コロナワクチンを受けたがらない人がいる理由
translated by Kaisei Iwagami (written by David Robson: https://www.bbc.com/future/article/20210720-the-complexities-of-vaccine-hesitancy)
初めに
SNS上ではワクチン接種を躊躇する人たちを貶すような投稿で溢れている──しかし複雑で繊細な問題に対するこういった反応は状況を却って悪化させている。
ワクチンがコロナウイルスに対して有効であることに疑念の余地はない。
イギリス内の統計から考えてみよう。20万人以上を対象としたある研究によると、ワクチンを接種した人のほぼ全てが、2回目のワクチン接種から2週間以内にコロナウイルスに対する抗体を獲得していた。現ワクチンはデルタ変異種に対する有効性が薄いかもしれないと初めは憂慮されていたが、アストラゼネカ社製およびファイザー社製のワクチンによって92%から96%も入院率が減少していることが分析の結果から判明した。多くの専門家が繰り返し発言しているように、深刻な副反応が起こる危険性はコロナウイルスそのものの危険性と較べるとごくわずかである。
それでもかなり多くの人がいまだ接種することに否定的だ。国際通貨基金の最新の調査によるとそうした人たちの割合はイギリスでは10〜20%、日本では50%、フランスに至っては60%にも及ぶ。
この状況はSNS上で文化的戦争のようなものにまで発展しており、多くのオンラインコメンテーターがワクチン非接種者は単に無知であるか自分勝手な人々だと非難している。しかしワクチンを接種しないという選択はさまざまな要因が複雑に絡みあった結果であり、集団免疫を獲得するためにはそれぞれに慎重に対処する必要があると医学判断学を専門とする心理学者は主張する。
5C
はじめに、非接種の人たちにも違いがある。ワクチンを受けない人は誰しも同じ考えを持っているのだと考えたくもなるが、ワクチン接種を躊躇している人たちの多くが抱えている恐れを頑固な反ワクチン派が掲げるおかしな理論と混同してはいけない。「反ワクチン派の人たちは声だかに主張していて、ネット上でも現実社会でも存在感がありますが、本当に少数派なんです」と『ワクチン接種における意思決定に影響しうる社会的、心理的要因』の著者であり、聖ジョージロンドン大学衛生研究所に所属しているモハメド・ラザイ氏は話す。
非接種者の多数派は政治的な目的を持っておらず、また非科学的なことを信じている訳でもない。ただ単にワクチンを接種するという選択に対してまだ決断を下していないだけだ。
初めは躊躇していた人たちが考えを改め直しているというのはいい知らせだ。「感染が恐ろしく速く広まっているので、ワクチン接種が遅れると危険であることには変わりありません」とラザイ氏は続けた。以前の変異株相手であれば疑わしい話だが、より強力な感染力を持つデルタ株により、多くの人がなるべく早急にワクチンを接種する緊急性が強まった。
幸いにも、2019年12月に武漢市でSARS-CoV-2(COVID-19)が初めて確認されるずっと前から科学者たちはワクチン接種に対する躊躇に対して研究を始めており、人々の健康面での行動の違いを表すさまざまなモデルを研究した。その中でも極めて信頼性の高いものが5Cという名で知られていて、下記のような心理的要因について考察するものである。
Confidence:ワクチンの安全性や効果、医療施設従事者たちが提供するもの、政策立案者による決定に対する信頼を持っているか
Compaceny:その病気が自身にとって本当に危険であると考えているかどうか
Calculation:費用とその見返りについて判断する上で莫大な情報を自身で調べるかどうか
Constraints:当人がどれだけ気軽にワクチンを接種できるか
Collective responsibilty:ワクチンを接種することによって、周りの人を感染から守る意思があるか
2018年、ドイツにあるエアフルト大学所属のコーネリア・ベッチ氏とその同僚は参加者に5Cを測るためひと続きの意見を評価するように求め、その結果をインフルエンザやHPVのワクチンなどの関連する処置の接種率と比較した。想像通り、5Cは人々の決断におけるかなりの違いを説明できることが判明し、数ある多くの予測因子モデルよりも確実に優れていた──たとえば信頼性にだけ絞り他の要因を鑑みない質問用紙など
未発表である最新の調査では、ベッチ氏は5Cモデルをコロナワクチン接種率の予測に用いており、これまでの結果によると5Cモデルはコロナワクチンにおいても多数派の決断における違いを説明できるとしている。
もちろん、異なる要因が存在しているだろう。オックスフォード大学で行われた最近の研究では、ワクチン非接種者の10%は先端恐怖症が主な原因だと提唱している。それでも、5Cの手法は確かにワクチン接種に対する躊躇いの一般的な原因を網羅しているように思える。
確証バイアス
これら5つの異なる要因について、そしてこれらの要因が人々の行動に影響を与えるかもしれない状況について思考を巡らすのなら、我々の知覚を左右すると知られている様々な認知バイアスについても考えてみるといい。
上から2つのCについて考えてみよう。ワクチンに対する信頼、コロナウイルス自体の危険性についての楽観的思考。
ロサンゼルス、カルフォルニア大学のジェシカ・セラスカ氏はこのように指摘する。人間は一見相反するような2つの性質──『悲観バイアス』と『楽観バイアス』を持ち合わせており、これらはそれぞれ人のリスクと利益に対する価値観を歪めてしまう可能性がある。
悲観バイアスは自分ではどうしようもできない出来事の見方に影響する。「嬉しくない報せを聞いたとき、その報せはいつまでも頭のなかに残りがちです」 反対に、楽観バイアスは自分自身の考えに影響をもたらす。──人はどのようにしても自分は普通に人より元気で健康であると考える。二つのバイアスは独立して機能するが、これはつまり、ワクチンの危険な副反応ばかりに注目する一方で、同時に自分がコロナウイルスに罹る可能性は低いと考えており、これらが組み合わさってワクチンに対する信頼性を失い、危機感がより薄れていく。
ひとつ有名な確証バイアスがあり、ワクチンの危険性を誇張した怪しい情報源から誤った情報を手に入れることで人の認知を歪めてしまう恐れがある。この疑わしい根拠に対する信頼性が5CのCalculationを高く評価する人たち──進んで情報を検索する人の方がCalculationを低く評価する人と比べると多くがワクチン接種に対して後ろ向きであることを意味する。「もし既にワクチンの危険性を憂慮しているのであれば、検索エンジンに「コロナワクチン 危険」などと打ち込めば、検索結果はすべてあなたの考えを補強するものばかりです」とベッチ氏は言う。
こうした心理的傾向は極めて一般的であると知ってほしい。仮にワクチンを接種したとしたら、その経験がおそらく今後の人生の様々な場面で行われる判断に影響を及ぼす。この事実を無視、そしてワクチン非接種者は何故か無知なふりをしていると決め込むこと自体が、馬鹿げた態度なのだ。
同様に接種率に関わる社会的要因を無視することはできない──5Cのconstraints/convenienceのことだ。極めて単純だが、ワクチンを接種するには努力を要するといった思い込みが、既に決断しかねている人の気持ちを削ぐのだろう。ベッチ氏と対談した際、ドイツで接種率が下がっているのは、ワクチンを接種できるのかどうか調べるためにとても複雑なシステムを用いているのが原因かもしれないと彼女は主張した。自動的に通知が来れば、人はもっと素早く行動に移すだろうと彼女は話す。
利便性という問題について考える必要があり、特に接種センターに行くまでの時間と費用捻出に苦労する恐れのある貧困層について考えなければならないとラザイ氏は同意した。「往復だけでも、最低賃金労働者や失業手当で生活している人にとっては大きな痛手になり得ます」とラザイ氏は話す。だからこそ、多くの場合、地域のコミュニティーセンターをワクチン接種会場にするのが最善なのだ。「教会やモスク、寺院や礼拝堂を接種会場にするとよりうまくいくという事例があります」
最後に、その選択に至る背景を知る必要がある。このような構造的人種差別がある民族の医療に対する全面的な信頼の低下を招いていると彼は言う。彼らが日常的に直面している困難を理解しなければ、他人の選択をいとも容易く跳ね除けてしまう。
話し合おう
ならば、何ができるのだろうか。
楽な解決策は存在しないが、医療機関がよくある質問に対してわかりやすい正確な情報を発信し続けることはできる。インペリアル・ロンドン・カレッジにあるグローバルヘルスイノベーションによる最新の結果によると、ワクチンの副反応と十分な治験が行われていないことに対する不安が接種率における主な障壁となっている。副反応については、ワクチンの危険性をコロナウイルスと比較したグラフがあり、一定の理解につながる。ワクチンに対する不安については、もっとワクチンの進化の歴史について知る必要があるとラザイ氏は言う。たとえば、mRNAを用いたワクチンは数十年に渡り──長期間にわたる安全性を測る治験と共に──研究されてきた。つまりこの研究による技術はパンデミックにあわせて素早く適応させることができるということだ。「今使われているテクノロジーで危険となりうるものはありません。なぜならこれらのテクノロジーをヘルスケアや研究の分野で既に運用していたのですから」とラザイ氏は話す。
先述したグローバルヘルスイノベーションの研究を先導していたサラ・ジョーンズ博士は目的に基づいたアプローチが必須となるだろうと主張する。「政府には一辺倒なワクチンの宣伝が非接種者の接種率向上にもつながるだろうという考えをいますぐやめていただいて、影響力のある人たちと共にもっと創意工夫の凝らした施策を行っていただきたいです」と彼女は話した。
これはそれぞれのコミュニティにおけるインフルエンサーと協力することもあり得る、と彼女は言う。インフルエンサーたちにはワクチン接種の危険性と利点に関する「矛盾のない正確な情報」を拡散してもらうのだ。
どんな発信方法取るにしても医療機関は──手が回らないからといってうやむやにするのではなく──ワクチンに関する質問を受け付けていることをもっと周知させる必要がある。とラザイ氏は話した。「懸念していることに耳を傾けて、受け止め、そして正しい情報を伝えることで、皆さんがその情報に基づいた判断を行えるようになるのです」
セレスカ氏も双方向によるコミュニケーションの場が必要不可欠であると同意している──家族や友人とコロナウイルスについて話し合うときのようにそこから学びを得ることができるだろう。「統計や事実を一方的に伝えるよりも、相手を尊重し、悩みを受け入れることが本当に大切なことなのだと私は考えます。対話している時間は、事実に基づいた情報よりも、個人的なつながりの方に時間を割く方が大切なのです。」
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