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インガ

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世界規模の感染症パンデミックにより、国家という枠組みが瓦解して企業自治体が乱立した世界。 感情を表層化するIMGシステムにより管理された社会で、謎の人型ロボット「インガ」に命を狙…
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2022年10月の記事一覧

インガ [scene004_12]

アドワークス本社から20キロほど離れた場所にある、廃工場。そこが、移送隊との合流を予定して設定した中継ポイントだった。 今回の件について、裏側を熟知している要人。これを確保して中継ポイントに行き、移送隊とともに財善に帰還する。この計画は、概ね予定通り進んでいた。 致命的に計画を狂わせていたのは、確保した要人が狡猾にも裏で手を回し、俺たちよりも早く中継ポイントに部隊を向かわせていたこと。 しかも、その手引きをしたのは財善に引き入れた子供達のリーダーだ。 現場に到着した俺

インガ [scene004_13]

東京に来て最初の任務、青山フカク小隊長の救出作戦。歌舞伎町のホテル前でハナヤシキ先輩と握手を交わし、財善の庇護を受け入れたヤマト少年。 アドワークス本社潜入作戦、その直前に俺たちのサポートを快く引き受けたヤマト少年。 その裏でアドワークス警務部長の吉川と通じ、あまつさえ身内になったはずのタカハシを殺めたヤマト少年。 駆けつけた廃工場で、敵陣の側で立ち尽くすヤマト少年。 懐深くに入り込んで最悪の裏切りを見せた彼が、「手助けをしたい」と申し出た。 その言葉に、俺が感じた

インガ [scene004_14]

拳銃の弾倉を詰め替え、左手でスライドを引きながら本体を前方に押しやり、排莢しつつチャンバー内に初弾を送り込むハナヤシキ先輩。 そして柱を背にして崩れている敵員に銃口を向けて、 「貴殿らの狙いは何だったのだ」 「うっ…クソ野郎、……お前らが本社で…どれだけの仲間を、殺したか…覚えているか?」 「…復讐、ということか」 息絶え絶えの敵員の言葉に、先輩は吉川の遺体の方に顎をしゃくりながら、 「ならば、あれは何だね。貴様らの同胞ではないか。 もろともに銃撃した、その理由は

インガ [scene004_15]

「やあ、久しぶり」 久しぶりに出向いた財善のオフィスで最初に顔を合わせたのは、ハルだった。 「…なぜ俺のデスクにお前が居るんだ」 「君が来るって聞いたからね」 ハルが座ったオフィスチェアを引いてスペースを確保してから、俺は自席に上着とリュックを置いた。 そして空席だった隣からチェアをもうひとつ引っ張ってきて、腰を下ろしてため息をつく。 「大丈夫かい?顔色は…まあ、悪くないみたいだけど」 「長期休暇を貰ったからな、これで元気じゃなかったら医者に行ったほうが良い」

インガ [scene004_16]

染井義昭。 彼と初めて会ったのは、そのときだった。 第一印象は、正直なところ———すまない、君の親父さんを悪く言うつもりは無いんだが———「なんだ、このくたびれた男は」だった。 小柄な身に羽織った白衣には皺が寄っていて、頬から顎にかけて数週間は放置していただろう無精髭が生えている。こけた頬と目の下に出来た隈は、どれほど多忙なのか知らんが、まともに睡眠を摂れていないだろうことを物語っている。 疲労感を身に纏った、いつまでも現役を引退させてもらえない年代物の中古車を思わせる風