【プリズンライターズ】本と宇宙人になったカエル・書評 Vol.2「あなたを愛してから」

こんにちは！今､ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が､連日新聞やＴＶによって放映され大変な事態になっています。ただでさえ､世界中で新型コロナウイルスが猖獗をきわめ〝世界的経験〟を余儀無くされている中､それが霞んでしまう様な大惨事に心が痛みます。

　人の命を奪った犯罪者が､何を言ってるんだと思われても仕方ない事は理解していますが､こんな平和な日本の刑務所でぬくぬく無期懲役として無駄に生きているなら､いっその事ウクライナの為に支援兵にでもなりたいし､替われるものなら露軍によって命を奪われた子供に､私の命だけでも替えてあげたいと本気で思います。

　ＮＡＴＯや米国の動きによっては〝第三次世界大戦〟の引き金にもなりかねないという状況は､まるでクランシーやグリーニーの小説の世界であり､まさか現実になるとは夢にも思いませんでした。小説ならば､主人公がプーチン大統領を暗殺して､戦争からウクライナの危機を救って終わるのでしょうが……。

　そんな冒険小説の類いは数多く読んで来ましたが､今はフィクションなどではなく､リアルなウクライナ情勢や､この大惨事を引き起こした､暴君プーチンの末路に強い関心を抱いています。ただ､あれも読みたい､これも読みたいといった気持ちはあるのですが､関心とは裏腹に最近急激に読書量が落ちてしまい困っています。平和な悩みです。

　以前までは月に１０冊前後の本を読んでいましたが､今はその半分。原因は目の衰えです。現行犯でしか捕まえることが出来ないし､やりたくてももう出来ないので正直に話しますと､実は私が本を読んでいたのは､専ら就寝時間になってから､暗闇の中僅かばかりの常夜灯（滅灯）の明かりだけを頼りに毎日２～３時間､没頭すれば朝までなんて事もありました。懲役用語では〝闇本〟とか〝闇読〟なんて言い､れっきとした規律違反で､バレれば取調べや懲罰の対象となりますので､目と頭は物語の中､耳は看守の足音に全集中して読書してました。

　しかし､歳でしょうか､老眼が進みもう闇読が出来ません。とは言えそれでも老眼鏡をかけて闇読をチャレンジしましたが､枕で老眼鏡の柄が顔に喰い込み痛いのなんの！泣く泣く断念しました。それからというもの違反はせずに日中､ＴＶや勉学の時間を削って老眼鏡をかけて読書しています。悪いことはやめろってことですね。〝老眼鏡〟と言えば…今は〝お手元メガネ〟って言うんですか？先日ＴＶで藤原紀香が言ってました！今はもう〝お手元〟離せません。（笑）

　では､今回はデニス・ルヘインの「あなたを愛してから」を紹介します。

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『あなたを愛してから』　　デニス・ルヘイン

　レニー・ウェルチの名曲〝Ｓｉｎｃｅ　Ｉ　Ｆｅｌｌ　ｆｏｒ　ｙｏｕ〟が原題の元になったという。多くの歌手がカバーし､二百以上のバージョンがある。この悲しい歌に全てが象徴されている本作「あなたを愛してから」は､冒頭一行目から､主人公レイチェルが最愛の夫を撃ち殺すという超弩級のサスペンスである。

　父を知らず､破天荒な母に育てられたレイチェルは､母の死後､僅かな情報だけを頼りに父を捜し出すのだが､やっと掴んだ真実は彼女の心に残酷な傷を刻んだだけだった。

　一時はジャーナリストとして活躍し､幸せな結婚生活を送るが､栄転をかけたハイチ大地震の取材で出会った､二人の少女を､自身が下した判断によって救えなかったという苛酷な体験がトラウマとなり､レイチェルの精神は蝕み､何もかもを失ってしまう。

　絶望の淵を彷徨う彼女にも､アリアドネの赤い糸ともいえる運命的な出逢いが待っているのだが､同時にそれは､予測不能な悪魔のスパイラルの始まりでもあった。

　怒濤の進展を見せ，息をもつかせぬ新たなルヘイン・ワールドは､レイチェルの激しい心音が聴こえてくる一方､ルヘイン特有の瀟洒なエッセンスや叙情が随所に用意され､ペーソスのある作品なのだ。特に､人物造形の表現力と､あらゆるイメージを喚起する文章力が素晴らしい。

　物語は勿論のこと､味わい深い余韻の残る結末に､誰もがルヘインの魔力に魅了されるはず。

■「あなたを愛してから」デニス・ルヘイン　
早川書房ポケットミステリー