Luminary Talk! vol.12 ソニー教育部門トップ・礒津政明さんにきく〜「VUCA時代に必要となる”自ら学び続ける力”(戦略的学習力)をどう育む?」〜
Project MINTでは、大人がパーパスを起点に新しいステージに移行するための学びのサポートプログラム・コミュニティを提供しており、特別パネルディスカッション「Luminary Talk」を開催しています。「Luminary Talk」では、Project MINTアドバイザーやパートナーの一人ひとりにフィーチャーし、ユニークな経歴を持つ彼ら・彼女たちのストーリーや変遷を、一般参加者を含む皆さんと共有しています。
今回はシリーズ第12弾 ー ソニー・グローバルエデュケーション会長 礒津政明さんにきく〜「VUCA時代に必要となる”自ら学び続ける力”(戦略的学習力)をどう育む?」〜 を開催しました。この記事は、イベントに参加したProject MINT修了生によるレポートです。
当日の流れ
冒頭で約25名のイベント参加者に対して、Project MINT代表の植山が提示したパネルトークテーマから、参加者に投票いただき、関心の高かった順に5つのテーマについて磯津さんにお話いただきました。
トークテーマ5つ
今の子供が成人する「2040年」どういう心持ちで迎えたらいい?
学びをアウトプットする行動を大人も子どももしていくようにするには?社会・組織・個人は何ができる?
大人が学ぶ上で大事なことを教えてください
子どもの教育や社会人育成に共通して大事なものは?
礒津さんがお子様の学びをサポートする上で心掛けていることは?
トークの後に、MINT1期修了生のライリーさんから、グラフィックレコーディングを共有してのセッションの振り返りがありました。まず、こちらをご覧いただいて、トーク内容を読み進めていただけたらと思います。
トークテーマ1:今の子供が成人する「2040年」どういう心持ちで迎えたらいい?
「まず、環境を考えると民主主義の曲がり角にさしかかっていて、専制する国家が力を強めている。この動きはこれから20年くらい続くのではないかと思っている。政治的な背景は押さえておくことが必要」
「テクノロジーではインターネットの存在は大きい。世界は、ネット自体が状態を持たないステートレス時期から、2000年頃、web2.0の世界になり使い放題になり、今はネット自体が状態を持つステートルというように大きく変化した。
20世紀に書かれたSF作品の中には、AI(人工知能)、スマートロボット、自動運転など現代を予想しているものが多い。一方、SF作家でも予想できなかった技術にブロックチェーンがある。これからはブロックチェーンが社会を変える技術になるのではないかと思っている」
「インターネットはさらに大きく変わり、ウェブ3のような個人がエンパワーメントされるような社会になることを予想している。ウェブ3のテクノロジーを下地にしてバーチャルの存在感が増してゆき、2040年にはほとんどの活動がバーチャルで完結するようになっていると思う」
「未だにきれいに字を書く練習をしているのは日本くらい。だから子どもの教育を考えるときは必要となる技術やスキル先取りして考えておく必要がある」
「自動翻訳が進んできているので、これからはもっと楽に母語を使ってコミュニケーションができるようになる。感情をしっかり自然言語で表現する力が必要になる」
「仕事の仕方も変わる。工場労働の仕事でも家から一歩も外に出ずにリモートロボティクスで生産できるようになる。お金の流れている医療の世界ではすでに”ダ・ビンチ”のように遠隔地から外科手術ができるようになっている」
「これまでのブルーカラーがなくなり、ホワイトカラーの仕事も国を関係なくつながる働き方になる。何を価値として生み出すかが仕事の根本になっていく」
「AIが発達すると多くのことが最適化される。だが車の色が手入れの合理性で白に収れんするなど、最適ばかりでは違和感がある。人間が持っている多様性、直観での選択、人としてどうありたいかという個性が人間の武器になっていく」
「ウェブ3の世界観では、DAOは参加者がステークホルダーになって、一つの目的にみんなが参画できる状況になり、誰かが偉いというピラミッド型はない。これは分散型の自律組織なので、一人ひとりの選択が投票するように反映される」
トークテーマ2:学びをアウトプットする行動を大人も子どももしていくようにするには?社会・組織・個人は何ができる?
「民主主義の歪みによって格差が広がっている。日本では感じないが先進国では顕著。格差是正に対して個人ができることは、何を学ぶか?学んだことを何に使うか?何を目指すか?を考えて、アウトプットすること。誰かに与えられた学びは役に立たない」
「転職、起業などアウトプットする手段はある。個人が力を持つ時代になり、個人がアウトプット、表現活動することが大切になってくる。会社の制約は小さなことで、組織にしがみつくことを忘れてみると、できることはたくさんある」
「民主主義の歪みという意味では、日本では高齢有権者の票数を意識したシルバー民主主義が国を弱体化して子どもの未来を奪っている。先進国の中でもGDP比率で社会保障費が多く、教育費が少ない国になっている。それに負けないよう若い人が投票で意志表示することが大切」
トークテーマ3:大人が学ぶ上で大事なことを教えてください。
「大人は過去にとらわれず、これから学ぶことを大切にしてほしい。メンタルブロックを取り払うことは大切。”文系だからコーディングは無理、理系はビジネスは無理”、とやってみる前に諦めるのは、もったいない。自分の過去の学びを過大評価するのも問題で、以前に4年学んだことを「専門」と思い込まなくて良い」
「高校や大学の頃1年かけて学んだものは、今は動画を使って3カ月くらいで学べてしまう」
(植山)「ミネルバでMaster of Scienceの学位をとった。高校時代は文系選択をしていたが、改めてサイエンスメソッドとして、科学的アプローチを学び、それぞれ研究とはどの範囲についてどの程度分かった分かったとか結論といえるのか知ることができて世の情報を受け止める力が変わった。こんなユニバーサルなことは、皆が早く学べばよいと思った」
「数学に苦手意識を持つ日本人女子。実は日本の多くの女子高生の数学水準はグローバルでみると高くSTEAM(理数系教育)専攻に値するのに、今の試験問題が難しすぎて肯定感が得られず、もったいない。苦手意識なく学ぶことができれば、ジェンダーバイアスがなくなっていくだろう」
トークテーマ4:子どもの教育や社会人育成に共通して大事なものは?
「好奇心を持つこと。大人になっても幅広い好奇心を持って、実際に体験してみる。子どもは一人ではできないから、大人が環境を作って経験をさせることで可能になる。好奇心を育てるためには、たくさんのことを経験し、たくさんのことを知ること」
「習い事の選択は大人の世界観で決まっている。日本の習い事システムは、週一通うことが当たり前だったりするから、一定時期休むとやめてしまった感じになる。海外ではサマースクールで一定期間試しに学べたりする。子どもがせっかく好きで始めたことでも、(休むことが)やめたという感覚を植え付けてしまうのは、もったいない。やめることは悪いことではない」
トークテーマ5:礒津さんがお子様の学びをサポートする上で心掛けていることは?
「家族で日常的に話す時間を増やすこと。ビジネスの話や国際情勢なども話すことが大切。たくさんの話題を振って、子供も大人として対等に扱うことで、話してくれるようになり、子供が本当に思っていることが吸い上げられる」
「デジタルの環境を作り、タブレットなど早期からデジタルを与えることで自分の能力がレバレッジできることが必要な学び。子どもに3、4歳からipadを与えて、8歳でMacBookを与えた。8歳という時期は自分が子どもの時にコンピュータを触り始めた経験を基準にしている」
「子供は自分がPCを使ってみると、PCに計算させればそろばんはいらない?ということに気付く。何十桁という計算が早く出来るよりプログラムを書けると良い、とそろばん塾の先生に言っていた。手書きの宿題を出すことは、世界でも珍しい。それ自体をどう思うかを自分の子どもに考えさせてみている。当たり前に受け入れないで、疑問を持つことが大切という教育を大切にしている」
ここで植山から礒津さんが目指していること、パーパスについて質問があった。続いてMINT修了生のライリーさんからグラフィックレコーディングの共有があり、最後に会場からの質問に応え、熱いトークセッションの終了となった。
これから磯津さんが目指すものは?礒津さんのパーパスは?
「今は会社の経営だが、一方で個人としてできることを考えている。まだ漠然としているが、個人として事業をすることを考えている。沢山の人が喜んでくれるビジネスを作りたい」
「自分の人生設計は、就職した25歳の時点で15年区切りで考えようと思った。ソニーで会社員→別の会社→70代で個人でビジネスをやるという3ステージと考えている。今は次の15年の区切りまであと8年。次を考えて、社会に価値を与えられるように準備している」
グラフィックレコーディングの紹介
ライリーさんから、リアルタイムに描かれたグラフィックレコーディングが提示され、主な論点の振り返りがあった。見事な紹介に、磯津さんも参加者も感心した様子だった。
Q&A
ー日本の人が総じて苦手と思われるアウトプットが得意になる方法は?
アウトプットする場数を踏む。日本では場が小さい時から少ないのでとにかく作る。初めは大変だ、辛いと感じるだろうが、何度かやると慣れる
ー沢山の経験を与えることが学校の仕事、と理解しているが、子供がそれを必要と感じていない場合どうした良いか?
教員が子供に、今の社会状況を雑談の中で語り、算数など今の学びが社会でどう役立つか伝え、家庭での会話を補う。先生自身が社会に興味、接点が少ない現実もあるが、先生も好奇心を持っているのが大事。
ー教える側の成長の場はどう確保したらよいか?
特に公立の学校の先生が学ぶモチベーションが下がっているので、インセンティブが必要だが、制度的に外発的にも内発的にもそれが難しくなっている。この際あえて挙げてみれば、教えることをあきらめる、という選択肢がある。一斉配信の授業を使い、先生は現場でのケアに集中する。
ー1点を争う中学入試の話が出たが子供のアウトプット型の学びが評価されるような入試の仕組みに変わるには何が必要か?
入試、特に中学受験の仕組みには多くのステークホルダーが絡み変えるのは難しい。変わるきっかけは頂点にある東大入試しかない。そこはやっと一部に推薦が始まったばかりで全体は点数を争うペーパーテストで、選ぶ人材に多様性がない状態。この水準にある方々は東大をパスして海外に流出し、東大をスカスカにして変革するショックを与えて欲しい。
修了生運営メンバーの感想
こちらのイベントの全録画は下記のProject MINT Facebookページからご覧いただけます!ぜひ観てみてください!