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ETF入門① - ETFとは何か / なぜ7月月初にETFを買ってはいけないのか

1 インデックス投資の方法としてのETF

世界中で貯蓄から投資へという流れが拡大していくなかで、個人投資家にとって現在もっとも主流であるのはパッシブファンドへの投資/インデックス投資であるといっても過言ではないだろう。さて、個人投資家がたとえば日本の株式市場の重要指数である日経平均、TOPIX、東証リートといった複数の銘柄により構成された指数に投資したい場合、その手段としては投資信託、ETF、先物などがあげられる。本シリーズではそのうちでもETFに焦点をあてて、その扱いやすさやETFの運用が株式市場に与える影響、また実際に取引をする上での注意点などを記していきたい。

まず指数に連動したETF、投資信託や先物は投資家がその指数に対するリスクをダイレクトにとれるように生み出された便利な金融商品である。たとえば投資信託やETFを使わずに日経平均のリスクを取りたい場合、投資家は日経平均に採用されている225銘柄の全ての銘柄を少なくとも最小単位ずつ買わなければ(売らなければ)ならない。金融業界ではこの最小単位のことをバスケットといい、たとえば日経平均であれば1バスケットを購入するのに6億円程度必要である。もちろんそれほどの額を簡単に出せる個人投資家は少ない。そこで考え出されたのが指数連動型のパッシブファンドである。パッシブファンドはたくさんの個人から資金を集めて、上記のような指数のバスケットを購入/運用している。そのバスケットの運用益はすべて資金を差し入れた投資家に帰せられるが、その代わりに売買手数料や信託報酬といったかたちで彼らは収益をあげている。対して先物は本来はETFや投資信託とは違い、それでリスクをとるためのものではなくすでに持っている何らかのリスクをヘッジするために用いられる目的で存在する。従って、その取引上のルール(差金決済、証拠金差し出し、税金計算における損益通算など)の観点から個人投資家には非常に不向きなものである。では今回焦点を当てるETFは投資信託や先物と比べてどのような特徴を有しているのであろうか。そしてなぜそれは個人投資家が簡便にインデックス投資をするのに適格なのだろうか。本稿がETFの適切な取り扱いに対する理解の一助となれば幸いである。さて、さっそくETFの主な特徴は以下のA~Eのようなことあげられよう。

A. 信託手数料/販売手数料が安い (vs 投資信託)

信託手数料や販売手数料(ETFの場合は中値から売値/買値までの差分)を取引手数料とすると、日経平均、TOPIX、JPX400といった主要な指数に連動するETFの取引手数料は10bps-30bps程度と通常の投資信託に比べて非常に安い。ETF、投資信託ともにとっているリスクは同じなので単純にETFを持つ方がコストが低いということができる。たとえば1000万円分のリスクをとるとする。投資信託を使い30bpsの信託報酬と2%の売買手数料を支払う場合23万円の取引手数料がかかるのに対してETFであれば信託報酬20bpsとb/oコスト5bpsの2.5万円ほどしかかからないことになる。

B. 場中にも売買できる (vs 投資信託)

投資信託の多くは申し込んだ日の引値に対しての売買しかできないのに対してETFは通常の上場株式と同様に場中の取引が可能である。言い換えると日本の株式市場が空いている時間であれば(前場9:00-11:30、後場12:30-15:00)いつでも取引することができる。たとえば何らかのニュースラインに反応して一時的に日経平均が急落したとしよう。また、ある投資家は本質的には日経平均にとってネガティブなヘッドラインではなく、引けまでには株価が戻ると考えているとする。その場合投資信託を申し込むことによっては、急落→リバウンドの上げ幅を捉えることはできないが、ETFを活用することにより急落のタイミングで日経平均を買うことができるのである。

C. 海外指数やセクター指数に投資をすることができる (vs 投資信託, vs 先物) 

ETFは日経平均やTOPIXといった代表的な指数だけでなく、東証リート指数、自動車や小売などといった業種別セクターの指数、あるいはS&Pやナスダック、さらには香港のハンセンやブラジルのボベスパ、また原油や金などさまざまな指数や先物に連動するものが存在する。これらは投資信託によっては多額の手数料がかかるか、あるいはそもそも投資信託では存在しないような投資対象であることが多い。

D. 個別株など他の金融商品と損益通算が可能 (vs 先物)

ETFのうちにはベア型ETFといい、体裁上は株式を購入しているものの指数の下落にベッドするようなものも存在する(ベア型を含むレバレッジ型ETFには次の稿で詳しく述べる)。これらをうまく活用すればマーケット全体のリスクをヘッジしながら、マーケットをアウトパフォームする銘柄にベッドするような戦略も可能となる。たとえばTOPIX指数は下落するがトヨタ株はTOPIX指数に比べて下落幅が小さい(TOPIXをアウトパフォームする)と考えている投資家がいるとしよう。彼がその相場観をリスクにおとしこむには、トヨタ株を買って同じ金額分だけベア型ETFを買えばよい。先物を使っても同じポジションを組むことが可能であるが、ベア型ETFを使った方が税制上のメリットを受けることができる。上のような相場観が実現した場合、ETFを活用すればトヨタ株がTOPIXをアウトパフォームした利益分だけに対して税金を払えばいいが、先物を使った場合、先物ヘッジで出た利益の単体に対して税金がかかるのでその税額はずっと大きくなる。

E. 配当のようなものとして「分配金」を受け取ることができる (vs 先物 for 機関投資家)

ご存知の方も多いかもしれないが、先物には限月というものがあり、その限月における第二金曜日の指数の値を売買している。その値は先物決済日までの金利や配当をすでに全て織り込んでいるため、先物をロングしていても配当をもらえることはないし、逆にショートしていても配当を支払わないといけないということがない。対して当然ながら現物株やETFを保有していれば配当として(ETFの場合は分配金という名のもと)「キャッシュ」を受け取ることができる。銀行や保険会社といった機関投資家はこの配当を業務上の利益として扱えるところが多い。つまり同じリスクをとっていて、実質的な含み益/損は同じでも、キャッシュフローの扱い方、財務の計算の都合上ETFを保有して配当金を受け取った方が「都合のいい」ことが生じるのである。(分配金を「利益」として計上できるため)そのような会計上の理由で、いくつかの金融機関は先物ではなくETFでポジションをとっていることが多々ある。

ETFには以上のような特徴があげられ、それゆえ個人投資家にはもちろん、銀行や保険会社あるいは年金といった機関投資家にも広く好まれ実際に多く取引がされている。

このようにETFによる資産の運用は今や日経平均は50兆円規模、TOPIXは150兆円規模にものぼる。次節ではこうして膨張したETFの運用がマーケットに与える影響について概観したい。

2. ETFに関連したマーケットイベント

前述の通りETFへの投資もパッシブ運用であるわけだが、このようなインデックス投資の運用額が大きくなるにつれてそれに関連する機械的な需給もいくつか生じることになるし、その仕組みを理解しておくことはインデックス投資のみならず株式市場全体に対する理解を深める上でも極めて重要である。以下ではA. 指数の銘柄組み替え B. 日銀のETF購入 C. ETFの配当再投資と分配金の売りについて解説する。

A. 指数の銘柄組み替え

たとえば日経平均225銘柄は日経新聞社が選定し、定期的にその銘柄の入れ替えが行われる。これは多数のインデックスパッシブファンドが存在するがゆえにマーケットに大きなインパクトを与え、それゆえ注目すべきイベントとなる。たとえば日経平均に1%のウェイトを占める銘柄Aが除外されることになったとしよう。日経平均に連動するパッシブファンドの運用額が50兆円だとすると、銘柄Aは日経平均から除外される日の引けで50兆円 x 1% = 5000億円分も売られることになる。そして新しく採用される銘柄のウェイトが仮に0.2%だとすると、その新しい銘柄が2000億分買われ、残りの224銘柄が指数のウェイトに従って3000億円分買われる、という機械的なオペレーションが発生する。銘柄入れ替えによって日経平均自体の値は変わらないが、その銘柄組み替えは除外銘柄と採用銘柄にパッシブファンド由来の大きな需給を生むのである。

B. 日銀のETF購入

日銀は金融市場の安定を図るためにETFを継続して購入することを公表している。毎日、日経ETF、TOPIX ETF、JPX ETFやそれからリートETFなどさまざまな銘柄を購入しているが、とくにマーケットが大きく下落した際にはそのときのマーケット環境に合わせて500-2000億円分のETFを購入することもある。その詳細なルールや購入基準についての考察は別の記事に譲りたいが、これも日本の株式市場を支えている主要なイベント/需給のひとつと間違いなくいえるだろう。

C. 配当再投資と分配金の売り

ETFはその連動指数とのトラッキングエラー(指数に正確に連動しないこと)を避けるために、ETFが所有する現物株からもらえる配当金について特殊なオペレーションをする。それが配当再投資と分配金の売りである。結論からいうと3月、9月末の主要な現物株の配当落日にETFは配当が落ちた分だけ先物を買い、ETF自体の分配金基準日(その多くは7月の第2週に設定されている)に3、9月に受け取った配当を実際に投資家に還元するために自身のファンドの一部を取り崩してマーケットで売り、分配金支払いのために現金化する。したがって3、9月末はマーケットが強含む傾向にあり、逆に多くのETFの分配金基準日が控える6月末から7月の2週目にかけては日本株は弱含む傾向にある。これも多くの投資家にとて既知の主要なマーケットイベントであり、いまや日本の株式市場のひとつの季節性とまでいえるほどになった。実際によく新聞等に書かれる「短期筋」を含む多くのマクロヘッジファンドはこの需給の歪みを逆手にとってリスクをとりお金を儲けている。その具体的なメカニズムと実際にとられているトレードアイデアについてはこれも別の稿にゆだねたい。

以上にETFについての基本とそれが株式市場全体に与える影響について簡単に解説した。次稿では実際にETFの分配金の仕組みについてより詳しく記し、また実際に個人投資家がETFを取引するにあたって気をつけるべき事柄/リスクについて述べるつもりである。

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