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00.トラウマ

就職を機に上京して5ヶ月が経った。

なんだか最近元気が出ない。

上京してすぐの頃は憧れの仕事に就ける喜びと新しい街に胸を躍らせていた。今思えば興奮で感覚が麻痺していたかのように思う。

 2023年大学4年生の6月、内定が出た。
第一志望の会社には落ちてしまったが、その次に行きたかった会社には決まった。
第一志望の会社の最終面接では自分の神経質さとストレス耐性の無さを見抜かれてしまったのだと思う。
というのも、超がつくほど真面目な私は、面接で想定される質問への回答を一言一句暗記して答えていたからだ。ガチガチに固めていた。
 現に面接官からは「ストレス解消法はなんですか」「どういうときにストレスを感じますか」「行き詰まったらどうしますか」などストレス耐性があるか試されるような質問を何度もされたし、帰り際にされたフィードバックでは、「もう少し肩の力を抜けると良くなるよ」とも言われた。

 内定をもらってから4月までの間は憧れの東京生活に浮き足立っていた。最後のモラトリアムを思う存分堪能しようと、毎日彼氏と遊んだ。
 大学時代は京都で一人暮らしをしていたのだが、京都は本当に良い街だった。ある人が、「東京はたくさんの違う都市の集合体で、京都はひとつの都市だ」と言っていた。本当にその通りで、京都には行きたい場所全てがコンパクトにまとまっていた。自転車があれば近所のラーメン街にも古民家カフェにもバームーンウォークにも清水寺にも行けた。本当に楽しい京都生活だった。

 そして、2024年4月。上京して思った。東京は窮屈すぎる。どこに行こうにも人、人、人。ホームから改札に向かうエレベーターにも並ぶ。スターバックスの席はいつ行っても満席。おまけに家賃は高い。
 「蔦が這うように人が住む街。ここは東京。」サカナクションが言っていたのをふと思い出す。
 だが、1番の問題は自分だった。会社の同期に馴染めなかった。入社した会社は思っていたよりも体育会系だった。でも、同期や会社を悪く思っているわけではない。自分に欠陥があることが問題なのだ。その原因はトラウマだ。

 中学3年生の時、トラウマができた。
所属していた女子グループで悪口を言われていた。
今でも明確に覚えている。その時は、みんなでバスに乗っていた。私はバスの中で眠りにつく直前で、みんなの話し声は聞こえていた。だが、友人たちは私は寝ているものだと思っていたのだろう。
悪口の内容は思い出したくもないので割愛する。
(割愛の愛って何で愛なんだろう。)
 サービスエリアに着いて、トイレに行きたかったので仕方なく起きた。トイレの中で友人たちが「やば、絶対聞こえてたよね」と話しているのが聞こえた。
目的地についてからは地獄だった。もう何も信じられない。会話も入ってこない。どうせ何を話しても嫌われているのだから。
 これがひとつめのトラウマだ。

 もうひとつのトラウマ。仲の良い友達と3人で食事をしていた時のこと。友達2人から自分が聞かれたくないことを執拗に聞かれた。内容は忘れた。
 だけどその時、顔の筋肉がこわばって動かなくなる感覚がした。泣きそうだった。こんなとこで泣いたら気まずくなる。だから笑顔を取り繕ろうとしてみたが余計に表情が不自然になる気がして俯いてしまった。
 「うわー、下向く」そう言われた。
 これがふたつめのトラウマだ。

 この経験以来、私は心を閉ざしてしまったのだと思う。高校生からの人付き合いはどれも長く続かなかった。一応、クラスでいつも一緒に過ごすおとなしめの子が1人いたが、ずっとうわべで取り繕って会話していたから友達とは思えなかった。大学生になってからもその子は遊びに誘ってくれたけど、気をつかうのが嫌で断ってしまった。ごめんなさい。

 大学生の時、写真サークルに入った。月一回集まって写真を撮りに行くだけのゆるいサークルだった。「何故トラウマがあるのにサークルには入るのか」と疑問に思われるかもしれないが、1人は良くても独りは嫌だというめんどくさい性分だからである。トラウマから人付き合いが苦手になってもなお心の底から繋がれる友達は欲しい。諦めきれないのが余計に苦しい。
 だけどサークルで好きな人ができた。不思議とその人とは初めからほとんど抵抗なく話せたし、彼も私のことを気に入ってくれてるんじゃないかとまで思っていた。その人とはなんだかんだで付き合うことになり(その間2.3年)、今でも続いているのだが、その当初、彼は若干引き気味だったんだろうなと今になって思う。彼は今1番本音で話せる人だ。
 ちなみに、彼以外友達はできなかった。何故か私は幹部に入っていて、私以外に女子が4人いたのだが、どうしても距離をとってしまい最後まで馴染めなかった。私以外の女子だけで飲み会も開催されていた。
同性の女子、特に複数人のグループだと、殻に閉じこもってしまい話せなくなる。明るいノリについていけないし、初めからおとなしいキャラに見られるので途中からテンションを上げるわけにもいかない。話すタイミングも何を話して良いかも焦ってわからなくなる。結果人付き合いを避けてしまう。
 それでも学生の頃は、行かないという選択もしやすかったし1人で居やすかったと思う。

 社会人になってからはそうもいかなかった。チームの歓迎会や飲み会、会社のイベントに新人が参加しないというわけにも行かない。人の目を気にしてしまうので、余計に行かないわけにはいかない。
 人と関わるイベントがある前には本当に落ち込む。怖い。行きたくない。行っても一言も喋れないのだから変な人だと思われて余計に浮くだけだ。
 社会における人との関わりはこういったイベントだけでなく先方との会議などでも避けられない。先方の年上の男性が世間話を時折投げかけてくれるのだが、一言返して終わってしまう。こういう時、「私はこの人のことを何も知らないのにうかうかと質問して良いのか?」「知ったような口はきけない」などと考えてしまい殻に閉じこもる。嫌われるくらいなら何も話さない方がいい。でも全く話さないのも嫌われる。もうどうすればいいのかわからない。

 7月は特に落ち込んだ。環境の変化へのストレスもあったと思う。1週間くらい泣いていた。彼氏と会ってもずっと泣いていた。元気が出ない。彼氏にも悲しい顔をさせてしまった。もうあんな顔見たくない。

 9月になり、このままではいけないと思い、 精神科に行くことを決めた。自分で何とかしようと思えるうちに行動しておかないと取り返しがつかなくなる気がしたからだ。

 この話は次回。

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