コロナ禍の混乱・原材料高騰で業績低迷、有機ELディスプレイJOLED経営破綻へ 経産省の全面バックアップもむなしく
有機ELディスプレイ事業を主軸とする日本の企業JOLEDが27日に民事再生法の適用を東京地裁に申請した。
経産省・政府全面バックアップの国策会社JOLEDの全貌とは?
同社は2015年にジャパンディスプレイと有機EL事業から撤退したソニーやパナソニックの有機ELディスプレイパネル事業を官民ファンドの産業革新機構(INCJ)の出資のもとで統合してある種の国策会社として設立、2019年には世界初の印刷方式量産ラインを稼働していた。
新型コロナ・経営計画のミスで赤字が拡大、債務不履行へ
ところが2019年以降の新型コロナウイルスに伴うパンデミックの影響で半導体などの部品のサプライチェーンに混乱が生じたことや原材料が高騰したことや前述の生産ラインの構築に想像以上のコストで赤字が発生したことや稼働までに時間がかかったことなどで、経営状況が悪化した。
東京商工リサーチの記事によれば、2021年3月期の売上高は59億800万円、2022年3月期の売上高は売上高56億5500万円と減収、239億2600万円の赤字となり、同期末には利益剰余金はマイナス1197億8700万円におちいり、債務超過に陥っていた。
このままでは工場などの閉鎖に関わる撤退費用さえ捻出できなくなると判断し、民事再生への手続きを決断した。負債総額は337億円であるという。
有機ELディスプレイは価値ある技術だが…製造コストがネックに
有機ELディスプレイは、バックライトで光を当てることで映像を映し出す通常の液晶のディスプレイと比べて、ディスプレイ自体が発光するので、美しい映像表現が可能な点や軽量化できる点など様々なメリットが多くあったものの、製造コストがかさみ本体の価格も液晶よりも割高でなかなか市場で受け入れられてこなかったことも業績不振の背景にある。
同様の例でいえば、記憶媒体の光学ディスクの市場でもBD(ブルーレイディスク)は高価であったためあまり広がらず、結局世界的にはDVDの方が依然主流だ。もはやデータの保存に関してはDVDなどハードへの保管よりもクラウドやネット上の保管サービスやが主流になりつつある。
同日JOLEDはジャパン・ディスプレイとスポンサー契約を締結し、ジャパンディスプレイから技術開発ビジネスを受けることで同意したものの、ディスプレイの製造と販売事業から撤退する。
本社社員が380人おり来年にかけて280人を解雇する方針だという。また3月中に能美(石川県)と茂原(千葉県)の工場での事業を停止し、閉鎖する予定だ。
政府系ファンドのICIJ(旧産業革新騎行)などを通じ日本政府および経産省は融資や出資など総額約1390億円を費やしてきた。
政府系ファンド1390億円融資・出資で全面支援も経営破綻、西村経産相「非常に残念」
西村康稔経産相は28日の記者会見で「有機ELディスプレーの分野で国際的な競争優位を確立するために支援を行ってきたが、技術的な課題や他国の競合企業の台頭などさまざまな要因でこうした結果になったことは非常に残念だ」と述べた。また今後の事業再生に期待を示した。
政府系ファンドの資金の出どころは財政融資資金特別会計すなわち国債の発行に依拠するが、損失を被ったり融資先が債務不履行に陥った場合には税
金で補填しなくてはならず、事実上国民が負担することになる。
失敗のツケは国民に!?もう国が産業育成なんてできるわけない
政府や経産省は次の時代のディスプレイは有機ELと踏んで、わざわざ撤退しようとしていたソニーやパナソニックから製造部門を統合し、政府系ファンド出資のもとかつての「親方日の丸」の護送船団方式でうまくいくと考えたに違いないが、グローバル化や産業が多様化する中、もはやソ連の5か年計画のように国が産業をつくるのは明らかに不可能だ。唯一できることはスタートアップを税制面や制度面で支えて見えないところで見守ることで、国が産業をコントロールできるという幻想を捨て、「選択と集中」など捨て、幅広く企業を支援しそのなかからいくつかが世界的な大企業になるかもれない、そういった辛抱強い地道な産業政策が求められる。
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