相対的に収縮期BPの増加と関連した(除脂肪体重を除外した場合)。

    • LPAはSTおよびMVPAに対して相対的に収縮期・拡張期BPの減少と関連した。

    • MVPAはSTおよびLPAに対してBPに有意な影響を及ぼさなかったが、除脂肪体重を除外すると収縮期BPの減少と関連した。

  • STをLPAまたはMVPAで置換した場合のBPへの影響:

    • STをLPAで10分置換すると収縮期BPは-2.6mmHg、拡張期BPは-1.9mmHg減少した。

    • STをMVPAで10分置換すると、除脂肪体重を除外した場合に収縮期BPは-11.3mmHg、拡張期BPは-3.4mmHg減少した。

  • 体組成の媒介効果:

    • 累積STとBPの正の関連において、除脂肪体重が収縮期BPの92.7%、拡張期BPの26.5%を媒介した。

    • 累積LPAとBPの負の関連では、全脂肪量が5.4%-6.6%、除脂肪体重が18%-20%を媒介した。

    • 累積MVPAとBPの負の関連では、HDL-cが6.2%、全脂肪量が19%-27%を媒介した。


Discussion要約

  • 研究の概要: 子供の運動行動と血圧(BP)の縦断的な変化を調査し、座位時間(ST)が収縮期および拡張期BPの増加に独立して関与する潜在的なリスク因子であり、軽度身体活動(LPA)がBP増加を予防・逆転させる理想的な介入となり得ることが示された。

主な結果

  • STとBPの関連:

    • 累積STは収縮期および拡張期BPの増加と独立して関連した。

    • 子供時代から若年成人期にかけてSTは6時間/日から9時間/日へと増加した。

    • STをLPAで10分置換すると、理論上収縮期BPが-3mmHg、拡張期BPが-2mmHg低下すると推定された。

    • STとBPの正の関連において、除脂肪体重が93%の媒介効果を持つことが確認された。

  • LPAとBPの関連:

    • 累積LPAは収縮期BPの減少と関連した。

    • LPAは特に60分/日の中強度身体活動(MVPA)を達成できない人々にとって有望な介入戦略と考えられる。

    • 累積LPAのBP低下効果は、体脂肪量の増加によって部分的に減弱されることが示された。

  • MVPAとBPの関連:

    • 累積MVPAおよび60分/日以上のMVPAは、収縮期BPの減少と関連しなかった。

    • MVPAはむしろ拡張期BPの増加と関連したが、これは除脂肪体重の混乱効果によるものと考えられる。

    • 媒介分析では、MVPAとBPの関連は体脂肪量の媒介によって部分的に説明された(20%-30%)。

公衆衛生上の意義

  • LPAを推奨することで、BP上昇および関連疾患(非感染性疾患)を予防できる可能性がある。

  • 小児集団におけるLPAの促進は、MVPAよりも実現可能で効果的なBP管理戦略として位置づけられる。

研究の強みと限界

  • 強み:

    • 運動行動、BP、体組成のゴールドスタンダード測定を含む長期的なデータセットを使用。

    • 仮説検証のための高度な統計モデルを適用。

    • これまでの知識のギャップを埋める重要な発見を提供。

  • 限界:

    • 参加者のほとんどが白人であり、他の人種や民族への一般化は困難である。

    • 観察研究のため、未測定の交絡因子による偏りの可能性がある(例: 睡眠データ、食事記録の欠如)。

    • 一部のデバイスの違いが測定に影響を及ぼした可能性があるが、高い一致率(r > 0.90)が確認されている。

今後の研究課題

  • 運動行動と24時間BPや仮面高血圧との関連を調査すること。

  • 小児集団におけるLPAの効果を検証するランダム化試験を実施すること。


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