商品の売値の決定は慎重に。とくに値引きは細心の注意を払って。(4-2)
こんにちは。そして、こんばんは。松本充平です。
さて、さっそくですが、あなたは、あなたの商品やサービスの値付け(売価)について、どれくらい真剣に考えていますか?
もちろん、あなたのビジネスの商品やサービスですので、「だれよりも一番に自分が考えている」という自負があるかもしれません。
この記事をみて、あなたがどれくらい真剣に捉えているか、もしくは、丁寧に考慮しているか、売値に対する感度がわかるはずです。
「あぁ、自分の値付けに対する考え方はまだ甘かった!」
と思うか、
「うむ、充分丁寧に値付けのことを考えられている。」
と感じるか。ぜひ、参考にしてみてください。
まずは、前提の知識として、経営上の損益の各要素について。
図1-1
いわゆる、損益計算書は、売上から原価を引くと粗利。さらに粗利から固定費を引くと、利益。という構造ですが、それを図式にしたものがこの図1-1です。
ただ、経営戦略上は、これに数量Qを考慮することが必須になります。
この数量Qを図1-1に加えると、
この「MQ会計表」となります。図1ー1に付け加えたのが、数量Qと左端の「単価」の箱です。
売上 = 売価 ✖ 数量
原価 = 仕入単価 ✖ 数量
これを表しているのが、このMQ会計表です。これの詳しい解説はこちら。
そして、この損益の構造は、6つの要素で表現されます。
売価・・・Price
仕入単価・・・Valiable cost
粗利単価・・・Margin
数量・・・Quantity
固定費・・・Fixed cost
利益・・・Gain
このMQ会計表、とくに仕入単価Vについては、数量Qに直接比例するものを原価Vととらえています。この直接原価計算についての解説はこちら。
ここまでを前提として、具体的にMQ会計表に金額を入れて考えていきます。
図1-2
とある会社のあるひと月の実績が、この図1-2のような金額だったとして、
この月の実績では、利益Gが2,000出ています。
ここからが本題です。
この現状の「利益G」にもっとも大きく影響をあたえる要素は、つぎのうちどれでしょうか。
P (売価)
V (仕入単価)
Q (数量)
F (固定費)
答えは、冒頭で、売価について触れているので、もちろんP(売価)です。
ここでは、もっとも利益Gに影響する要素がP(売価)である、ということが言いたいわけではありません。
他の要素にくらべて、その影響度合いがどれほど大きいかということです。
これを数字で測ることができます。
図1-2において、月間の利益Gが2,000あったわけですが、もしも、この利益G 2,000が0になってしまう場合を想定します。
P(売価)が下がってしまって利益Gが0になるケース
V(仕入単価)が上がってしまって利益Gが0になるケース
Q(数量)が下がってしまって利益Gが0になるケース
F(固定費)が上がってしまって利益Gが0になるケース
それぞれを個別に試算してみます。
利益Gが2,000 → 0円 になってしまうとしたら、
P(売価)は、500 → 460 すなわち 8.0%減
V(仕入単価)は、300 → 340 すなわち 13.3%増
Q(数量)は、50 → 40 すなわち 20.0%減
F(固定費)は、8,000 → 10,000 すなわち 25.0%増
これらのパーセンテージの数字が何を意味するか。
それは、各要素の利益に与える影響の敏感さ、すなわち、利益に対する感度です。
この図1-2の例においては、P(売価)は、わずか8.0%減少しただけで、利益が0になってしまう。
一方、F(固定費)は、25.0%も増加してようやく利益が0になる。という結果なのです。
つまり、太字で示したパーセンテージの数字が小さいほど、少しの変化で大きな影響が利益に及んでしまうということです。
すなわち、P(売価)は、他の要素のなかでも、利益Gに対する感度がダントツで高いということ。
さっきの想定とは逆に、現状の利益G2,000から10%アップの2,200にしたい場合を想定すると、
もっとも感度が鈍いF(固定費)を削減する場合は、200の固定費を削減(8,000→7,800)する必要がありますが、もっと感度が高いP(売価)なら、わずか4アップの500→504に上げることで達成できるわけです。
このP(売価)を上げることの効果は、わずかでも利益Gアップに効果絶大だということです。
全商品ラインナップのP(売価)を1%値上げし、赤字から黒字へ転じた例もあると言われます。
あなたの、利益に対する売値の感覚はどうでしょうか?
「あぁ、自分の値付けに対する考え方はまだ甘かった!」
と思ったでしょうか。
「うむ、充分丁寧に値付けのことを考えられている。」
と感じたでしょうか。
いずれにしても、自社の商品ラインナップを直接原価計算に置き直して、各要素の関係性をチェックしてみることをおすすめします。
競合商品群のなかで、自社の商品ポジションをチェックし、最適なP(売価)の設定が出来ているか確認してみてください。
P(売価)アップがわずかでも可能かどうか、アップした場合のシュミレーションも、上記のMQ会計表でやってみてください。
わずかコンマ数%の値上げでも、予想以上に利益Gは大きくなる可能性があります。
値上げにより販売数量Qが減少することも予想されますが、値上げによる販売数量の減少幅のデッドラインもシュミレーションできます。
販売数量Qよりも売価Pのほうが利益感度が高いため、少々の販売数量Qの減少となっても、Pアップにより利益Gは増加することは充分にあり得ます。
前回の記事のテーマで書いた「販売数量Q」以外にも、重要な要素があります。それがP(売価)とV(仕入単価)です。
今回は、P(売価)について書きましたが、P(売価)の次に感度が高いV(仕入単価)についても、検討の価値があります。
V(仕入単価)ダウンは、顧客に対して何のアプローチもせず、粗利M、および利益Gを上げることができます。
また、さきほどお話ししたように、P(売価)の利益Gに対する感度は各要素の中で最大です。下げるも上げるも細心の注意が必要です。わずかな値上げでも利益Gに影響するのと同様に、値引きや値下げも利益Gに大きく影響するのです。安易な値引きや値下げはNG。
あなたが思っている以上に、わずかな変化でも利益Gに影響するのがPです。
値上げできない最大の理由は、言うまでもなく客離れ、Qの減少の怖さです。
しかし、Pをうまく上げることができれば、Qが減少しても、もっと言えば売上PQが減少しても、結果、粗利MQは増加します。
Pアップ、すなわち「値上げの目的」も、言うまでもなく粗利MQの増加です。売上は上がろうが下がろうが関係ありません。※粗利MQについての記事はこちら。
今回ご紹介した、各要素の利益Gに対する感度の測定は、「利益感度分析」と言われます。以前にもご紹介している、『会計はなぜマトリックスがいいのか?』西 順一郎、宇野 寛(税務経理協会,2005) こちらの本もぜひ、ご参照ください。
今回はここまでです。
あなたの事業経営の参考になれば幸いです。また次回お会いしましょう。