座位時間だけで批判するな!:認知機能に関する時間再配分のポイント静的時間(読書や音楽鑑賞など)やスポーツ/運動に時間を増やすことは、認知機能の向上に有益
すべての座位活動が脳の健康に同じ影響を与えるわけではないことが研究により明らかになった。
社会的・精神的に刺激のある活動を含む座位時間は、映画やテレビの視聴に比べて認知機能を向上させる可能性がある。
研究概要
60歳以上の高齢者397名を対象に、日常活動が記憶力や思考能力に与える影響を分析した。
読書、音楽鑑賞、クラフト制作、祈り、友人との会話は記憶力や認知機能を向上させるとされた。
長時間のテレビ視聴やビデオゲームなど受動的な活動は、認知機能の低下と関連していた。
座位行動の種類が重要
精神的刺激や社会的交流を伴う活動は脳を活性化させるが、受動的で孤立した行動は有害である。
座っている時間が脳の健康に与える影響は、行動の内容によって大きく異なる。
認知機能への優先順位
座位行動の中でも、精神的刺激と社会的交流を伴う行動が認知機能にとって有益である。
受動的で孤立した行動は、認知症リスクを高める可能性がある。
世界的な認知症問題への対応
世界で5500万人以上、オーストラリアだけで41万1000人以上が認知症に苦しんでおり、脳の健康維持が重要である。
小さな工夫で大きな効果
テレビ視聴の5分間をパズル、読書、友人との電話に置き換えるだけで脳の健康を向上させる可能性がある。
長時間のテレビ視聴中でも、身体活動や精神的に刺激のある座位活動を挟むことでリスクを軽減できる。
推奨される行動
楽しいと感じる身体活動を優先し、心拍数を上げる運動を取り入れることが、脳と身体の健康全般に有益である。
この研究は、座る時間の長さだけでなく、その過ごし方が脳の健康にとって重要であることを示している。
Mellow, Maddison L, Dorothea Dumuid, Alexandra Wade, Timothy Olds, Ty Stanford, Hannah Keage, Montana Hunter, ほか. 「Should We Work Smarter or Harder for Our Health? A Comparison of Intensity and Domain-Based Time-Use Compositions and Their Associations With Cognitive and Cardiometabolic Health」. 編集者: Lewis A Lipsitz. The Journals of Gerontology, Series A: Biological Sciences and Medical Sciences 79, no. 11 (2024年11月1日): glae233. https://doi.org/10.1093/gerona/glae233.
序文要約
時間使用行動と健康への影響
身体活動(PA)、座位行動(SB)、睡眠の24時間における分布は、認知機能および心血管代謝の健康に重要な影響を与える。
各時間使用行動の独立した関係は広く研究されているが、24時間の行動構成(行動バランス)と健康の関連性に焦点を当てた研究が増加している。
心血管代謝の健康との関連
過去の研究により、中~強度の身体活動(MVPA)の増加と座位行動の減少が、体重指数(BMI)、ウエスト周囲径、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール、トリグリセリドなどの心血管健康指標と良好な関連があることが示された。
別の研究でも、MVPAの増加と座位行動の減少が、ウエスト・ヒップ比や血圧と良好な関連を持つことが報告された。
認知機能との関連
MVPAの増加と座位行動の減少が、認知機能の向上と関連するという結果がある一方で、認知機能に関する証拠は不十分であり、結論に至っていない。
24時間の行動構成全体と認知機能との関係を包括的に評価した研究は少ない。
ライフスタイルや社会人口学的要因(年齢、障害、社会経済的地位、人種、遺伝的要因など)が、これらの関係を調整する可能性がある。
座位行動の種類と認知機能
座位行動は単一的ではなく、メタボリックな特徴だけでなく、行動の文脈や特性によっても影響を受ける。
受動的な座位行動(例: テレビ視聴)は認知機能に悪影響を及ぼすが、読書やカードゲームなどの認知的に刺激的な活動は良好な認知機能と関連する。
研究のギャップ
活動強度だけでなく、活動領域(例: 家事、余暇活動、スクリーンタイム)が認知機能や心血管代謝の健康に与える影響を包括的に研究したものは少ない。
24時間の活動パターンを分析するツールとして「子どもと成人のためのマルチメディア活動記録法(MARCA)」が有効であり、活動強度と領域の両方で分類が可能である。
MARCAは慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者の呼吸および全死亡リスクとの関連を調査する研究に使用されたが、高齢者の認知機能や心血管代謝の健康に対する応用はまだ進んでいない。
目的と意義
本研究は、24時間の活動パターン(強度ベースと領域ベース)と高齢者の認知機能および心血管代謝の健康との関連を調査することで、この分野のギャップを埋めることを目的としている。
方法
倫理
ACTIVate研究はオーストラリア・ニュージーランド臨床試験登録(ACTRN12619001659190)に事前登録されている。
南オーストラリア大学とニューカッスル大学の倫理委員会から承認を受けている(202639)。
すべての手続きはヘルシンキ宣言に準拠して実施された。
参加者
本研究は、生活習慣行動と認知機能・健康の変化の関連を調査する前向き縦断コホート研究である。
対象者は2020~2021年に実施されたベースライン評価に基づく。
対象基準:60~70歳、英語に堪能、認知症や主要な精神疾患・神経疾患の診断なし、知的障害や重大な身体障害がないこと。
電話によるモントリオール認知評価(T-MoCA)で認知症をスクリーニング(カットオフスコア<13/22)。
測定方法
24時間の活動パターン
過去2日間の活動と睡眠パターンを参加者が自己報告(MARCAを使用)。
活動を520種類に分類し、MET(代謝当量)や階層的な領域分類に基づいて解析。
活動を以下の8つの「スーパー領域」に分類:睡眠、自己管理、家事、スクリーンタイム、静的時間、家庭管理、スポーツ/運動、社交。
認知機能および心血管代謝アウトカム
認知機能
Addenbrooke’s Cognitive Examination III(ACE-III):認知症スクリーニング(総スコア100点、カットオフ88/100)。
Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery(CANTAB):記憶、実行機能、処理速度の3つの認知複合指標を作成。
心血管代謝指標
腰・ヒップ周囲径:ISAK国際基準に基づいて計測。
血圧:Omron血圧計で測定(座位で3回測定し、2回目と3回目を平均化)。
総コレステロール:血液サンプルから自動分析装置で測定。
共変量
認知症の危険因子(年齢、性別、教育年数、糖尿病、聴覚障害など)を共変量として考慮。
データ分析
24時間行動構成の作成
時間使用行動を「強度ベース(睡眠、座位、軽度身体活動、中~強度身体活動)」および「領域ベース(8つのスーパー領域)」で構成。
欠損値は期待値最大化アルゴリズムで補完し、1,440分に調整。
モデル選択と統計解析
ベイズ情報基準(BIC)に基づいて共変量を選択。
線形回帰モデルを使用し、行動構成とアウトカム(認知機能、心血管代謝)の関連を解析。
False Discovery Rate(FDR)補正を用いてp値を調整。
時間再配分モデリング
行動間で時間を再配分した場合のアウトカムの変化を解析。
予測変化をACE-IIIスコア(0~100)や血圧値などのアウトカム単位で表現し、行動変更の有益性を評価。
結果
参加者の概要
ベースラインで426名が登録、最終サンプルは397名の高齢者。
平均年齢65.5±3.0歳、女性69%、退職者75%、教育年数16.0±3.0年。
54%がアデレードサイトから、88%が都市または内陸部地域に居住。
ACE-IIIスコア平均95±3.0(最高100点)、CFIスコア平均1.5±1.6(主観的認知問題は低い)。
活動時間の割合:
強度別:座位行動9.0時間、睡眠8.5時間、軽度身体活動4.0時間、中~強度身体活動2.4時間。
領域別:睡眠9.7時間、家事3.5時間、家庭管理2.5時間、自己管理2.4時間、社交2.2時間、スクリーンタイム1.9時間、静的時間1.0時間、スポーツ/運動0.8時間。
24時間行動構成と認知機能および心血管代謝アウトカムの関連
認知機能(ACE-IIIスコア)
領域構成は有意な関連を持つ(F=2.95, p=0.010)。
強度構成は関連なし(F=1.17, p=0.376)。
腰・ヒップ比
領域構成(F=3.20, p=0.009)と強度構成(F=4.03, p=0.025)の両方が有意な関連を持つ。
その他のアウトカム(記憶、実行機能、処理速度、総コレステロール、血圧)はいずれの構成とも有意な関連なし。
時間再配分とアウトカムの関係
ACE-IIIスコアと時間再配分
「静的時間」「社交」「スポーツ/運動」に時間を再配分するとスコアが改善。
「睡眠」「スクリーンタイム」に時間を増やすとスコアが低下。
再配分の効果は小さいが統計的に有意(例: 静的時間やスポーツ/運動を30分増加で+0.15スコア)。
腰・ヒップ比と時間再配分
「スポーツ/運動」に時間を再配分すると腰・ヒップ比が低下(例: スポーツ/運動を30分増加で−0.007腰・ヒップ比)。
家庭管理から家事への再配分も腰・ヒップ比低下と関連。
スポーツ/運動を家庭管理に再配分すると腰・ヒップ比が増加(+0.01)。
強度別再配分と腰・ヒップ比
中~強度身体活動(MVPA)を増加させると腰・ヒップ比が低下(例: MVPAを30分増加で−0.004腰・ヒップ比)。
座位行動をMVPAに再配分すると最も改善し、逆にMVPAを座位行動に再配分すると腰・ヒップ比が増加(+0.005)。
結論
領域構成は認知機能(ACE-IIIスコア)に有意な影響を与える。
強度・領域構成の両方が腰・ヒップ比に関連し、身体活動の増加が有益。
再配分による効果は全体的に小さいが、統計的には有意。
Discussion
研究の目的と結果
目的
24時間の時間使用構成(強度ベース:睡眠、座位行動、軽度身体活動、中~強度身体活動[MVPA]、または領域ベース:スポーツ/運動、家事、スクリーンタイムなど)が認知機能および心血管代謝健康指標に与える影響を調査。
認知機能(グローバル認知、記憶、実行機能、処理速度)と心血管代謝指標(腰・ヒップ比、総コレステロール、血圧)を評価。
結果
領域構成はグローバル認知(ACE-IIIスコア)と有意に関連していたが、強度構成との関連は見られなかった。
腰・ヒップ比は、領域構成と強度構成の両方と有意に関連していた。
他の認知機能(記憶、実行機能、処理速度)や心血管代謝指標(総コレステロール、血圧)との関連は見られなかった。
時間再配分の効果
認知機能(ACE-IIIスコア)
静的時間(読書、音楽鑑賞)やスポーツ/運動への再配分はスコア向上と関連。
スクリーンタイム(テレビ視聴)や睡眠からの再配分が有益。
スポーツ/運動を増加させることで最大+0.24ポイントの改善が見られるが、影響は小規模。
腰・ヒップ比
スポーツ/運動への時間再配分は腰・ヒップ比の低下と関連(例: +30分の再配分で−0.007)。
座位行動やスクリーンタイムからMVPAへの再配分が最も有益。
認知機能と座位行動の関係
座位行動全体の時間は認知機能と関連しないが、特定の座位行動(読書や社交)は良好な影響を与え、受動的行動(テレビ視聴)は悪影響を与える。
認知機能に対する座位行動の影響には、種類や文脈の違いが重要であることが示唆された。
心血管代謝健康への身体活動の重要性
身体活動は強度や種類を問わず、腰・ヒップ比の改善に効果的であるが、高強度の活動(MVPAやスポーツ/運動)が最も有益。
他の指標(血圧や総コレステロール)とは関連が見られなかったが、これは食事や喫煙など他の要因の影響が大きい可能性がある。
研究の強みと限界
強み
時間使用行動の相互依存性を考慮した統計手法(構成データ解析)を使用。
MARCAツールを用いた信頼性の高い自己報告データ。
限界
クロスセクショナルデザインのため、因果関係の推定は困難。
サンプルが高学歴で活発な女性が多く、一般化には制限あり。
活動分類の方法により、詳細な違いが検出されなかった可能性がある。
将来の方向性
認知機能と心血管代謝健康を同時に向上させるため、身体活動の強度と日常活動の文脈を考慮した介入が必要。
高齢者に適した多様な行動変容オプションを探ることが重要。
時間使用行動の変化と健康アウトカムとの関連を検証するための縦断研究が求められる。
要するに、テレビなどをダラダラ見るなということでOK?