取引先との価格交渉の現場で使える”会計”(2-4 続)
こんにちは。松本充平です。
会社のなかで、社長や幹部だけでなく、営業マンやパートさんでも、数字を意識することは大事だと思っています。楽しく仕事をしながらも、自分の働きが、どう会社の利益に関係するか、影響するか、それが少しでも見えると、やりがいにもつながるはず。そして、会社にとっても、従業員みんなが同じ方向を向くきっかけにもなると思うのです。社内のみんなが同じ方向を向いて動くほど、大きなパワーはないのではないでしょうか。
前回から、「損益分岐点」をテーマにお伝えしています。
今回は、取引先との価格交渉の現場で使える”会計”ということで、
「2−4直接原価計算なら“損益分岐点”もカンタン」、こちらの続編です。
早速ですが、
あなたは、ある会社の営業マンです。
以下のような”得意先との価格交渉の場面”を想像してみてください。
得意先との月一の打ち合わせで、先方の購買担当者と話をしています。この得意先(AB商事)は、あなたの会社の商品を毎月@300円で、100個買ってくれています。
先方購買担当者「今月は、いつもの2倍、200個買うから安くしてくれないか。」
あなたは、この場で返事を求められています。あなたは、1個あたり何円まで値下げしますか?
これを考えるにあたり、その他の前提条件は以下の通りです。
現状、AB商事は、毎月@300円で100個買ってくれています。
この商品の原価Vは@90円。したがって粗利Mは@210円ということです。ここまでが、上図の左半分の内容です。上図の右半分は、その結果、AB商事に対して、月間売上PQが30,000円、原価VQが9,000円、粗利MQが21,000円ということになります。
今回、AB商事の購買担当者は、意気込んで、いつもの2倍の200個を買ってくれるとのこと。いつもお世話になっているお客さんに、なるべくなら少しでも値引きをしてあげたいと思うのが、心理ですね。
あなたならどうしますか?
いつもの2倍買ってくれるから、単価をいつもの半分の@150円まで下げますか?
ちなみに、現場での突然の価格交渉なので、仕入れ値(原価V)の値下げはできない前提で話を進めます。
あなたの答えはどうですか??
こんなときも、合理的に判断する方法があります。
まず結論です。
1個あたりの売値、つまり売価Pは195円がデッドライン!これ以上売値を下げるのはNG!
なぜなら、単価Pを195円未満にしてしまうと、ふだんの100個の販売時よりも儲け(粗利MQ)が少なくなってしまいます。せめてふだん100個販売しているときよりも儲けは上げたい。
計算過程を説明します。
0 考え方として、MQ会計表の図(以下、マトリックス)の右側の粗利MQ21,000円は、ふだんの100個販売時の儲け。これは絶対、死守する。これを粗利MQの下限とします。
目標:仮に200個販売時に粗利MQが21000円になる場合の売価Pを求める。
1 粗利単価Mの計算・・・マトリックス右側のMQが21,000円のとき、販売数量Qが200個であるとするなら、
MQ21,000円 ÷ 販売数量Q200 = 粗利単価Mは105円(マトリックス左側)
2 仕入れ値は下げられない前提で考えるので、200個の販売にあたっても1個当たりの原価Vは、そのまま90円(マトリックス左側)。
3 マトリックス左側の原価Vと粗利Mがそれぞれ90円と105円に決まる。売価Pは原価V+粗利Mなので、
求めたい売価P = 原価V90円 + 粗利M105円 = 195円
これが、200個販売してもふだんの粗利MQ21000円を下回らないぎりぎりの売値ということになります。
これもひとつの”損益分岐点”です。
このときのマトリックスは👇
マトリックス左側のP,V,Mがそれぞれ決まり、200個販売時の売上PQは39,000円で原価VQは18,000円であることもわかります。上図では変更していませんが、原価率、粗利率も変わります。
このことからわかるのは、仮に販売数量Qを2倍にしても、売価Pを半分にしてしまっては、大損になるということです。
得意先がいつもの2倍の数量買ってくれるからといって、安易に値下げをするのが怖いことがわかります。2倍の数量買ってくれるからといって、売値を下げすぎると、売上総額は上がっても、利益を見ると大損しているということになりかねないのです。
こんなふうにMQ会計表が使えることがわかっていただけたでしょうか。
もちろん、価格交渉の現場で、とっさに損益分岐点売価Pを、ぴたっと計算できるようになるには、カンタンではないと思います。ただ、こういう事例をいくつか想定して電卓をたたいてみるだけでも、「半額はまずい」とか、安易な値引きは利益に大きく影響してしまうことは感覚として身に付くはずです。
ぜひ、自社のMQ会計表でシュミレーションしてみてください。
今回はここまでです。ではまた、次回の記事で。