人事院長期海外留学制度についての提言とアンケートを公開
前回の投稿「留学中の妊娠・出産はなぜ禁止?官僚の留学制度改善を求める提言を人事院に提出」で、人事院による長期海外留学制度(正式には「行政官長期在外研究員制度」)の制度変更を求める提言を人事院に提出した旨お伝えしました。この投稿では、提言の内容と提出に至った経緯、そして2022年2月に行ったアンケートの結果を公表いたします(生々しい内容も多く最後まで公表を迷いましたが、回答者の許可のもと、個人が特定されない形に一部改変してリアルをお伝えすることとしました)。
女性活躍と「留学中の妊娠・出産はNG」の矛盾
私(プロジェクトK副代表紺野)は、27歳だった時に留学を検討していたものの、所属省庁の当時の留学担当者から選考の際に「留学終了まで(31歳まで)妊娠できないけど良い?」など、心無い言葉をかけられ、留学のタイミングと自分のライフを考えた結果、留学を断念しました。
人事院の長期海外留学制度(正式には「行政官長期在外研究員制度」)の対象者は現在も入省10年未満の職員と定められており、また2022年2月当時は留学中の出産は制度上認められておりませんでした(なお、各省庁の運用上、選考・留学期間中における妊娠も制限されていたと考えられます)。
なぜ留学担当者はこのような発言を職員にしてしまうのか、そもそも人事院の制度はこのままでいいのか、悩む日々を送りました。
その後、ヘルスケア産業課という部署で「健康経営」の政策に携わることになり、その一環として女性の健康にフォーカスしていく中で、ある矛盾を明確に感じるようになりました。それは、年齢を重ねれば妊娠がしづらくなり不妊治療をしたり子供を諦めざるを得なくなる一方で、特に霞が関では「若いうちに働け、学べ」文化が根強く、そうできない状況にあるというものです。ダイバーシティ・女性活躍が叫ばれる時代の中で、女性に子供かキャリアかどちらかの選択肢を諦めさせる制度や、その場しのぎの「管理職の女性比率稼ぎ」がまかり通っていることへの憤り。女性が長くやる気を持って働ける制度上の工夫とは?という問い。そういったものが私の中で渦巻いていきました。
そこで人事院の留学制度に立ち返ってみると、上記のような「入省10年未満という年次対象制限」や「留学中の出産禁止規定」はまさに選択肢を狭め、女性職員に留学または子供のどちらかを諦めさせるものだと考えました。やる気を持って入省してきた人材を最大限活かし、国際人材を育てていくために、プロジェクトKとしてこの問題について取り上げることとし、2022年2月21日に上記2点の制度改善についての賛否を問うアンケートを実施しました。
堰を切ったように押し寄せた悲痛な声を提言に
このアンケートでは245名の方から回答をいただき、そのほかにもさまざまなケースで留学をされた方のインタビューもさせていただきました。これらのアンケート結果・インタビューを踏まえ、プロジェクトKとして9つの提言を策定し、2022年4月13日、先日の投稿にあるように人事院に提言を提出いたしました。
9つの提言は以下のとおりです。
1. 「人権問題」にもなりうる制限の撤廃
2. 留学対象者の見直し
3. 選考基準や枠の透明化・統一化
4. 丁寧な説明と留学情報の開示
5. 助成費用の見直し
6. 継続的な職員の意見の吸い上げと制度改善
7. その他留学・研修制度の多様化
8. 留学後の離職者を減らす取組
9. 学位取得による俸給の見直し
アンケートを開始した翌日、Twitterの人事院公式アカウントにて、産前・産後休暇を取得しても留学継続できること、および、留学応募資格の在職期間に産前・産後休暇や育児休業の期間は含まれないこと、が発表され、制度改善の2つの柱のうちの1つが改善されました。他方、渡航制限・帰国制限など、人権問題になりうる制度がまだ残っており、まずはこうした制限の撤廃を要望いたしました。年次対象制限については、若手向けの制度にこだわるのであれば、年次ではなく非管理職(あるいは5級以下など)を対象とすることで、若手や中途採用者の利用しやすさと妊娠・出産の自由を担保しつつ、管理職以上にもリカレント教育として別の2年間の在外研究制度を設けることを要望いたしました。そのほかにも、各省庁で運用ルールや費用負担が異なるといった声、留学選考前に子連れ留学者等の留学経験を聞きたかったといった声などが多く寄せられ、これらについてもルールの透明化や留学情報の開示などを要望いたしました。詳細は添付の提言および参考をご覧ください。
人事院側での継続的な意見の吸い上げによる更なる改善を期待し、今後、女性に限らず、様々な課題を持つ職員がキャリアアップのための道を選択できるような仕組みになっていってほしいと願っております。