【P&G/サンスター】推し買いプロモーションの鉄則と、その心理メカニズム
AKB48全盛期の中核メンバーであったあっちゃん(前田敦子)が、AKB卒業後に生理用品のCMに出演したところ、男性ファンたちがそれを買い漁ったという衝撃的な話題がかつてありましたね。
それはただの変態行為だったのかというと、実はそうではないらしく。タレントとして伸び悩みつつあった彼女にもっと仕事がくるようにと、恥を忍んで生理用品を買っていたということだそうです。—— へぇ。いい話ですね。
P&Gの柔軟剤ブランド「レノアハピネス」から、TinyTAN(タイニータン)とのコラボデザインパッケージが6月から販売されています。
「推しの香り」をテーマに、各メンバーをイメージした香りを割り当てて、“推し買い”を誘うアプローチです。
念のためTinyTANについて軽く説明しておきますと、韓国の7人組アイドルグループ「BTS」をモチーフにしたミニチュアキャラクターたちです。
以前にこちらの記事( 【丸大食品/アンファー】活動休止中でもBTS系コンテンツで賑わっているワケ )でも紹介しましたが、BTSって活動休止中の自分たちに代わり、“分身”たちを活動をつづけさせる巧みな戦略をとっています。
前回紹介した「BT21」とは別に、もう1つの公式キャラクターが存在するということですね。もはやここまで分身たちがあちこちで働きまわっていると、ついついBTS本体が活動休止中だということを忘れてしまいます。ま、そう錯覚させることがそもそものBTSの狙いなんですが(その点についても前回記事では触れています)。
▼TinyTAN
▼BT21
なお、誤解がないように補足しておきますが、こういった分身たちに稼がせるというやりかたは、そもそもBTSほどの圧倒的な人気と知名度があってはじめてなせるワザですから、日本国内でちょっと人気があるくらいのアイドルが安易にマネするとただただお寒い結果に終わってしまいかねない点には注意が必要です。
“質より量”の推し買いキャンペーン
この限定コラボ商品発売を記念して、対象商品購入でTinyTANコラボアイテムが当たるキャンペーンも開催されています。よくある購入レシートで応募する方式のものです(1,000円購入ごとに1口応募可能)。
その当選者数がなかなかすごくて、総勢7,000名に当たるらしいです。この規模感の単一キャンペーンとしてはかなりの数といえます。
—— となると気になってくるのが景品の内容になってくるのですが、案の定といいますか、モノとしての価値はウ~ム…という感じです。「質より量」という方針が明らかでございます。
一番の目玉のA賞がランドリーネットですよ。TinyTANのイラストがなかったらせいぜい参加賞レベルの景品です。
さらにB賞、C賞にいたってはハンガー1個や、マグネットステッカー1個(コースター大)と、ヘタしたら無料配布用のノベルティ?ってレベルのものです。
そのうえ、ハンガーは紙製とのこと。紙製のハンガーって…。一般家庭におけるハンガー用途の約8割がたを占める“洗濯後の濡れた衣類をかける”ことを諦めざるをえない、なかなかのパワープレイです。消耗品と割り切って使えば使えなくもないと思いますが、たぶんそんな人ほぼいないと思います。
…とは言いながらも、なんだかんだこの手の“推し買い”系キャンペーンでは、こういった質より量スタイルが最適であると個人的にも思います。なぜなら、ファンたちにとっては「モノはなんでもいい」わけですから。
今回のTinyTANアイテムもまさにその典型例で、このキャンペーン応募にせっせと勤しむARMYたち(BTSファンのこと)は、TinyTANのコラボモノなら何でも欲しいという欲望が原動力になっているからです。ハンガーもハンガーとして使わずに飾れればOKなのです。
なんなら「TinyTAN折り紙1枚」でもイケちゃうと思いますよ。ファンではない人たちからしてみたら「それ、ただのキャラ印刷した紙なんじゃ…」と思ってしまうものでも、ARMYたちにとってはそんなモノの物理的価値だけでしか見れない人たちこそナンセンス、なんもわかってないヤツらはこっち見んなって話でしょう。
三方良し!
このTinyTANコラボキャンペーンにおける“質より量”スタイルは、3者の利害関係が一致します。ここでいう3者とは、P&G、ARMYたち、そしてBTSの3者です。
まず、P&Gは商品がバカ売れしてハッピーです。しかもそのバカ売れのしかたにも注目です。景品1つあたりの単価は極めて安く抑えられるので、当選者数を増やせるのはもとより、応募ハードル(購入額条件)が引き下げられます。
すると、幅広い層からの応募が見込まれるようになるわけです。それこそBTSにそれほど興味ない人からも、「当たったら○○ちゃんにあげよ~」くらいの軽い気持ちで応募チャレンジしてくれるようになるわけです。
つまり、より多くの人に自社商品(今回の場合はレノアシリーズ)を試してもらえる機会が創りだせるということです。これをきっかけにブランドの愛用者になってくれれば長期的にもハッピーってやつです。
2者めのARMYたちは、前段のとおりです。モノとしての価値よりも、TinyTANコラボアイテムが手に入るということに価値を感じている人たちですから、単純に当選者数が多いほうがハッピーです。
3者めのBTS、彼らにとっては“ファンのつなぎとめ”に役立ちます。活動休止中のBTSが一番危惧することは、「忘れられてしまうこと」「飽きられてしまうこと」です。そこで定期的に身代わりキャラたちをARMYたちの前に登場させ、彼女(彼)らのお相手をするのです。
そのためには、とにかく接触数が必要ですから、そんな思惑にこの「質より量」タイプのキャンペーンが合致するというわけです。
なお、このキャンペーンスキームの場合、4者めとして“実店舗型”の小売企業もじつは含まれますが、話がとっ散らかってしまうので、この点はまた別の機会にお話しします。
※このキャンペーンはEC購入分も対象だから実店舗型に限らず小売は皆平等なんじゃないじゃないかって?いいえ、実はそうとも言えないのです。
「推しメンおすすめセット買って応募してね」キャンペーン
それとときを同じくして、サンスターのオーラルケアブランド「Ora2(オーラツー)」からも、“推し買い”に着目した施策がリリースされていました。
それがこのスマホ用リズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」(通称:プロセカ)とコラボした「MORE MOREスマイルプロジェクト」です。
このプロセカコラボ企画では、レシート応募キャンペーン、Twitter投稿キャンペーン(2弾構成)、壁紙ダウンロードキャンペーンの計4タイプのキャンペーンの組み合わせで構成されているようですが、メインはレシート応募キャンペーンであるようです。
こんな感じで、オーラツーミーシリーズから計3点をまとめ買いして応募できるキャンペーンとなっています。
このキャンペーンにあわせて、各キャラクターごとのオススメ商品セットが紹介されています。各キャラクターのメンバーカラーや雰囲気をイメージしたアイテムの組み合わせになっているようです。
ちょうどキャンペーン応募条件に沿った組み合わせで紹介されていますから、要するに「推し買いして応募してね」ということですね。
“推し買い”プロモーションを仕掛けるときの鉄則3ヶ条
ここまでのTinyTANコラボの「推しの香り」や、プロセカコラボの「推し色アイテム」のように、推しをイメージしたモノを購入するというのは、推し活でよくある行動の1つです。
したがって、今回挙げたような柔軟剤やオーラルケア用品のように、商品そのものを推し活アイテムとして売り込むことも可能です。
が、なんでもかんでも手当たり次第にそれを当てはめて売り込めばいいというものでもありません。推し買いをそそらせるには、次のような条件、ポイントを押さえていることが大事です。
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