【インタビュー前編】ケアマネジャーの役割を活かし、誰もが主体的に生きる社会を作りたい
介護職向けの研修や介護事業所の業務支援などを行うかたわら、介護と仕事の両立を支える人材育成などに取り組む進さん。
「誰もが主役として生きる世界を」と語る進さんに、日頃の活動や今後についてお話を伺いました。
ケアマネジャーは人生の最期に関わるカッコイイ仕事
— 進さんのお仕事を教えてください。
進さん:介護職向けの研修や介護事業所のコンサルティング業務などを行っています。研修の講師を務めるだけではなく、研修そのものの企画も手がけています。そのほか仕事と介護の両立を支えるために、従業員の介護離職防止や仕事と介護の両立に取り組む企業の支援なども行っています。
また大阪市内に新しい居宅介護支援事業所を開所予定です。ケアマネジャーにとって働きやすい環境を作り、介護事業者として地域に貢献したいと考えています。
— 本業以外で取り組んでいる活動にはどのようなものがありますか。
進さん:2023年12月から「ケアマネジャーを紡ぐ会」の代表を務めています。私、ケアマネジャーはとてもカッコイイ職業だと思っているんですよ。その良さを発信して、ケアマネジャーになりたいという人を増やしたいですし、実際に働いてる方たちにも自分たちの職業の良さに目を向けて活躍してほしいと思っています。そのためにケアマネジャーが「また明日からがんばろう」と思える研修の開催や、ケアマネジャー同志がつながる場の提供を行っています。
もう一つは、仕事と介護の両立を支援する「産業ケアマネ」の普及活動に力を入れています。ケアマネジャーを紡ぐ会が創設した資格なので、資格取得者が活躍できるように養成講座の講師も務めています。
— ケアマネジャーを紡ぐ会のその他の活動もお伺いできますか。
進さん:そうですね。例えば、ケアマネジャーを紡ぐ会には「ななしょくプロジェクト」という部会があります。コンビニエンス・ストアなどと提携し、介護事業所と利用者さんが一緒にレクの時間を使ってはたらくプロジェクト(有償ボランティア)のことです。
介護サービスを利用していても、社会の一員として働いてお金をもらい、そのもらったお金で例えばお孫さんに何か買ってあげられるかもしれません。介護が必要になった方はただ支援を受けるだけの人というイメージを変えたいと思っています。介護が必要になっても認知症になっても、社会の一員として役割をもって生きていける。そういう社会にしていきたいですね。
本来の役割ではない仕事をして疲弊する現場を変えたい
— ケアマネジャーの仕事の中で、特にカッコイイと思われる点を教えてください。
進さん:ケアマネジャーは、利用者の方が困っている課題を整理して必要なところにつなげたり、地域でどう暮らしていきたいかを考えたりするマネジメントの役割を担当します。しかも多くの場合、人生の最期に関わり、最期までどう生きていくのかを共に考え、人生の総仕上げに伴走できます。それってカッコイイと思いませんか。
介護は生活であり、その人の人生そのものです。本来その人がどうしたいのかを本人とともにきちんと整理して、周りにも協力を求めて、人生に伴奏できる仕事なんです。ですから、ケアマネジャー自身もその本来のカッコ良さに気付いて欲しいと思っています。
— 進さんの過去の経験からそのことを考えるようになったのでしょうか。
進さん:私自身がカッコ悪かったんです。以前の私は、ケアマネジャーとしてマネジメントが下手でした。周囲の協力を得るということが難しかったんです。そしてそれを周囲のせいにしてしまっていました。こんな業界では働き続けられないから早く辞めて転職しようとさえ考えていました。そんな日々を過ごしていた時に出会ったのが「ケアマネジャーを紡ぐ会」でした。
— どのように出会ったのでしょうか。
進さん:当時勤めていた事業所の社長が、たまたま会に興味をもっていたことがきっかけになりました。ケアマネジャーの方が残業もなく、しっかりマネジメントができているケアプランセンターがあると聞いたのです。それは私にとって理想的でしたが「ぜったい嘘だ、裏がある」と思う自分もいて、実際に見にいこうと思いました。それで、ケアマネジャーを紡ぐ会の会長(当時)のところに話を聞きに行きました。
事務所で話を聞かせてもらうと、嘘ではありませんでした。そして当時の会長から私の理想を実現するためには「こうすれば良いのでは?」とアドバイスいただいたのですが、私自身「いやでも」と答えてしまったんです。「だって周りが分かってくれないからできません」と言いかけました。その瞬間です。私は誰かのせいにしていただけだったと気づきました。きっとその場にいた周りの誰もぴんと来ていなかったでしょう。私だけが悔しいと感じた瞬間でした。「そうか、やればいいのか」と思ったのです。
自分の意識が足りていなかった数字や時間、法的根拠についても教えてもらい、さらに自分の中で行動の根拠が増しました。自信を持ってやればいいと思えて、ひたすらやっていくうちに、仕事が面白くなりました。
そしてその時に受けた、ケアマネジャーを紡ぐ会の研修も自分を変えるきっかけになりました。研修では、きちんと自分自身を満たして働かないと結局、仕事は長続きしないと教えていただきました。その話を聞いて「自分はしんどかったんだな」と気づいたんです。周囲に自分の思いを理解してもらえず、業務に疲弊していたのに「つらい」と言えなかったんです。「つらい」と言えない代わりに制度や周囲の人に文句ばかり言っていたんですね。自分を満たす、自分を満足させてこそちゃんと価値を提供できるようになるということを学びました。それを学ぶことができたから、私は今、ここのいるんだと思います。
— どういうところがわかってもらえないと感じていましたか。
進さん:ケアマネジャーは仕事柄「何かをやってあげたい」という思いが強い人たちが多いんです。言われてやってあげるのは簡単ですよね。例えば「ちょっと買い物に行ってきて」と言われて買いに行ってあげてしまう。でも、本来それはケアマネジャーの仕事ではありません。きちんと課題を整理して、必要があれば訪問介護につなげたり、ネットで買い物をして一般の宅配業者に届けてもらったり、家族にお願いできたりするかもしれません。でも簡単だから、自分がやった方が早いからとやってしまうんです。目の前で困ってるから、と。それで感謝もされます。でもそうじゃないと思うんです。それを整理して支援の形を作るのがケアマネジャーでしょう、と。私はそう思ってきたのですが、それが優しくないと言われてしまう。もちろん、これは極端な例ですよ。
ケアマネジャーが本来の役割ではない仕事をたくさんしていて、つらそうだったり、お給料が安いと言っているのを聞くと、まず業務を整理して自分自身に余裕を持って欲しいと思います。仕事として、専門職として利用者の方と関わっているのですし、自分たちが犠牲になる必要はありません。でも、ほかの誰かが犠牲になればいいという話でもないんです。それをちゃんとマネジメントするのがケアマネジャーだと思います。
私としては、ケアマネジャー本来の役割は何かというところに気づいてほしいですね。私はケアマネジャーを紡ぐ会に出会ったことでケアマネジャーの価値に気づくことができました。ですが、なかなか気づくことができずに困っている人もいるとも感じています。その困ってる方を、まず身近なところから、自分の事業所から始め、それを周囲にも発信していけるようになりたいです。
インタビュー後編では、進さんが活動を行う中でのやりがいや苦労、業界の未来などについて語っていただきます。
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