現場で使える”会計”でないと。難しくて使えないものは意味がない。(2-4)
こんにちは。松本充平です。
簿記3級の勉強でも出てくる”損益分岐点”。最近の簿記3級の本なら、まだ少しはわかりやすいと思う。でも、少し専門的な会計の本でみると、もうよくわからん。
でも、本来、簿記っていうのは、商売のためのものじゃないのか。いつのまにか学問みたいになって、会計学になり、一般の人には敬遠されるようなものになっている。そう思うのは、ぼくだけだろうか。
ただ、そんな学問のような小難しいものではなく、現場で使える”会計”もある。やはり、それは直接原価計算によるMQ会計表だ。
経営者だけでなく、営業マンでも使えて、価格交渉の現場でも使える「損益分岐点」が、ある。
ということで、今回は、「損益分岐点」がテーマです。
2−4 直接原価計算なら“損益分岐点”もカンタン
前回の、2−3 原価率と粗利率 はこちらから。
今回は、前回につづき、この粗利率も登場します。
そもそも、
”損益分岐点”とは、一般的には「損益分岐点売上高」をさします。
■ 損益分岐点売上高 とは?
では、「損益分岐点売上高」ってなにか。
売上は売上でも、「利益が0円」のときの売上のことです。
もうすこし、具体的に言うと、
事業をやるときには、いろいろなランニングコストがかかりますが、それをまかなうだけのもうけがないと、事業は継続できませんよね。
たとえば、月々100万円の売上なら、仕入代ひいて、家賃と給料を払っても、お店には利益がちゃんと残る。でも、もし今後なにか(コロナ?!)の影響を受けて、売上が減ってしまうとしたら、どれくらいまで売上が下がっても大丈夫なのか。気になる…
計算してみると、月々70万円なら、仕入代をひいたあとにすれすれでなんとか、家賃と給料を払いきれる。そして利益は0円。
このように、利益は残らないが、赤字ではない、というぎりぎりのラインの売上高のことを、「損益分岐点売上高」といいます。
事業をやっていく上で、自社の損益分岐点売上高は、ひとつの指標になります。『最低限、今月も、損益分岐点は達成したい。』というように。
では、例のごとく、直接原価計算のMQ会計表で、計算方法をみてみましょう。
まずは現状把握。
あるお店の、
平均的な月間の売上PQが30,000、原価VQが9,000、粗利MQが21,000、固定費Fが20,000、利益Gが1,000だった。
ちなみに、数量Qは100、粗利率(M率)が70%
この利益G「1,000」が⇒「0」になるとき、
上図の右下、利益Gの箱がぺしゃんこの「0」になる。その状態というのは、粗利MQが21,000から1,000減って、20,000になっているとき。
だから、固定費F20,000を差し引くと利益が残らない。下図のように。
つまり、 粗利MQ = 固定費F
これが、赤字すれすれ、利益0円。
■ 損益分岐点売上高 を 計算してみる
さて、ここで粗利率が登場。
前回お伝えしましたが、粗利率とは、売上に対する粗利の割合。
このお店では、売上が100のとき、粗利が70ということ。
では、粗利が20,000のときの、売上は?
20,000 ÷ 70% = 28,571
つまり、このお店、利益が0になってしまうときの売上は、28,571 である!この、28,571 という金額が、このお店の損益分岐点売上高ということ。
前回と同様、図でみるとカンタンですね。
(上の図で、原価VQの9,000は変更していませんが、8,571になります)
カンタンすぎて、拍子抜けしませんか?!
そこで、もう少し+αの話もします。
■ 売上は、単価Pと数量Qの2つから成り立つ、に立ち戻ると
さて、以前もしつこいくらい言いましたが、売上は、たんに売上というより、PQと言うと良い。とお伝えしました。(その記事)
とすると、損益分岐点売上高は、損益分岐点PQなのです。
ふたつの要素をいっぺんに考えるとあたまがパンクするので、さっきの前提で考えてみます。
ーーーふだんなら30,000くらいの売上PQは毎月あげることができる。でも、なにかの影響を受けて売上PQが下がってしまうかもしれない。ーーーー
こんな場面においては、売上が下がる要因は、数量Q、つまり客数(または販売数量)だと想定します。
(もちろん、業種によって、客単価Pもさがるでしょうが、PかQかどちらか固定して順番に考えないとシュミレーションは難しい)
つまり、ーーーふだんなら30,000くらいの売上PQは毎月あげることができる。でも、なにかの影響を受けて数量Qが下がってしまうかもしれない。ーーーー
この売上PQ 30,000⇒28,571(損益分岐点売上高) このときの数量Q(客数)は、100からいくらへ減ったときか、と捉えることがより具体的な分析になります。
すなわち、このとき、損益分岐点は、
損益分岐点売上高 ではなく、損益分岐点数量Q となるのです。
利益がプラマイ0 になるときの数量Q(客数)はいくらか。
ということです。
■ 損益分岐点数量Q
ふだんの売上30,000のときの数量Qが100である。仮に利益0になるときの、売上は、28,571 だとわかった。さらに数量Qは、いくらのときなのか?(数量Qはいくら下がると利益は0になってしまうのか) とここまで考えると、より具体的になります。
結論いきます。さきの例のお店が、利益0になってしまうときの売上は28,571 そして、そのときの数量Qは、95
ここでの前提として、売上減少のとき、売上単価Pは変えませんので、左端の箱のP300をつかえば、数量Qが100 ⇒ 95 になることは計算できます。
上図では、左半分の単価P、V、M、数量Qの箱を隠していました。
単価と数量まで見ることで、損益分岐点はより深くなります。これも、直接原価計算のMQ会計表だからこそ。
■ まとめ
・損益分岐点売上高とは、利益が0のときの売上高である。
・利益が0のときとは、粗利MQと固定費Fが同じ金額になるときである。(稼いだ粗利MQが、すべて固定費Fで消えてしまうということ)
・MQ会計表の”箱”で見れば、小学校の算数の知識で計算できる。
・損益分岐点は、売上だけでなく、もう少しつっこんで、損益分岐点Q(または損益分岐点P)まで見ることで、より具体的になる。
ここから、「取引先との価格交渉の現場での使い方」に話を進めるつもりでしたが、長くなるので、次回にします。
今回はここまでです。
次回は、続編ということで、この損益分岐点の考え方を、取引先との価格交渉の現場で使う方法についてお送りします。
それでは、また次回の記事で。