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ETF入門② - ETFで本当にインデックス投資できていますか?

ETF入門①ではETFの諸性質とともになぜそれが個人投資家にとって扱いやすいものなのか、またETF投資が拡大することによって生まれてくるマーケットインパクトについて説明した。

本稿入門②ではETFについてさらに掘り下げて、ETFを保有することによる配当リスクやそもそもの指数連動リスク、さらには個人投資家が市場効率的に(=ぼったくられることがないように)ETFを取引するための制度、最後に機関投資家のETFの取引について説明しようと思う。これを読み終えた頃には読者はETFの基本的な知識についてはマスターしており、十分にその利便性を活用しインデックス投資ができるようになっているだろう。

1. 分配金の希薄化と濃縮化

ETF入門①でETFを保有することにより連動指数が受け取る配当をそのまま受け取ることができることは説明した。しかしながら日本の現物株であれば、3、9月の年2回に渡って支払われる配当がETFでは7月の分配金落ち日に当の銘柄を保有している投資家に対して年一回支払われるのであった。このタイムラグにより分配金の希薄化/濃縮化という現象が生じる。簡単のため日経平均の利回りを1.5%、ファンドの運用額を100億円と仮定しよう。このファンドが7月の分配金落ち日から次の分配金落ち日までのあいだに受け取る実際の配当は1.5億円である。つまり次の分配金落ち日に支払う分配金の総額が1.5億円ということになる。しかしながらたとえば4月に多くのETFの設定が入り、ファンドの運用額が2倍の200億円になったと仮定しよう。そうであったとしても分配金の原資は1.5億円しかないから、当のファンドの利回りは1.5%(1.5億円 vs 100億円)から0.75%(1.5億円 vs 200億円)に下がってしまうことになる。このように配当が落ちた後にETFの申し込みが入り、1口あたりの分配金受取額が減ること=利回りが下がることを分配金の希薄化という。

その逆に配当が落ちた後にETFの解約が入り、口数が減れば分配金の原資は変わらないにも関わらず、それを分ける口数は減る訳なので、1口あたりの分配金は増えることになる。これを分配金の濃縮化という。

ここまで聞くと分配金の希薄化は投資家にとってマイナスで濃縮化がプラスであるように聞こえるかもしれないが実際はそうではない。なぜならば、分配金が1口当たりどれだけ支払われるか、それを含めた公正な価格で分配金落日に各々のETFは取引されるからである。通常株価というものは、配当落日にその分だけ株価が下落するが、分配金の希薄化が起こっているETFに関してはその下落分が小さく、濃縮化が起こっているETFに関してはその下落分が大きいというだけである。ここに生じるリスクは「どれだけETFから現金を受け取れるかが変わるリスクがある」ということであって、全体としての経済的利益/損失に関するリスクがあるわけではない。

2. 連動指数に対するトラッキングエラー

実はETFはその運用額をそのまま連動する指数の現物株バスケットで持っているわけではない。ETFがどのような中身のリスク資産をもっているかは東証のホームページにて確認できる。

もちろん運用額のうちのほとんどで現物株のバスケットを保有しているが(そうでないと原資産に連動しない)、1%や2%を現金や先物で持っていることがある。それには細かな業務上の理由があるのだが、たとえば1バスケット分である6億円に満たない運用分は現物ではなく先物で運用せざるをえない。多くの読者がご存知の通り、先物は現物に対して金利と配当のリスクを含む。細かな事情やリスクについての説明はここでは省くとして、そのような小さな指数連動に対するトラッキングエラーのリスクもETFは内包していることに気を付けておくとよいだろう。

3. マーケットメイキング制度とは

ETFはたしかにインデックス投資をするのに非常に便利だが、一方でインデックスはライブで常に動いているため、公正な価格で取引するためにはその動きにぴったり合わせた売値と買値が十分な量存在する必要がある。そこで東証は指定した金融業者に売値と買値を一定の幅で両方出し、市場に流動性を提供してもらう制度であるマーケットメイキング制度を導入している。この制度によって個人投資家は安心してフェアな価格で、しかもライブのインデックスに対してETFの売買ができるのである。

マーケットメイキング制度に参加しているマーケットメイカーは流動性を提供する対価を手数料としてまず東証からもらっている。加えて、売値は本当のフェアよりも少し高く、買値は本当のフェアよりも少し低いためこのフェアと売値/買値の差分もマーケットメイカーの利益となる。彼らは投資家にETFを売ると/買うとそのヘッジとしてすぐさま先物を買う/売ることによってマーケットメイキング制度への参加からもらえる手数料と売値/買値に由来する手数料の両方を収益とすることができるのである。

4. 機関投資家のETF取引

ETFは個人投資家のみならず銀行、保険、年金や信金といった機関投資家によっても多くトレードされていることはすでに述べた通りだが、実は彼らは「3. マーケットメイキング制度とは」で述べたマーケットメイキング制度によって提示されている売値/買値で取引をするのではない。あくまでもマーケットメイキング制度は個人投資家が安心してインデックスを公正価格で取引できるようにするための制度であり、多くとも数億円ほどしか流動性がない場合が多い。そこで機関投資家は証券会社と相対あいたいで取引をするのが基本である。たとえばM銀行がN証券に対して300億円分の日経平均連動型ETFを買いたいと申し入れるとする。N証券はM銀行に対して、ETFを受け渡すコストや自分たちの手数料を加味して売値うりねを伝える。もしM銀行がその売値で買うと決めたなら、N証券はすぐさま日経平均先物を300億円分買い、ETFの売りをヘッジする。こうしてM銀行はN証券に対して少しの手数料を払い、相対取引あいたいとりひきにてETFを購入する。

このような大口取引の情報は実はBloombergやロイターといったベンダーによって毎日提供されている。もし読者がこういったベンダーにアクセスがあるならば、それらの大口取引の情報をチェックすることにより大きなマーケット参加者の相場観を掴むことができ、すなわち株式市場のトレンドを把握する鍵になるかもしれない。

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